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マルチクラウドがAI課題を解消、VMware Exploreで発表「VMware Private AI Foundation with NVIDIA」

AI時代のVMwareは“Private AI”戦略、NVIDIAと共同ソリューション発表

2023年08月25日 11時30分更新

文● 末岡洋子 編集● 大塚/TECH.ASCII.jp

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 VMware(ヴイエムウェア)は2023年8月21~24日、米国ラスベガスで「VMware Explore 2023 Las Vegas」を開催した。今年の大きなテーマは「マルチクラウド」と「生成AI」。22日の基調講演では、NVIDIA 創業者兼CEOのジェンスン・フアン氏がゲストとして登場。VMwareのCEOのラグー・ラグラム氏と共に、提携に基づき共同開発した新ソリューション「VMware Private AI Foundation with NVIDIA」を発表した。

VMware CEOのラグー・ラグラム(Raghu Raghuram)氏(右)と、NVIDIA 創業者兼CEOのジェンスン・フアン(Jensen Huang)氏(左)

AIの課題を解決するのは「マルチクラウドのソリューション」

 今年はどのテックベンダーも「生成AI」に関連した発表を行なっているが、VMwareも例外ではない。「VMworld」から「VMware Explore」に年次イベントの名称を変更してから2回目となる今年は、AIが大きなテーマとなった。

 基調講演のステージに立ったラグラム氏は、アプリの観点から、生成AIを「PC、Web、モバイルの次に来るもの」と位置付け、「これまでAIのユースケースは一部の専門家に限定されていたが、生成AIは汎用性がある。経済性と創造性を向上させれば、これまでは実現不可能だったあらゆるアプリケーションを考えることができる」と述べた。

 一方で、大量のデータを使用するAIでは「知的所有権」「プライバシー」「管理とガバナンス」といった課題も指摘されている。そこでVMwareでは、生成AIブームに先駆けて「1年以上前」から”VMware AI Labs”として、エンタープライズ向けのAIアーキテクチャに取り組んできたという。

 その結果が、今回の発表の土台となる“Private AI”だ。これは「AIから得られるビジネス上の利益と、プライバシーとコンプライアンスのニーズのバランスをとるアーキテクチャのアプローチ」だと、ラグラム氏は説明する。

VMware ラグー・ラグラム氏

 先述した3つの課題に対応するため、Private AIは「データをクラウドに上げる」のではなく「データのあるところに処理能力とAIを持ってくる」形を取る。つまりAIにまつわる課題は、ワークロードをどこで動かすかにより生じるものであり「本質的にはマルチクラウドの問題だ」とラグラム氏は説明する。

 VMwareではここ数年、マルチクラウド戦略をプッシュしてきた。それを背景に「(AIの課題を解決する)ソリューションは、マルチクラウドのソリューションであるべきだ」と優位性をアピールする。

「VMware Private AI Foundation with NVIDIA」を共同開発、発表

 Private AIというアーキテクチャ構想を実現するにあたり、VMwareは戦略的パートナーとしてNVIDIAと組んだ。そうして生まれたのが、VMware Private AI Foundation with NVIDIAである。

 ラグラム氏と共にステージに立ったフアン氏は、「2社でエンタープライズコンピューティングを再構築する。これにより、アクセラレーテッド コンピューティングと生成AIの世界に移行できる」と、同ソリューションへの期待を述べた。

 「NVIDIAのGPUはクラウドやオンプレミスのあらゆるサーバーに搭載されており、VMwareもあらゆるところにある。VMware Private AI Foundation with NVIDIAにより、企業はプライベートAIを拡張性のある形でデプロイできる」(フアン氏)

 VMware Private AI Foundation with NVIDIAは、「VMware Cloud Foundation」と「NVIDIA AI Enterprise」を土台とし、自社データなど非公開データでトレーニングされたモデルを動かすためのAIツールを組み込む。GPUは単一の仮想マシンで最大16のGPUまで拡張でき、VMwareの仮想化GPUであるvGPUも利用可能。プラットフォーム上でvMotionやディザスタリカバリも可能という。

 このほか、GPUの高速インターコネクトを可能にする「GPUDirect RDMA(Remote Direct Memory Access)」、「VMware vSphere」と「NVIDIA NVSwitch」の統合など、共同エンジニアリングによる多数の成果が盛り込まれている。

VMwareとNVIDIAが共同開発した「VMware Private AI Foundation with NVIDIA」のアーキテクチャ概要

 このソリューションを利用することで、データのセキュリティやガバナンスを維持した形でAIモデルのトレーニング、ファインチューニングを行い、複数のGPUにデプロイし、生成AIアプリケーションを動かしたり、スケールのある形で推論を実行できるという。

 プレス向けブリーフィングで、VMwareのポール・ターナー氏(Paul Turner氏、バイスプレジデント兼vSphere担当プロダクトマネジメント)は、同ソリューションではNVIDIAの生成AIフレームワークである「NVIDIA NeMo」を使って、Metaのオープンソース大規模言語モデル「Llama 2」をはじめ、「MPT」「Falcon」などのオープンソースソフトウェアを利用できる、と説明した。

同ソリューションを使った生成AIアプリケーション開発の流れ(模式図)

 VMware Private AI Foundation with NVIDIAは、2024年前半のリリース予定だ。まずはDell Technologies、Hewlett Packard Enterprise(HPE)、Lenovoの3社がサポートするハードウェアで提供を開始することが発表されている。生成AIトレーニングのパフォーマンスが「NVIDIA A100」比で最大1.7倍向上するという「NVIDIA L40S」を搭載するという。

フアン氏はExploreの参加者向けに、自身とラグラム氏のサインが入った「RTX 4090“ファウンダーエディション”」を5台プレゼントした。

 Private AIは、VMwareのマルチクラウド戦略を構成する「クロスクラウド」「アプリデリバリ」「クラウドインフラのモダン化」「ワークスペース」に加わる、5つ目のポートフォリオとなる。

 Private AIでは、リファレンスアーキテクチャを提供することでオープンなエコシステムを構築する戦略をとる。「VMwareのエコシステムそのものと同じぐらい大きくしていく」とラグラム氏は述べた。

VMware Private AIのリファレンスデザイン

VMwareはプライベートAIでオープンなエコシステム戦略をとる。パートナーは今後も拡大していく

デモエリアでは、Intel CPUベースのPrivate AIも展示していた。第4世代XeonプロセッサのAIアクセラレーターSapphire Rapidsを利用するもので、デモでは3つのチャットボット(各チャットボットに52のvCPU/メモリ55GBを割り当て)を同時に起動させる様子を見せていた

 AI関連の新発表としては、VMwareユーザーが自然言語を使って操作できる「Intelligent Assist」も発表された。まずは「VMware Tanzu」「VMware NSX+」「VMware Workspace ONE」で利用できるようになる。

Tanzu向けIntelligent Assistのデモ。画面左に表示されているように、会話をしながら実装の状況を確認したり、コストを管理したりできる

Broadcomは年20億ドルを投資、VMwareの独立運営維持も約束

 VMwareは今年で創業25周年を迎える。仮想マシンで一斉を風靡した同社は、EMC、Dell Technologiesを経て、2022年にBroadcom傘下になることを発表した。ラグラム氏は「この25年間で重要なマイルストーンは、2022年に発表したBroadcomとの合併」だと述べる。

 BroadcomのCEO、ホック・タン氏はビデオメッセージで登場し、「買収が完了次第、年20億ドルをVMwareに投資する。そのうち半分は研究開発に充てられ、残る半分はVMwareおよびパートナー企業のプロフェッショナルサービスに向かう」と約束した。

 VMware Explore開催直前には、EUに続いて英国の規制当局が買収への認可を下した。タン氏は、VMwareの買収は「2023会計年度(2022年11月~2023年10月)中に完了すると確信している」と述べた。

ビデオメッセージで登壇したBroadcomのホック・タン(Hock Tan)氏。ただし基調講演会場にも姿を見せていた

 会期中の記者発表会では、記者からBroadcom買収後の独立性に懸念する声も上がった。これに対しラグラム氏は「Broadcomのモデルは買収企業を独立して運営させるモデルをとる」とし、「Dell傘下の時と同様に、独立した形で運営する。つまり、戦略的なミッションとその実現にフォーカスできる」と反論した。

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