2023年10月15日に、渋谷で「AIR RACE X(エアレース エックス)」が開催される。「エアレース」、つまり飛行機を使った競技だが、東京のど真ん中でどのようにして競い合うのだろうか。世界が注目するAIR RACE Xの仕組みや魅力、開催の背景に迫る。
パイロットの飛行データをARで映像化
これまでに行なわれていた「エアレース」は、実際に現地で飛行機を飛ばす形で開催されていた。しかし、AIR RACE Xでは、実際にその場所で飛行機を飛ばすのではなく、各パイロットは世界各地の拠点でフライトを行なう。そこで取得したフライトデータをAR(拡張現実)技術によって映像化し、開催地に投影する仕組みだ。
実際のフライトとARを融合させたレースフォーマットは「デジタルラウンド」と呼ばれており、6日間の予選と1日で行なわれる決勝トーナメントで構成されている。このうち、「デジタルラウンド決勝トーナメント」が渋谷を舞台に実施される。
観客はリアルメタバースプラットフォーム「STYLY(スタイリー)」のアプリケーションを用いたXRデバイスや、同アプリをインストールしたスマートフォンを通し、レースの模様を観戦することが可能。フライトコースは、渋谷の形状や実際に立ち並ぶビルを基に設計されている。そのため、イベント当日は本当に渋谷を飛行機が飛んでいるようなリアルな映像が楽しめる。
観戦は、当日設けられる専用スペースやパブリックビューイングスペースのほか、コースが見える範囲であれば、渋谷のどこからでもレースの模様を見ることが可能だ。
新しいエアレースの形を模索した結果生まれた「AIR RACE X」
AIR RACE X実施の背景について、同イベント発起人の一人であり、出場選手でもある室屋義秀氏は「新しいエアレースの形を模索した結果、現在のARを用いたエアレースという形になった」と話す。
室屋氏によると、2019年に「レッドブル・エアレース・ワールドチャンピオンシップ」の終了後は新しいシリーズが実施する予定だったが、残念ながら開催が頓挫。「このまま待っていてはエアレース自体がなくなってしまうという懸念があり、『それなら自分たちで立ち上げよう』と他のパイロットたちと考えた」という。
当初はこれまでと同様に開催地でフライトする仕組みを考えたものの、1戦するのに相当なお金が掛かるため、違う形での開催を模索。その結果、実際のフライトとデジタルテクノロジーを掛け合わせた新しいエアレースの開催が誕生した。
今回のイベントのポイントとなるのが、フライトデータを映像化し、渋谷の街に投影する「STYLY」の技術だ。STYLYを提供するXRの開発責任者である「Psychic VR Lab」の渡邊信彦COOによると、「『Geospatial』という、自分が世界のどこにいるのかを正確に測量する技術をGoogleが開放したのが大きな転機になった」と話す。
従来のARは、そこに何かを投影するだけで周辺の建造物などへの干渉はできなかった。しかし、「Geospatial」の技術を活用することで、都市単位で街の景色や建物の形状に合わせてデータを表示できるようになった。ここに、誤差数センチという高い精度でフライトデータを取得可能なセンサーを組み合わせることで、現実の市街地を飛行機が駆け抜けるリアルな映像を生み出すことに成功した。
世界で初めてのチャレンジ
渡邊COOは「AIR RACE Xは、飛行機を渋谷の街に飛ばすというエキサイティングかつ世界で初めてのチャレンジです。ゴーストの表示などデジタルだからこそできる仕掛けのほか、Web3コミュニティと連動させてベッティングの仕組みを整えるなど、これまでにない新しい取り組みも行う予定です。ぜひ期待していただきたいです」と話す。
また、室屋氏にもイベントの見どころを聞いたところ、「飛行機が渋谷のビルの合い間を飛ぶ景色をぜひ見てもらいたいです。また、エアレースは微妙な差で勝ち負けが決まりますが、デジタル化することで、その差が分かりやすくなっています。各パイロットのフライトの違いや解析データにも注目してほしい」とのこと。
今回は渋谷が舞台となっているが、本大会の仕組みを活用すれば、他の街や飛行機が飛ぶのが難しい場所でもエアレースを開催することが可能になる。また、別のスポーツへの応用も考えらえる。新しい形のスポーツの実施、また観戦の提供という意味でもAIR RACE Xは要注目のイベントといえるだろう。