大学生が挑戦。GISを使って過去の災害データを可視化・継承する
東京大学「課題『デジタルツインでミライに/を可視化する』オープン講評会」レポート
この記事は、国土交通省が進める「まちづくりのデジタルトランスフォーメーション」についてのウェブサイト「Project PLATEAU by MLIT」に掲載されている記事の転載です。
2023年7月10日、東京大学教養学部(前期課程)の授業「情報メディア基礎論」の課題『デジタルツインでミライに/を可視化する』のオープン講評会がオンラインで開催された。オープンデータ「PLATEAU」やOSS「Re:Earth」などのツールを活用し、記憶の継承/未来をイメージしようというもので、教養課程の1、2年生が課題に取り組んだ。
3D都市モデルとストーリーテリングで歴史を見せる
位置情報や画像を使ったデジタルアーカイブ研究で知られる渡邉英徳教授(東京大学大学院 情報学環)が主催するこの授業では、学生が自ら手を動かし、ツールやデータを用いて歴史の可視化に挑戦する。講評会には、国土交通省 Project PLATEAUの内山裕弥氏、Developer Advocate at Microsoftの千代田まどか氏(ちょまど氏)、東京都副知事の宮坂学氏がゲストレビュアーとして参加した。
冒頭で、渡邉教授から授業の位置づけ、狙いが紹介された。今回、提出された作品は教養学部前期課程、つまり1、2年生の課題として課しているもので、情報メディア基礎論という授業の最終成果となる。授業の狙いとしては、「基本的な素養として、位置情報や地図を使って何かしらの視点を表現すること、ほかの人に伝えるというところに触れてもらう」というところにある。
プラットフォームとして用いるのはWebGISプラットフォーム「Re:Earth」で、本格的なコーディングスキルは課されていない。実際、授業にはいわゆる文系の学生と理系の学生が混在している状態で、あくまで基礎的な素養としてデジタルツインを用いたデータ表現を身につけようということが主眼にある。そのためのツールとして、オープンデータであるPLATEAUを活用しようということだ。
授業は6月5日から始まり、そこから約1カ月で、問いを立て自分の作品に仕上げていく。オープン講評会当日は約40以上の提出作品の中から選出された6作品がプレゼンテーションを行い、最後に一般視聴者も含めた投票結果が発表された。
「核兵器技術史 ―その進化と危険性を正しく理解し平和を考える―」
1位となったのは「核兵器技術史 ―その進化と危険性を正しく理解し平和を考える―」。核兵器がどのように進化してきたのか、進化した現代の核兵器が使用されたとき、どのような被害が出るのかの2つに焦点を当てた作品だ。いつかは核兵器の歴史を終わらせねばならないと考えるきっかけになることを願って作成したという。
前半は核兵器の歴史をタイムラインに沿って見るアニメーションパートだ。人類初の核実験である「トリニティ実験」から時系列で現在まで見ていく。後半は、現在・未来の東京都が核攻撃を受けたらどのような被害が出るかをシミュレーションするパートになっている。
「Re:Earth」の代表的な機能であるストーリーテリングを使って時系列順に核兵器技術の変遷を見せていく。また、自作プラグインを導入することで、ストーリーの進行に同期してストーリーテリングの時間も進んでいくようになっている。
また、「Cesium(Re:Earthのベースとなる3D地理情報プラットフォーム)」のタイムアニメーション機能によって3Dモデルを「Re:Earth」上で動かすことで動的な可視化を実現している。ミサイルの弾道軌道は、簡易的な軌道計算シミュレーターを用いて軌道要素から時系列データを作成し、描画しているという。
核攻撃のシミュレーションでは、「起爆する地点」「核出力」などをセットすることで、指定した地点で核爆発が起った際の死者数を近似式に基づいて推定している。表示される球体は、外側から「熱放射」「爆風」「初期放射線被爆半径」、最も内側の球体は、核爆発によって生じる「火球」を表している。PLATEAUの3D都市モデルを実際の都市と重ね合わせることで、より核兵器が使用された際のイメージがわかるようになっている。
宮坂氏は3次元的に見せることのパワフルさが伝わってくる作品だとし、改めてデータをビジュアル化することによる問題提起の力を再認識したと語る。
内山氏も、見せ方としてもPLATEAUの使い方としても非常によく作られていると高く評価した。生々しくなりすぎない表現に留めつつ、ビジュアルのインパクトを出すなどGISデータを扱うセンスの良さも指摘している。ちょまど氏も完成度の高さに驚いたと言う。
渡邉教授は、技術面もそうだが難しいテーマに向き合い、真剣に可視化した点に言及した。「何万人、何百万人もの人が亡くなるような兵器について可視化を行うには、どこかで自分の感情と切り離してわかりやすく伝えることに専念する必要がある。これは渡邉研で災害のデジタルアーカイブをする際に常に直面する問題だが、それを乗り越え、作品を完成させたところが素晴らしい」と語った。