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海外の人に伝えるなら……歴史か、味か、注文方法か:

「吉野家と松屋の違い」を聞かれたら、どう答える?

2023年07月26日 16時00分更新

文● モーダル小嶋 編集●ASCII

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吉野家

「変わらない」派もいれば「ぜんぜん違う」派もいる

 アスキーグルメのモーダル小嶋です。いきなりですが、質問です。「『吉野家』と『松屋』の違いを聞かれたら、どう答える?」。

 この質問、編集部の人に聞かれました。「そんなの、どちらにも行けばいいじゃないですか」と返したら、こう付け加えられたのです。「じゃあ、海外の人に聞かれたら?」と。

 筆者は即答できず、ちょっと考えてしまったんですよね。なぜ、すぐ答えられなかったか。答え方としては、おそらく、大きく分けて次の2パターンになると思うんですよ。

・「そんなに変わらないでしょ」派
・「ぜんぜん違うでしょ」派

 この対立は、SNSなどでもよく見られるパターンですね。

 詳しい人たちは違いにこだわり、詳しくない人たちは「どっちでも変わらない」と判断。さらには「詳しい我々は気にするが、どうでもいい人には本当にどうでもいいことなんだ」などという主張も出てくるでしょう。

 同じ事象に対して「そんなに変わらないでしょ」も、「ぜんぜん違うでしょ」も、状況によってはどちらも正解になってしまうのです。

 たとえば、「インテルとAMD、CPUを選ぶならどちらがいいの?」と聞かれた際、ASCII編集部の人だったら「ぜんぜん違うだろ」と激しい議論が始まりそうです。なんだったら「そもそも、その質問自体がおかしい、なぜなら……」という説教もスタートするかもしれません。

インテルvsAMD

AMD派のジサトラハッチ(左)とインテル派のジサトライッペイ(右)。この2人に「どっちもそんなに変わらないですよね(笑)」などと言ってはいけません(※写真は2022年に撮影されたものです)

 編集部で「そんなに変わらないでしょ」などと言ったらボコボコにされそうですが、一方、PCをまったく知らない人たちに違いを説明しろとなると、かなり面倒になるでしょう。

 筆者もASCII編集部にいるものですから、聞かれればがんばって説明はしますが、最終的には「どちらでもいいよ……」となってしまうかもしれません(もちろん、このケースも詳しい人に言わせれば「そうではない、よくわからないからこそ〇〇を選ぶべきだ!」となりそうですが)。

 さて、吉野家と松屋についてです。「チェーン店としての特徴」が違うという意見もあれば、そもそも吉野家の「牛丼」と松屋の「牛めし」が別物だろうという声もありそうですよね。同時に、「まあ、どっちも同じような店(あるいは、味)だよ」と主張する人も少なくないでしょう。

 日本で暮らしていれば、吉野家と松屋の両方、あるいはいずれかに入店したことがある人は多いはず。しかし、海外の人に話すとなると……。「どちらも『ビーフライスボウル』を出す店です」と言って、何が伝わるというのか……。

吉野家の箸箱

吉野家には開けると決まった角度で止まる箸箱がありますが、松屋にはない……という話をしても仕方がない気がする

 「吉野家と松屋はぜんぜん違うだろ! そんなこともわからないのか」と言うのも、「そんなに変わらないだろ、ファストフードだし」と言うのも、吉野家と松屋の違いを海外の人に聞かれたときには親切ではないような気がします。

 本記事の冒頭の問いに筆者が即答できなかった理由は、「チェーンとしての違い/味の違い、どちらで答えていいかわからない」「『大きく違う』というほどではないと思うが、『まったく一緒である』と言い切るのもおかしい」と考えて迷ってしまったからです。

 では、どう答えればよいのでしょうか。まずは、吉野家と松屋の歴史についてざっくりと整理しておきましょう。

牛丼チェーンの“元祖”である吉野家

吉野家

 吉野家は、1899年に東京・日本橋で創業されました。ちなみに吉野家の「吉」は本来ならば「『土』の下に『口』」ですが、表示できない環境もあるため、本記事では「吉」で代替表記しています。

 吉野家といえばなんといっても牛丼ですが、もともと、牛肉だけではなく豆腐や長ネギなども入っていたとのことです。令和に生きる我々のイメージからすると、“牛鍋丼”と表現すればよいでしょうか。

 魚市場が日本橋から築地に移転したことから、1926年に吉野家も築地に移転。1958年には株式会社吉野家を設立。この頃には、市場で働く人たちにスピーディーに提供できるように、現在の牛丼のスタイルになったといいます。

 その“築地一号店”において、市場で働く人たちのために特殊な注文にも対応していたというのは有名な話。たとえば、脂身の多い牛肉を盛り付ける「トロだく」、ごはんの下に牛肉を盛り付ける「肉した」などの注文に対応していたのです。

 それらの歴史を踏まえれば、吉野家が牛丼チェーンの“元祖”といっても、あながち間違いではないと思います。2003年までは、牛丼の単品経営が特徴でした。

吉野家

吉野家の牛丼は、具材を「円を描くように」盛り付けます

 また、松屋の創業者である瓦葺利夫氏は、その築地店に通っていたとのこと。吉野家が新橋に店舗を構える際に、瓦葺氏を誘ったというエピソードもあるほど。その縁で、松屋の1号店が江古田にできたときは、食材の卸は吉野家と共有していたそうです。

 さらに、「すき家」の創業者である小川賢太郎氏は、吉野家で働いていたことがあります。ゼンショーとして出店した弁当店の営業がふるわなかったことを受け、吉野家で働いていたことをヒントに牛丼店の営業を思いついたとか……。

 なので、吉野家は、松屋にもすき家にも影響を与えていたことになります。今回の記事は「吉野家と松屋の違い」についてなので、すき家について話せないのがちょっと残念ではあります。

 吉野家は、日本だけでなく、アメリカ、中国、台湾、インドネシア、シンガポール、タイなどにも支店があります。吉野家と松屋の違いを海外の人に聞かれた際、その人が海外の吉野家に行ったことがあるなら、説明はかなり楽になりそう。

 たとえば、横浜DeNAベイスターズに所属しているトレバー・バウアー投手は、YouTuberとしても目覚ましい活躍をしています。彼が秋葉原を訪れた動画では、吉野家に入店し、アメリカでの思い出を語っていました。

 

定食やカレーも重視した歴史を持つ松屋

松屋

 松屋(松屋フーズ)は、瓦葺氏が江古田で開店した定食店から歴史が始まります。江古田は学生街でもありながら、単身生活の社会人や家族で暮らす人たちなども多いため、定食やカレーにも力を入れるようになったといいます。

 先述した歴史を踏まえれば、松屋と吉野家は(とくに松屋の創業初期は)縁が深いのです。「牛丼/牛めし」に限っていえば、兄弟は言い過ぎにしても、親戚ぐらいのつながりはあるでしょう。

松屋

松屋の牛めしの場合、おたまが「大盛・並盛・ミニ盛」に対応するために段差がついており、吉野家よりも“サッ”と具材をかけている感じ

 ただ、海外での展開では、松屋の店舗は台湾にしかありません。2009年9月には中国・上海に直営1号店がオープンしていますが、現在は中国ではとんかつ業態「松のや」のみを展開。2019年にはロシア・モスクワで営業を開始しましたが同年に閉店。おそらく、海外での知名度では吉野家に分があるはずです。

 松屋は定食に力を入れていることもあり、ハンバーグ定食や焼肉定食などはもちろんレギュラーメニュー。新メニューの開発に関しても、上層部も積極的に関わって開発に取り組んでいるとのこと。

 また、ジョージア料理の「シュクメルリ」、ペルー料理の「ロモサルタード」など、世界のメニューをアレンジして定食にしているのも独自の魅力でしょう。

松屋のロモサルタード

松屋が2023年に販売していた「“松屋風”ロモサルタード定食」

 そういったわけで、卓上調味料やドレッシングがテーブルの上に多いのも、定食の展開が多いことを考えれば納得といったところ。あとは、どんなメニューにも(カレーでも)みそ汁が付くのも松屋の特徴ですね。

松屋のみそ汁

みそ汁が付くのも松屋ならでは。「麩のみそ汁」なのは創業者のこだわりだそうです

 このように松屋のビジネスモデルは吉野家とすこし異なるため、どちらも繁華街に出店することが多いのですが、立地に関しては微妙にこだわるポイントが違うところもあります。それらと比較して住宅街に出店することが多いのはすき家なのですが、このあたりの話は今回のテーマとやや逸れてしまうので割愛します。

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