「ROG Ally」はノートPC部門で売り上げ1位に!
2023年6月14日に販売されたASUSのゲーム機型PC「ROG Ally」の売れ行きが好調だ。IT関連の調査を行なうBCNの2023年6月19日から25日の日次集計データでは、ノートPCの実売台数ランキングで1位に輝いた。また、記事執筆時の価格.comのノートパソコン 注目ランキング(2023/07/06 ~ 2023/07/12集計)でも1位をキープしている。
ROG Allyはゲーム機型PC、ハンヘルドPC(携帯型PC)などと呼ばれるジャンルの製品。7型のディスプレーを採用し、ゲームを操作するジョイスティックや十字キーを備え、見た目は携帯ゲーム機のPCだ。
以下、前回記事では、ゲーム機型PCがどういった流れで増えて来たのかを語ったが、前述したようにノートPCの売り上げランキングの上位に食い込んだ製品は、「ROG Ally」を置いて他にはない。ではなぜ「ROG Ally」が売れているのか、どうしてオススメなのかを紐解いていきたい。
ゲーム機型PCは、より高い性能が求められてきた
黎明期のゲーム機型PCは、省電力で低性能のモバイル・プロセッサーを搭載していたため、「ROG Ally」のように解像度が1920×1080ドットのフルHDで、RPGやFPSが動くような性能ではなかった。
海外では、軽めのFPSなどをプレイする目的のユーザーが多かったが、国内では大手掲示板やSNSにて主にアダルトPCゲームをプレイするユーザーに注目を集めていた(もちろん、購入者の中にはゲームプレイは目的ではないコアなデバイスが好きなギークな人もいただろうが)。
アダルトPCゲームの多くは、一部を除き2Dのアドベンチャーゲームで、レトロゲームのリメイク作品などは解像度がフルHDに満たないことがあり、非常に動作が軽い。今ではDMM GAMESにて一部アダルトPCゲームは、スマホやブラウザーで遊べたりもするが、当時はそういった選択肢が少なかった。そのため、いつでもアダルトPCゲームがプレイできるデバイスとして、ゲーム機型PCが注目を集めたようだった。
しかし、世界中のユーザーからのもっと高い性能の製品が欲しいといった要望に応えるように、その後高性能なモバイル・プロセッサーの製品が登場する。余談だが、ゲーム機型PC黎明期は、インテルのモバイル・プロセッサー搭載製品しかなかったが、インテルの内蔵GPUでは動作しないゲームの報告が、海外のゲームユーザーが集まる掲示板やブログなどで上がっていた。
そのため、販売代理店の関係者に聞いたところ、今ではAMDのRyzenモバイル・プロセッサー搭載製品のシェアは9割を超えているという(以下、記事では当時のGPDの新製品では、インテルCPU搭載機を選んだユーザーが全体の1%だったとのコメントもある)。
「ROG Ally」は「Steam Deck」よりもかなり高性能で
スペックの割に破格の価格&太っ腹なキャンペーンも!
そうした流れで、高性能モバイル・プロセッサーを搭載し、大容量のSSD&メモリーを搭載する製品が登場したが、その分価格も高騰。ハイエンドな製品は15万円~20万円になっていった。
その流れを断ち切ったのが、Valveの「Stem Deck」だ。それまでは、IT事情を追っているコアなユーザーにのみ注目を集めていたゲーム機型PCは、「Steam Deck」が東京ゲームショウに出展し、数多くのゲームメディアでも取り上げられるようになって、ハードウェアにはあまり興味がないゲーマーの目にも止まるようになった。
その頃のゲームメディアをフォローするユーザーのSNSの反応は、“「Steam Deck」の価格帯なら買いたい”、という意見もあったが、“それでもまだ高い”、“いらない”という声も多かった。
一方で、ITメディアをフォローするユーザーの反応は、“安価でデバイスとして面白い”、“買いたい”という好意的な反応が多かった印象だ。ただし、「Steam Deck」は海外では2022年2月には発売されていて、日本での発売はその10ヵ月後の年末配送予定と、大幅に遅れた。
そのため、性能的に今さら感を覚えたハードウェア―に詳しいユーザーもいたかと思う。しかしながら、「Steam Deck」はSteamOSを搭載し、Windows OS搭載機よりも汎用性は乏しいながら、Steamで販売されているゲームを手早くプレイできる、といったゲーム機ライクな使い勝手もあり、その割り切りが受けている。
そんななか発表されたのがASUSの「ROG Ally」だ。「ROG Ally」は2023年4月1日に突如動画を公開。エイプリルフールだったこともあり、メディアやブロガーがこぞって嘘か誠か、と記事を掲載した。あえてエイプリルフールに動画を投稿し、話題を作った後、YouTuberやメディアにサンプル機を配り、動画と記事の両面で発売までの注目度を作った。
その独自の広告戦術に加え、スペックの割に10万9800円と価格が安く、お買い得だった。「Steam Deck」も発売当時、ストレージが64GBモデルが5万9800円、最上位の512GB SSD搭載モデルが9万9800円と、それまでのハイエンド機よりは安価だった。しかしながら、「Steam Deck」のCINEBENCH R23のスコアーはマルチスレッドで4438pts(ライター加藤勝明氏がWindows OSを入れて計測した実測値)。
一方で、「ROG Ally」のスコアーは実測で13898ptsと「Steam Deck」の3倍以上で、それまでに発売されたどのゲーム機型PCよりも高い性能を示した。そのため、15~20万円ならゲーミングノートPCが買えるので、10万円以下ならと考えていた、より幅広いユーザーの購買意欲を刺激したのは言うまでもない。
また、ASUSは「ROG Ally」を購入して、Amazon、価格.com、家電量販店のECサイトで150文字以上でレビューを投稿し、ASUSメンバーに登録した後、応募フォームより必要事項を入力して応募すると、専用ケース「ROG Ally Travel Case」が全員貰えるキャンペーンを実施。実売で4000円以上する専用ケースも貰える、このキャンペーンも売り上げに繋がった可能性も高い。
この「ROG Ally」の売り上げ好調を見てか、「Steam Deck」は6月30日から7月14日2時まで20%セールを実施。さらに、8月発売予定のAMD「Ryzen 7 7840U搭載」を採用した「AOKZOE A1 Pro」は、1TB SSDを搭載して11万9800円と、「ROG Ally」に対抗できる価格帯で販売を予定している。
このように、「ROG Ally」はプロモーション戦略により、話題作りもバッチリで、スペックの割に安価で販売されたため、今までゲーム機型PCに興味があったが、高くて手が出せない、といったユーザーの心をがっつり掴んだ結果売れた製品だったと言える。
ただ、ASUSと言えばゲーミングスマホの「ROG Phone」などで、数多くの専用オプションを用意してきたが、「ROG Ally」に至っては、既にあるプロダクトの「ROG XG Mobile」対応を謳っている点が気になった。これはあくまで予想だが、今回は既存のプロダクトや別途動いている周辺機器との組み合わせを提案することで、専用オプションに回さないで済む分、価格を抑え、プロモーション費用に充てたのではないだろうか。
そう考えると、同社がゲーム機型PCといったジャンルに可能性を感じ、他の競合の大手メーカーよりもいち早くシェアを奪っておきたいという狙いも見えてくる。「ROG Ally」の成功から、次世代機の販売の可能性も高いので、そのあたりにも期待したい。