デジタルアイデンティティの共通プラットフォームを社会インフラに
生体認証で決済やポイント付与まで 日立と東武鉄道が共通プラットフォームを構築
2023年08月30日 10時00分更新
日立製作所と東武鉄道は、生体認証を活用したデジタルアイデンティティの共通プラットフォームを、2023年度中に共同で立ち上げると発表した。第1弾として、東武ストアの複数店舗に、同プラットフォーム対応のセルフレジを導入する。買い物、宿泊、エンターテインメントなどの場面において、スマホやICカードを利用することなく、生体認証だけで、決済やポイント付与、本人確認などを、手軽で、安全に行なうことができる。将来的には企業や業種を横断した活用に広げる考えだ。
生体情報を元に安全で利便性の高い共通プラットフォームを実現
日立製作所では、国内シェアナンバーワンの指静脈認証技術を持つとともに、生体情報管理のPBI(公開型生体認証基盤)技術を有している。PBIでは、一方向性変換により、秘密鍵と公開鍵を生成し、そのうち公開鍵を復元できないデータとしてクラウドに保存。指静脈認証による生体情報を利用する場合には、公開鍵と照合して認証する。一方向性の変換のため、生体情報に復元ができず、公開鍵からは個人を特定できないことから、復元安全性が高いのが特徴だ。
共通プラットフォームでは、これに基づいた指静脈認証と顔認証の2つの生体認証方式をサポート。導入する企業は利用シーンに応じた認証方式を選択できる。また、個人情報やIDなどを管理するシステムの構築や運用を事業者が個々に行なうのに比べて、迅速に、手軽に利用を開始することができるという。
日立製作所 クラウドサービスプラットフォームビジネスユニットマネージドサービス事業部長の吉田貴宏氏は、「社会課題をデジタルで解決するLumadaのひとつに位置づけており、デジタルアイデンティティの共通プラットフォームを、社会インフラにしていきたいと考えている」とコメントする。
また、「利用者は、共通プラットフォームに登録すれば、スーパーやコンビニ、ホテル、金融・保険、モビリティ、レジャー施設、スポーツクラブ、不動産といった多様な企業が提供する、さまざまなサービスを利用する際に、会員証やポイントカードなどを提示する必要がなくなる。また、店舗ごとに発行されている複数のポイントカードを持ち歩くことなく、生体認証により、ワンストップで、安全に、便利に、快適に使える。企業にとっても、利用者の登録に関する工数が削減できたり、利用者の同意を得ながら、これらのデータを活用できたりするため、労働力不足の解消やサービスの拡張が可能になる」(吉田氏)とメリットを強調した。
共通プラットフォームにおいては、決済、会員確認のための時間短縮、セルフレジの稼働率向上、会員証の貸し借りなどの不正対策、再発行の手間の解消などのメリットがある。また、登録情報の一括変更機能や、消費財メーカーなどとの連携によるキャンペーン実施機能などを用意。2023年中には、飲料メーカーとキャンペーン実施機能の実証実験を行なうことを検討しているという。
スマホを使わず、ポイント付与や利用、決済まで
先行導入する東武ストアでは、事前に、生年月日、TOBU POINT ID、クレジットカード情報を登録しているユーザーは、セルフレジで生体認証を行なうだけで、TOBU POINTの付与や利用、決済などが、クレジットカードやポイントカード、スマホを使わずに行うことができるようになる。なお、今回はジェーシービーが生体認証による決済ガイドラインの策定で助言する。
東武鉄道 常務執行役員の山本勉氏は、「2022年8月に、日立製作所から提案をもらった。東武グループでは、生体認証は、将来の社会インフラになるとの見通しを持っており、この提案に対して、利用企業ではなく、プラットフォームの運営企業として一緒に検討をしたいと伝え、快諾を得た。この1年に渡り、ユースケースや共通プラットフォームについて議論をしてきた。デジタルの社会インフラをグループの事業に取り込みたい」と述べた。
また、共通プラットフォームの特徴として、複数の生体認証方式を利用し、シーンに応じた使い分けが可能であること、業種横断的な利用が可能であり、社会インフラとして定着を目指す発想があること、安心、安全な個人情報および生体情報の管理できることの3点を挙げる。「決済、チェックイン、ホテルやサテライトオフィスのドアの開錠などといった用途にあわせて、求められる安全性、迅速性に適切な生体認証を選択できる。また、東武グループの施設で情報を登録した利用者は、他の企業の施設でも利用できるようになる。一度登録すれば、共通プラットフォームに参画している企業であれば、どこでも利用できるサービスの実現を目指す」(山本氏)とした。
共通プラットフォーム利用のロールモデルになる
東武グループでは、関東私鉄最大の鉄道ネットワークと、世界一の高さを誇る自立式電波塔の東京スカイツリーを有しており、鉄道やバスなどの運輸事業、ホテルなどのレジャー事業、分譲および賃貸などの不動産事業、百貨店などの流通事業、建設業などのその他事業の5つのセグメントで事業を展開。68社の連携子会社で構成している。
東武鉄道の山本氏は、「東武ストアでは、利便性向上と省力化の加速という2つのテーマを持って、共通プラットフォームを導入する。これに続き、東武グループの企業が提供する日常、非日常の施設において、共通プラットフォームを活用することで、手をかざすだけで、安全に利用できる環境をつくりたい。将来的には、鉄道の自動改札にも生体認証を活用するといった期待もあり、グループとしての事業の広さを生かしたい。また、国内外企業に対する共通プラットフォーム利用のロールモデルになることを目指す」と語った。
共通プラットフォーム開発の背景として、日立製作所の吉田氏は、「労働力不足やコロナ対策の観点から、小売店や商業施設、ホテル、スポーツクラブなどでは、セルフレジや自動チェックイン機が導入されているものの、必ずしもうまく行っていない。小売店では、アルコールなどの年齢確認商品がセルフレジでは販売できなかったり、スポーツクラブでは会員証の貸し借りの横行が起きたりし、現在の省人化、無人化には課題がある」と指摘する。「特定の業種に絞ることなく、幅広く展開していきたい。まずはスーパー、コンビニなどの小売を第1段階としてユースケースを確立したい」とした。
また、東武鉄道の山本常務執行役員は、「ポイントカードを忘れた場合にも、手ぶらでポイントが付与できたり、ポイントカードやポイントアプリを取り出す手間をなくしたりといった利便性が生まれる。時代の変化を先取りし、デジタル技術を活用し、最高の体験を提供するとともに、生体認証を社会インフラとして拡大、定着させ、社会課題の解決につなげたい」と語った。