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他のブランドが“割って入る”ことのむずかしさ:

レッドブルとモンエナに国産エナジードリンクが勝てなかった理由

2023年07月11日 16時00分更新

文● モーダル小嶋 編集●ASCII

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レッドブルとモンスターエナジー

レッドブルとモンスターエナジーが強いのはなぜ

 アスキーグルメのモーダル小嶋です。「有名なエナジードリンクは?」と尋ねたら、何が挙がるでしょうか。99%以上の人が「レッドブル エナジードリンク」(以下、「レッドブル」)、あるいは「モンスターエナジー」と答えるでしょう。たぶん。

 しかし、それに比べて、国産のエナジードリンクはどうか。今から10年ほど前は、国産の商品が多数現れていたのです。しかし、それらはレッドブルとモンスターエナジーには敵わず、多くの商品が姿を消していきました。

 いったいなぜでしょう? 「レッドブルとモンスターエナジーが強すぎるから」と書くと、1行で終わってしまいます。

 そもそも、なぜ日本でレッドブルとモンスターエナジーが強いのでしょうか。というよりも、なぜ「強くなった」のでしょうか。

「炭酸飲料」扱いが吉と出たレッドブル

 まず、レッドブルです。レッドブルの日本上陸は2005年で、2006年から一部のコンビニで「炭酸飲料」として飲料コーナーに並び始めます。炭酸飲料というジャンルで出てきたことが、ポイントでした。

レッドブル

もはやデファクトスタンダードになった感もあるレッドブル

 当時、筆者は大学生だったのですが、レッドブルのことを「あの、リポビタンDみたいなやつ」と呼んでいる人たちが大学にもそれなりにいました。既存の「栄養ドリンク」に近しいものだと思っていた人が多かったわけです。

レッドブル

2006年頃からコンビニに並び始めたレッドブル。この写真は2008年のもの

 たとえば、日本で暮らす人たちが栄養ドリンクとしてイメージしやすいであろう「リポビタンD」は、「医薬部外品」にあたります(レッドブルの商品開発に当たって、リポビタンDから大きな影響を受けたというエピソードは有名です)。

 レッドブルも、日本デビュー当初は250mlで275円(税込。当時、消費税は5%でした)ですから、炭酸飲料として考えるとかなり高価です。多くの人は、当初レッドブルを「(医薬部外品の)栄養ドリンクと似たようなもの」と認識していたはずです。

レッドブル

この液色も「エナドリの色だなあ」と思う人は多いのでは

 しかし、レッドブルは医薬部外品の認可が取得できなかったので、炭酸飲料という扱いになりました。

 これが、意外な効果をもたらします。炭酸飲料なので、コンビニでは栄養ドリンクなどが置かれているコーナーではなく、一般的な飲料コーナーに並ぶことになったのです。

 そのため、多くの消費者の目に入りやすくなり、手に取ってもらう機会が増えました。コンビニとしても、「他の商品よりも単価が高く、売れる飲料」と認識され、積極的に陳列されることになりました。

 これらの要素で、一気にレッドブルの認知が拡大したのです。ちなみに、のちに185mlの缶が登場することで、栄養ドリンク(≒医薬部外品)を置くコーナーにも配置できるサイズになりました。

 コンビニ中心で売られていたため、ディスカウントストアなどで安売りされることがなかったのも、ブランドイメージの保持という点ではよかったかもしれません。「あの量なのに、あの価格」というのが、安っぽい印象を持たれずに済んだと考えることもできましょう。

 日本における「栄養ドリンク」のシェアを、「今までのオジサンたちが飲む栄養ドリンクとはちょっと違う、オシャレな炭酸飲料。その名も『エナジードリンク』」という位置付けで、2000年代末に一気に塗り替えたのがレッドブルなのです(医薬部外品と炭酸飲料を、同じジャンルに入れていいのかという問題はあるにせよ)。

レッドブル

今や、モータースポーツや音楽イベントでもよく目にするロゴ

 ちなみにASCII.jpの記事にレッドブルが登場するのは(文字で出てくるだけなら、もっと古いものがあるかもしれませんが)2008年です。この頃、繁華街などに現れたサンプリングカーに遭遇し、レッドブルを無料で飲んだ記憶がある人も多いのではないでしょうか。

ASCII.jpでレッドブルが初登場した記事
RedBullが編集部にやってきた!

レッドブルとの差別化に成功したモンスターエナジー

モンスターエナジー

このロゴもすっかり日本でおなじみになりました

 一方、モンスターエナジーは2012年に日本に上陸しました。アメリカでは既に一定のシェアを獲得していたので、存在を知っている人もそれなりにいたでしょう。

 ただ、国内においては完全にレッドブルの後発でしたし、発売当初は「ああ、新しいレッドブルみたいなやつ?」と認識していた人も少なくなかったはず。では、なぜ今日まで生き残ってこれたのか。

 モンスターエナジーの特徴は、まず、シンプルに価格でした。発売当時、185mlで190円(税抜)のレッドブルに対し、モンスターエナジーは355mlで190円(税抜)。「普通の清涼飲料水と同じくらいの量で、レッドブルより安い」という明確な強みがありました。

モンスターエナジー

「355ml」という文字の色とフォントが違うのもこだわりなのでしょうか

 また、フレーバーが続々と展開されたことも、レッドブルにはなかった個性でした。モンスターエナジーは、国内でも積極的に期間限定フレーバーを発売。しかも、どれもが「ジュースっぽい味」だったのも、エナジードリンクの味に慣れていた消費者を惹きつけました。

 レッドブルがスポーツ関連のスポンサーになる例が多かったことに対し、モンスターエナジーはどちらかというと音楽やアーティスト関連のスポンサーになることが目立ったのも、違いといえば違いだったかもしれません。

 もっとも、両社とも、今では多種多様なものをスポンサードしていますので、それほどはっきりした差はないでしょう。むしろ、日本上陸当初のレッドブルと同じように、地道なサンプリングなどを続けて認知を広げていったプロモーションのほうが、影響が大きいように思います。

「アメリカで大人気のドリンクが上陸!」という雰囲気のアピール文は今でも缶に残っています

 ちなみに、ASCII.jpにモンスターエナジーが初登場するのは2013年。「エナジードリンク16本を飲み比べて効果を実感する」というめちゃくちゃな記事があります。

モンスターエナジー

モンスターエナジーがASCII.jpに初めて登場した記念すべき1枚。走っているのはASCII編集部きってのエナジードリンク好き、スピーディー末岡(スマホ・車担当)

 “炭酸飲料”として国内を席巻し、「エナジードリンク」という存在を決定付けたレッドブル。そのレッドブルとの差別化に成功し、日本市場に食い込んできたモンスターエナジー。2023年でも、国内のシェアはこの2種類が多くを占めています。

他のエナドリが割って入るのはハードルが高い

エナジードリンク

2013年の記事でエナジードリンクを扱ったときの1枚。日本で買えるものが中心でも、当時はこんなにたくさんあったのに……

 後発のエナジードリンクたちは、レッドブルとモンスターエナジーに取って代わることがなかなかできませんでした。いつもの味なら、レッドブルでいい。フレーバーがほしいなら、あるいは量が多いほうがいいなら、モンスターエナジーがある。

 デファクトスタンダードとして不動の人気をほこるレッドブル。価格はレッドブルより安価だが求められている成分はしっかりあって、量もフレーバーもあるモンスターエナジー。ライバルとしては、かなり手強い……。

モンスターエナジー ウルトラピーチーキーン

7月4日に発売されたピーチフレーバーの「モンスター ウルトラピーチーキーン」。このように多種多様なフレーバー展開もモンスターエナジーの魅力

 国産のエナジードリンクは、「コンビニの飲料コーナーにおいて、すでにレッドブルとモンスターエナジーが置いてある場所を奪い取るか、その横で生き残る」という難しい課題に挑まざるを得ませんでした。

 レッドブルは異なる缶のサイズで、モンスターエナジーは多様なフレーバーで、コンビニの“エナジードリンクを置くための”陳列スペースをしっかりと確保してしまう。そこに割って入るのはハードルが高いのです。

 まあ、「そもそもの規模が違う」といえばそれまでかもしれません。レッドブルも、モンスターエナジーも、単なる飲料のブランドではなく、世界的な企業としての資本力があるわけです。

 その上で、同社の製品はエナジードリンクというジャンルの最大手にもなっている。そこで勝負しろというのも、ちょっと酷な話です。「もうコカ・コーラとペプシコーラがいるけど、コーラというジャンルの中でシェアを伸ばせ」というようなものでしょうか。

コカ・コーラエナジー

コカ・コーラのエナジー版もありました。2019年の「コカ・コーラ エナジー」です

 「もっと安くすればいいのでは」「炭酸飲料なら、ペットボトルにするのはどうか」と思うかもしれません。そのラインだと、アサヒ飲料の「ドデカミン」、サントリーフーズの「デカビタC」、日本コカ・コーラの「リアルゴールド」あたりがライバルになります。

 逆にいうと、その価格帯の炭酸飲料は、国内メーカーががっちり押さえているともいえます。それらが“エナジードリンク”なのかは、人によって定義が分かれるところでしょうが。

リアルゴールドX

ちなみに、リアルゴールドブランドとしては2022年から「リアルゴールド X」「リアルゴールド Y」というエナジードリンクが発売されています(画像はリアルゴールド X)

 レッドブルとモンスターエナジーに(同じラインの商品として)国産のエナジードリンクが勝てなかった理由は、「レッドブルとモンスターエナジーが強すぎるから」ということは確かでしょう。

 ただ、その強さは一朝一夕で生まれたものではなく、エナジードリンクというジャンルの“火付け役”になったレッドブルと、細かな販売戦略が成功したモンスターエナジー、それぞれの歴史の積み重ねによるものといえます。

並び立たずとも、特徴があれば生き残れる?

 ネットやSNSなどで、「エナジードリンクは命の前借り」などという言説をよく目にします。

 しかしながら、エナジードリンクは成分から見ても、そこまで危険ではない。よくないのは飲みすぎること。エナジードリンクを毎日のように飲みすぎないとやっていられないぐらい、シビアな状況に立たされているとするならば、その状況こそが心身を削っているわけで。コーヒーだってお酒だって、「飲みすぎ」が最大の問題です。

エナジードリンク

エナジードリンクは飲めば飲むほど効くわけではないので、飲みすぎはご法度です。どんな飲料でもそうですが……

 ただ、難しいのは、エナジードリンクのちょっとケミカルなイメージが、かえって気合を入れるときにプラスのイメージを与えているということもあるかもしれません。そのためか、“健康志向”のエナジードリンクは、市場に出てもなかなかニーズを得られない傾向があるような……。

 エナジードリンクに求められる「エナジー感」を保持しつつ、日本国内でレッドブルやモンスターエナジーに負けない存在感を持つには、どうしたらいいのでしょうか。

 外食産業の話ですが、「死の谷」という現象があります。業界における最大規模のチェーンと、小さいけれども特色のあるチェーンは生き残りやすい。しかし、その間にある中途半端な規模のチェーン店は、赤字に転落してしまう(谷になってしまう)、という構造です。

 最大規模のレッドブルとモンスターエナジーに対抗して、小さいかどうかはともかく、特色のある何かを出せば生きていけるかもしれません。しかも、エナジードリンクに求められる、「インパクト」を持ったものならば……。

 今のところ、戦えていそうなのはサントリー食品インターナショナルの「ZONe」でしょうか。

デジタルカルチャーを志向したエナドリ「ZONe」

ZONe

ZONeの最新作、「Ver.3.0.0」

 2020年に登場した(正確にいうと、先行販売を「β版」と位置づけ、2019年12月からAmazonと大学生協で展開していました)ZONeは、「ゾーンとよばれる超没入状態に入るためのデジタルパフォーマンスエナジー。モニターと向き合うすべての人に、最高の没入とパフォーマンスを」とうたう、国産のエナジードリンクです。

 「500ml」「炭水化物(糖類)たっぷり」というわかりやすい個性。発売から3年ほど経ちましたが、多くのフレーバーを展開しながら生き残っています。

 発売当初、やはり500mlという量はインパクトがありました。ちなみに2019年にはモンスターエナジーも500mlのボトル缶を発売しており、「大容量でも売れる」という認識が飲料メーカーに生まれてきた頃だったのかもしれません。

 現在、ZONeは「Ver.3.0.0」が発売されています。2019年に先行販売されていたのは「Ver.0.8.5」。ソフトウェアのように製品名と内容が「アップデートされていく」という仕組みなのです。

ZONe

こちらは先行販売されていたVer.0.8.5。ソフトウェアのように製品名が「アップデートされていく」という仕組み

 国内の10〜20代、いわばデジタルネイティブ世代に向けた名称とブランドイメージ、そして内容設計。この点で、レッドブルやモンスターエナジーとの差別化を図りました。

 パラチノースが入っているのも「モニターと向き合うすべての人に」というポイントを押さえていました。ゆっくりと分解される性質を持ち、血糖値が急激に上がらないため、インスリンの急な放出や血糖値の急落を抑えられ、持続性のあるエネルギー供給ができるとされています。

 ちなみに、パラチノースだけでなくぶどう糖も含まれていることで、「炭水化物を取ると眠くなる」という問題に対処しています。作業のお供にしてほしいというメッセージを感じますね。

ZONe

「HYPER ZONe」(400ml)はフタ付きでどこでも飲みやすい。容量が大きいので「長い時間をかけて飲みきりたい」という需要もあるのでしょう

 多数のフレーバーを展開するだけでなく、「ウマ娘 プリティーダービー」「SPY×FAMILY」「東京リベンジャーズ」など、国内のゲーム・漫画の人気タイトルとコラボしていることも特徴でしょう。

 レッドブルとモンスターエナジーがモータースポーツや音楽イベントなどのカルチャーをサポートするのに対して、ZONeはe-Sportsやアニメ・漫画など、デジタル寄りのカルチャーをサポートする姿勢を打ち出しています。

SPY×FAMILYとZONe

「SPY×FAMILY」など、人気タイトルとのコラボも多いZONe

 もちろん、レッドブルも格闘ゲーム大会の「Red Bull Kumite」など、e-Spotsをサポートしていないわけではありません。ただ、どちらかといえば“競技”をサポートするレッドブルに対して、ZONeは発売当初から「e-カルチャーを愛するすべての人へ」とうたい、VTuber(に関わる人たち)やプログラマーなどにも飲んでほしい……というメッセージを出している点が、やや異なりました。

 2022年には、レッドブルやモンスターエナジーに並ぶ売上となった月もあるというZONe。大容量、商品を“アップデート”していく展開、デジタルカルチャーを志向した施策……。日本国内で国産エナジードリンクが生き残る方法の1つを示しているブランドといえるでしょう。

 筆者はもちろんレッドブルやモンスターエナジーも大好きです。ただ、それらだけでは、ちょっとさびしい。ZONeのように、イノベーティブ(?)な国産エナジードリンクがこれからも出てくることを期待しています。ZONeが息の長いブランドになってくれることも、あわせて願いつつ。

モーダル小嶋

モーダル小嶋

1986年生まれ。「アスキーグルメ」担当だが、それ以外も担当することがそれなりにある。編集部では若手ともベテランともいえない微妙な位置。よろしくお願い申し上げます。

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