SASE、プライベート5G、NaaSも追加――HPEのAruba事業トップに聞くこれからのビジネス戦略
「これで製品ポートフォリオは整った」HPE Arubaの変貌と次に目指すもの
2023年09月19日 09時00分更新
Hewlett Packard Enterprise(HPE)がAruba Networksを買収したのは2015年。当時、HPEはエンタープライズ事業として分社化の直前であり、新しい戦略を探る中でArubaを獲得した。それから8年、現在のArubaはHPEの売上の20%を占めるに至り、アナリストの中には「テック市場で最も成功した買収」という評価も出ている。
今回は、HPE Aruba Networkingが2023年9月11~13日、インドネシア・バリで開催した「Atmosphere '23 Asia Pacific & Japan」の場で、同事業を率いるHPE Intelligent Edge Business担当EVP兼GMのフィル・モットラム氏に、HPE Arubaの製品戦略、ネットワーキング市場のトレンド、競合、日本市場などについて話を聞いた。
――この2年で売上が倍近くになるなど、HPE Aruba Networkingのビジネスは好調です。成長の背景について教えてください。
モットラム氏:HPE Arubaのビジネスはすべての地域、すべての業種で成長している。
製品の面で見ても、Wi-Fiアクセスポイント、キャンパススイッチ、SD-WANと、既存の製品ラインすべてで好調だ。アクセスポイントの累計出荷台数はおよそ2800万台、2年前に参入したSD-WANはすでに3600社の顧客を抱える。
新型コロナはDXの加速にも影響を及ぼしたが、それ以上にサプライチェーン問題で一部顧客の導入があと倒しになったことが大きい。ただし、現在はほぼ元どおりに戻ったと言える。
――製品戦略について教えてください。この1年間、活発な買収を行ってきましたね。
モットラム氏:ここ数年の間に、HPE Arubaは3つの新しい分野に進出した。
1つ目の分野は「データセンターネットワーキング」だ。ここではキャンパススイッチの「CX」ブランドを展開しており、最新の製品はディストリビューションスイッチの「CX 10000」だ。“縦方向(North-South)”だけでなく“横方向(East-West)”のセグメンテーションなどの特徴を持ち、製造業、教育機関、政府機関などで人気が高い。CX 10000はすでに1400台を出荷している。
モットラム氏:2つ目は「プライベート5G」。ここでは2023年にAthonet(アソネット)を買収した。
3つ目は「セキュリティ」、具体的にはSASE(Secure Access Service Edge)だ。最初にSASEを提唱したガートナーは、SASEの構成要素として「SD-WAN、ネットワークファイアウォール、ZTNA(ゼロトラストネットワークアクセス)、SWG(セキュアウェブゲートウェイ)、CASB(クラウドアクセスサービスブローカー)」としている。すでにHPE ArubaではSD-WAN、ネットワークファイアウォールは備えていたので、今年、残る3つを持つAxis Security(アクシスセキュリティ)を買収した。
モットラム氏:これらの3分野への進出は、ネットワーキング市場の変化に対応したものだ。企業ネットワークでは現在、ネットワーキングとセキュリティの融合が進んでおり、ここで重要になる要素はSASEだ。また、Wi-Fiだけでなくプライベート5Gが必要なユースケースが出てきている。Wi-Fiとプライベート5Gとでは技術的な特徴が異なり、プライベート5Gは屋外、倉庫、港湾、国防、製造業など、速度とカバーエリアが重要な場面に適しているので、両者は共存することになると見ている。
これらに加えて、NaaS(ネットワーク・アズ・ア・サービス)がある。ネットワーク技術を自社で導入/運用するのではなく、月額料金を支払ってサービスとして利用したいというニーズも強い。
こうした製品ポートフォリオを持つことから、HPE Arubaでは自身を“セキュリティファーストのネットワーキングベンダー”と位置付けている。
――NaaSの動向はどうでしょうか? 将来、市場のどの程度の割合を占めると見ていますか?
モットラム氏:2年ほど前にはNaaSが大きなトレンドととらえられていたが、最近ではその成長予測を下方修正するアナリストも出てきている。
その理由はさまざまな分析ができるが、ひとつには当時、NaaSのスタートアップが登場して“ハイプ(大げさな宣伝)”がなされていたと言える。一方で、われわれは顧客が必要とするものを提供していくという戦略なので、NaaSだけを大きくプッシュすることはない。「NaaSではなく、これまでの(自社運用の)スタイルでネットワークを導入したい」というのであれば、それももちろんサポートできる。
もうひとつ、IT市場における「アズ・ア・サービス」モデルは、まずパブリッククラウドのコンピューティング分野を中心に普及した。しかし、ネットワーキング分野は予算の立て方や購入方法がそれとは異なる。
たとえば、わたしは自分の車を所有しているが、それを誰かと共用しようとは思わない。その一方で、車を持たずに(レンタカーなどを)利用だけする人もいる。すべての人が1つのモデルを好む分けではない。
アナリストには「NaaSがネットワーキングの20%を占める」と予測する人もいれば、「5%にとどまる」という人もいる。その中間をとって「10%くらい」で落ち着くと見てよさそうだ。ネットワーク市場の10%というのは、かなり高い比率だと言えるだろう。
――企業ネットワークに関して、顧客はどのような課題を抱えているのでしょうか? VR/ARが今後業務に入ってくるなど、ネットワーク帯域を必要とするデバイスは増えつつあります。
モットラム氏:従業員でも来訪客でも、Wi-Fiがつながらないとかなり不満に感じる。そこで「ネットワーク体験」を管理することが重要になっている。
そうした変化に応じて、HPE Arubaでは「UXI(User Experience Insight)」として、ネットワークに繋がるリンクを個別に見ることで体験のレベルを測定する技術を提供している。
またネットワーク管理の重要性が高まる一方で、ネットワークの知識・スキルのある人材は不足している。「HPE Aruba Networking Central(Aruba Central)」では、AIを利用して問題を発見し、修正することができる。
――HPEのAruba買収はテック市場で「成功した買収」と言われていますが、成功の要因はどこにあったと分析していますか?
モットラム氏:Arubaを買収する前、HPEは自社でネットワーク事業部を抱えていた。買収を決断したアントニオ(HPE CEOのアントニオ・ネリ氏)は買収後、HPEのネットワーク事業をHEP Arubaの配下に統合した。もしこれが逆だったら(HPEネットワーク事業の下にArubaを統合していたら)、ここまで成功しなかったかもしれない。
事実、買収後もArubaの幹部たちは残り、ビジネス戦略を軌道に乗せた。現在のArubaはHPEの売上の20%を占めており、純利益では50%近くを占めている。
――HPEとのシナジーをどのように見ていますか?
モットラム氏:最も大きなものはプラットフォームだ。Aruba Centralは、およそ2年前から「HPE GreenLakeプラットフォーム」の一部となっている。ユーザーはGreenLakeのコンソールから、ストレージ、コンピュートなどと共に、ネットワークをプロビジョニングができる。
――SASE市場への参入に伴って、セキュリティ分野にもビジネスが拡大します。社内の体制や組織構造に変化はありますか?
モットラム氏:組織的な変化はないが、セールスの対象となる顧客担当者が変わってくる。これまでとは違い、CISOなどセキュリティ担当者と話をする必要があるため、そうした担当者と話ができる人間を採用している。
――SASE市場では、ネットワークベンダーともセキュリティベンダーとも戦わなければなりません。またプライベート5G市場でも、ネットワークベンダーや通信機器ベンダーが競合となります。そうした競合に対するHPE Arubaの強み、差別化ポイントを教えてください。
モットラム氏:他社にはないわれわれの強みとしては、共通プラットフォームのAruba Centralを持つことだ。アクセスポイントもスイッチも、すべての製品をここで管理できる。ユーザーはいくつもの管理プラットフォームを行き来する必要がない。
――今後の日本市場をどのように見ていますか?
モットラム氏:日本市場はネットワーキングで世界2位の市場だが、独自性も持っている。
ひとつめは、世界のほかの市場では見ないような古いWi-Fiプラットフォームを提供する競合が存在すること。2つめは、ITスキルを持つ人材が不足しており、マネージドサービスへのニーズが高いことだ。
1カ月半ほど前に日本を訪問し、多くの顧客やパートナーと面会したが、プライベート5Gへの関心が高いことを感じた。われわれが提供するプライベート5Gソリューションを、しっかり市場に訴求していきたい。
――最後に、あらためて今後の短期的な目標を教えてください。
モットラム氏:SASE、プライベート5Gなどを追加したことで、HPE Arubaの製品ポートフォリオは完成した。これからは営業活動などの戦略を実行する段階だ。当面はその戦略実行にフォーカスしていく。