最近書いた入魂のコラムが鳴かず飛ばずで、ボスに苦い顔をされているので、トリッキーなネタを持ってくることにした。コロナ禍でいろいろな方法でカレー作りをしてきたら、クラウドのレイヤー構造が説明できるようになったぞというネタだ。でも、最近のクラウド動向を理解するような意外といい話もあるので(自分で言うな)、がんばって読んで欲しい。
家でカレーを作るなら? コロナ禍で試した3つの方法
コロナ禍のテレワーク生活で家族に夕食を作る機会が増えた。育ち盛りの子どもは味が濃いモノが好きなので、カレーや中華料理は大人気だ。では、どうやってカレーや中華料理を作るか? まずはクラウドの説明に行く手前の、私がコロナ禍で試したカレー作りの話にお付き合いいただきたい。
もともと私は料理を全然しないので、家でカレーが食べたければレトルトだ。レトルトであれば、そもそも料理という行為が発生しない。湯煎するだけでOKだし、最近はパックのままレンチンできるレトルトも増えてきた。スーパーに行けば、おうち風カレー、欧風カレー、スパイスカレー、激辛カレー、ご当地カレーなど、いろいろなカレーが選べる。買ってきて、湯煎して食べるだけ。とにかく手軽だ。
とはいえ、家族分となると、カレーは作った方がいい。テレワークで会社への行き帰りがないので、時間的な余裕もある。そこで登場するのが、カレールーだ。野菜と肉を炒めて、煮込んで、ルーをまぜればできあがり。野菜や肉を切る手間はあるが、箱の裏に乗っている作り方をそのままなぞれば美味しいカレーができあがる。具を足したり、辛みを足したり、ある程度のカスタマイズも可能だ。自ら料理した感もあるので、多くのカレー作りのニーズはここまでで十分満たせる。
しかし、私のようなスパイスカレー好きは、どうしてもスパイスからカレーを作りたくなってしまう。あのお店のカレーをランチで再現できたら……、その日の気分にあわせてさくっとスパイスカレーを作れたら……、妄想が膨らんでくると、もはや家族は眼中にない。自らのスパイス欲を満たすために、スパイスを購入して、テンパリングを始め、タマネギを炒め、ルーを作る。当然、スパイスは余るが、好事家は新しいスパイスをどんどん追加してしまう。まさに沼だ。
レトルト、ルー、スパイスカレー カレー作りはクラウドに似ている?
勘のいい人はすでに理解していると思うが、このカレー作りの3つの手法は、そのままクラウドのSaaS、PaaS、IaaSのレイヤー構造に当てはまる。
まずレトルトはSaaSだ。レトルトであれば、なにしろ買ってくれば、カレーが食べられる。SaaSもSoftware as a Serviceという名前の通り、開発という行為なしで、サービスをすぐに利用できる。「導入までとにかく短期間で」というニーズに対して、レトルトと同じく、すぐに使える(食べられる)というメリットはきわめて大きい。
カレールーは半完成品であるPaaS(Platform as a Service)に当る。自らの手でアプリを組みあげることができ、ある程度カスタマイズできるところも、まさにカレールーである。kintoneを筆頭として最近ノーコード/ローコード化しているので、開発者でなくても、アプリが作れる。つまり、ノーコードでアプリを作れるようにリスキリングした人は、レトルト派からルー派になるくらいの大きなシフトということだ。野菜を切ったり、具材の値段を知ったり、カレーの中身を知るという観点でも、ルーでのカレー作りは重要だ。
最後のスパイスでのカレー作りはIaaS(Infrastructure as a Service)に例えられる。自分でルーを作るので、自由度はめちゃくちゃ高い。しかし、スキルとセンスが要求される。サーバーやネットワークが簡単に調達できるという意味では、IaaSのメリットはクラウドと同じだが、結局はアプリを開発する必要があるため、構築に時間がかかる。これもスパイスカレー作りと似ている。
全然聞かれてないと思うが、実は私も何回か試して、スパイスカレー作りをあきらめたくちだ。手間と時間がかかりすぎ、おまけに食べたいカレーにならないので、結局ルーでのカレー作りに戻った。なにより「S&B ゴールデンカレー ザ・スパイス」や「ハウス ジャワカレー キーマカレー」がめちゃくちゃうまいので、家カレーとしてはこれで十分と感じたのも大きい。最近は中華料理も、めったに使わない調味料を組み合わせるのではなく、全部入りのクックドゥーに頼った方がいいのではという考えになりつつある。
テレワークで伸びたSaaSはレトルトの魅力 IaaSはもはや好事家のもの?
さて、しょうもない話にここまでついてきてくれた読者には感謝の言葉しかないが、調べてみるとクラウドとカレーはユーザー動向や技術革新も実はよく似ているのだ。
コロナ禍でいち早くテレワーク体制を構築しなければならなかった日本の多くの企業にとって、クラウドと言えばSaaSである。コロナ禍含め、この10年SaaSは著しい進化を遂げた。カバーする業種・業態も増え、プロダクト同士が切磋琢磨を続けた結果、いい方向で競争原理が働いた。SaaSを支えるエコシステムも拡充され、認証やセキュリティ、サービス連携、管理、データ保護なども拡充され、企業の多くのニーズを満たすこととなった。もはやIaaSを使って、他社と似たようなサービスを再開発する理由はないわけだ。
こうした進化はカレーにも当てはまる。近年、レトルトカレーは高価格帯の商品が市場に受け入れられるようになった結果、商品開発にコストをかけられるようになったという。圧倒的な商品の多様化とリッチ化が進み、技術革新によってレトルト臭を感じさせない商品も増えた。レトルトカレーの進化と市場ニーズの多様化もあり、インテージの市場調査によると、2017年に初めてレトルトカレーの売上がルーカレーを抜いたという。そして、コロナ禍でレトルトカレーの市場はますます伸びたというが、これもSaaSの成長とよく似ている。
一方で、この数年でIaaSの話はトンと出てこなくなった。既存のオンプレサーバーの移行先としてはありだが、IaaSですでにあるようなサービスを再開発するのは、もはや身の丈にあわないというのが一般企業の感覚ではないだろうか? もはやIaaSはサービスを開発するプロバイダーのものというイメージだ。「さすがにスパイスからカレー作る人、少ないよね」という感覚で、今後IaaSはスパイスでカレーをイチから作るような好事家の道具になっていくような気がする。
大谷イビサ
ASCII.jpのクラウド・IT担当で、TECH.ASCII.jpの編集長。「インターネットASCII」や「アスキーNT」「NETWORK magazine」などの編集を担当し、2011年から現職。「ITだってエンタテインメント」をキーワードに、楽しく、ユーザー目線に立った情報発信を心がけている。2017年からは「ASCII TeamLeaders」を立ち上げ、SaaSの活用と働き方の理想像を追い続けている。
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