マジックのシンボルはウサギからトランプへ
筆者の仕事はマジシャン。いままで、マジックのトレードマークといえば「シルクハットとウサギ」でした。しかし、現在では動物愛護の観点もあります。シルクハットからウサギを登場させるトリックは旧世代のイメージとなり、21世紀では演じるマジシャンはほぼいなくなりました。
そんなことからか、今はマジックのシンボルはトランプになってきています。
ゲームといえばPCやスマートフォンでプレーするのが当たり前の昨今では、ゲームの道具としては、トランプは“アナログ”ゲームの代表となってしまったかもしれません。しかし、調べてみるとデジタル機器やITの発展といくつかの関わりがあります。
マウス操作の練習になったカードゲーム
PCの普及時、マウスの練習として始まったソリティアというカードゲーム。もしかしたら、IT歴が長い方には「ああ、懐かしいなあ」と思い出す方がいらっしゃるかもしれません。
このゲームがヒットした理由は、おそらく、いつでもプレイでき、すぐに終わらせられ(中断でき)、飽きずに繰り返し遊べるからでしょう。多くのゲームとは違い、対戦相手がいないことで、負けても(カードが全部取れなくても)それほど悔しくならない一人遊びだったこともウケた理由かもしれません。
上で紹介したカードゲーム、ソリティアの人気は、スマホが登場したときにも再ブレイクしました。マウスの代わりに指先を使い、無音でプレイできるので、ちょっとした空き時間を埋めるにはピッタリだったはず。マークを色違いで数字の順番に重ねていくだけの単純なルールなので、ゲーム初心者にとって挑戦のハードルが低かったのも人気の要因でしょう。
プログラミングやアルゴリズムの練習でも登場
教科書などに登場する、コインの裏表やサイコロの出目を題材に使った算数や数学の問題を覚えているでしょうか? そんな確率などの例題も、トランプを題材にすると計算が複雑になるため、プログラミングやアルゴリズムの練習によく用いられます。
コイン1枚なら裏と表の2つの結果、サイコロ1個なら6通りの結果しかありませんが、トランプなら52通りの不確定要素があります。たとえば、ハイ&ローのゲーム(次のカードの数字が手持ちのカードより高いか、低いかを当てるゲーム)でさえ、13通りの結果から考慮しなければなりません。
ちなみにハイ&ローは、勝った賞金が2倍になるゲームとして、デジタル化されたスロットマシーンでも世界中でプレイヤーを熱狂させ、根強い人気があります。
クレジットカードのサイズは、トランプのサイズとほぼ同じ
トランプのサイズは2種類あります。ひとつは世界標準サイズ、幅63mm、長さ89mmのポーカーサイズ。もうひとつは手の小さい女性や子供向けのブリッジサイズと呼ばれる、幅57mm、長さ89mmのサイズです。
現在普及しているクレジットカードは、そんなブリッジサイズとほぼ同じサイズ(85.60×53.98mm)で作られています。さらに詳しい話については「前田知洋の“タネも仕掛けもあるデザインハック”」の第1回、「“サイズ”について意外と知られてないこと」もあわせてご覧いただければ幸いです。
マークの意味
トランプのマーク、ダイヤ、クローバー、ハート、スペードは、15世紀ごろはコイン、棍棒、剣、カップのデザインが使われていました。そうした古いマークは、コインは商人、棍棒は農夫、剣は兵士、カップは聖職者という4種類の職業を表していたという説が有力視されています。
後にコインは鈴やタイルになり、棍棒はクローバーもしくはドングリに、カップはバラの花やハートに、スペードは先端の尖った葉や盾に変わり、数字のA〜Kまでの13枚ごとの現代のスタイルに落ち着きました。
Photo by Bermicourt CC BY-SA 4.0
PCやスマホでトランプのマークを表示するときは
PC上でトランプのマークを扱うときは、UnicodeでU+2666 でダイヤ♦、U+2663 でクローバー♣、U+2665 でハート♥、U+2660 でスペード♠を表示させたり、印刷したりすることができます。
トランプはなくならない
トランプを仕事の道具にしているマジシャンにとっては、ITの進化によってトランプが無くなってしまうと困ります。しかし、それは杞憂なのかもしれません。近年、ポーカーブームが巻き起こり、日本にもトランプゲームが主流であるカジノの上陸と噂されています。
また、ボードゲームを始めとしたテーブルゲームの人気もここ数年で高まっています。トランプは、そんなテーブルゲームの代表格ともいえます。
これからも、トランプを目にする機会が増えるはず。ファッションなどでも、数年ごとに根強くデザインのモチーフに使われるトランプ。スマホゲームもよいですが、頭脳と指先を使うゲームとして、トランプを見直してみてはいかがでしょうか?
前田知洋(まえだ ともひろ)
東京電機大学卒。卒業論文は人工知能(エキスパートシステム)。少人数の観客に対して至近距離で演じる“クロースアップ・マジシャン”の一人者。プライムタイムの特別番組をはじめ、100以上のテレビ番組やTVCMに出演。LVMH(モエ ヘネシー・ルイヴィトン)グループ企業から、ブランド・アンバサダーに任命されたほか、歴代の総理大臣をはじめ、各国大使、財界人にマジックを披露。海外での出演も多く、チャールズ英国王もメンバーである The Magic Circle Londonのゴールドスターメンバー。
著書に『知的な距離感』(かんき出版)、『人を動かす秘密のことば』(日本実業出版社)、『芸術を創る脳』(共著、東京大学出版会)、『新入社員に贈る一冊』(共著、日本経団連出版)ほかがある。
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