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小島寛明の「規制とテクノロジー」 第241回

ネットの誹謗中傷、プラットフォーマーが自主的に削除すべきだと総務省

2023年07月24日 07時00分更新

文● 小島寛明

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 インターネット上の誹謗中傷とどう向き合うか。

 総務省は、誹謗中傷への対応を検討するため、有識者会議を作って議論してきた。

 有識者会議が2023年6月に公表した報告書案は、誹謗中傷を含む違法・有害情報について、プラットフォームが自主的に、迅速かつ適切に削除することが必要だと述べている。

 プラットフォーム側に削除の責任を課す報告書案について意見を募ったところ、Facebookの親会社にあたるメタやLINEといった、主要プラットフォーマーも意見を寄せた。

 報告書案の内容とプラットフォーマーの意見を読み比べると、2つの大切な価値観が衝突していることが見えてくる。

・SNS上では、表現の自由が最大限尊重されるべきである
・誹謗中傷で個人が傷つくような事態は防がなければならない

 極めてバランスの取り方の難しい課題に対して、どう結論を出すのか。

 一朝一夕に答えの出せる課題ではないためか、総務省は8月15日を締め切りとして、再び意見を募っている。

有識者会議は「自主的な削除」を重視

 誹謗中傷への対策を議論しているのは、総務省の有識者会議「プラットフォームサービスに関する研究会 誹謗中傷等の違法・有害情報への対策に関するワーキンググループ」だ。

 このワーキンググループが6月、「今後の検討の方向性」というタイトルの報告書を公表した。

 報告書で最も重要なのは、おそらく以下の部分だろう。

 「プラットフォーム事業者の利用規約に基づく自主的な削除が迅速かつ適切に行われるようにすることが必要である」

 実際、報告書のこの記述には下線が引かれている。

 現時点では、誹謗中傷を含む投稿を削除してもらうには、2つの方法が存在する。

1.プラットフォーム事業者を相手方とする裁判手続
2.プラットフォーム事業者が定める利用規約等に基づく裁判外での削除

 報告書によれば、「裁判手続による削除」は時間と費用がかかるためあまり利用されておらず、「裁判外での削除」が利用されることが多いようだ。

 そこで浮上してきたのが、「自主的な削除が迅速かつ適切に行われるようにする」という対応策であるようだ。

窓口はどこに

 削除を求める手続きについては、大手のプラットフォームはおおむね、窓口を設けている。

 しかし、窓口がわかりにくい、英語で申請を求められることがある、自分の申請がどう処理されたのかがわからないといった問題がある。

 こうした問題に対して、報告書は次のような「方向性」を提示している。

●プラットフォーマーに日本語で削除指針を公表させる
●削除の窓口をわかりやすく示させる
●日本語でも申請できるようにさせる
●申請の処理にどのくらい時間がかかるのか「標準処理期間」を示させる

対立する関係者の見解

 意見募集以前に、報告書本体にも多くの関係者の意見が添付されている。

 「日本音楽事業者協会」(音事協)は、誹謗中傷にさらされやすい芸能人側の立場を代表して次のような意見を述べている。

 「所属の芸能事務所が削除の手続を代行できるような法整備がなされると有り難い」
 「窓口の所在を分かりやすく公表していただきたい」(音事協)

 スポーツ選手も巻き込まれる可能性が高いだけに、Jリーグも意見を述べている。

 「繰り返し権利侵害を行う者に対しては、プラットフォーム事業者において、警告を送るか、本人確認情報を把握していただきたい」(Jリーグ)

 ヒカキンさんら多数のユーチューバーが所属するUUUMも当事者として複数の意見を出している。

 「申請の受付に関する通知が行われる必要がある」(UUUM)

 これに対して、プラットフォーム側としては主にグーグル、LINE、ヤフーが反論している。

 プラットフォーム側の対応の難しさを象徴するのは、グーグルが出した次の意見だろう。

 「ユーザーからの削除要求の数は非常に膨大であり、不完全な請求内容や、お互いに矛盾したりするリクエストも存在する」

 「プラットフォーム事業者は、各当事者に証拠の提出を求め、事実を認定し、プロセスに基づいて法律を適用する、裁判所のような権限を有していないため、多くの場合、その表現が真実であるかどうか、ひいては名誉毀損に該当するかどうか、分からない」

答えのない課題

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