デブリ対策だけにとどまらないアストロスケールの宇宙事業とは?
アストロスケールは、日本ではスペースデブリ対策企業としてのイメージが強い。実際、JAXAと契約した商業デブリ除去技術の実証衛星「ADRAS-J」は、今年度中に打ち上げを予定している。ADRAS-Jは軌道上に放置されたロケット上段や運用が終わった衛星の観測をする予定で、将来はスペースデブリの捕獲、除去を目指す。アストロスケールのイギリス支社は、通信衛星企業のOneWebと組み、運用が終わった後の衛星をすみやかに軌道から離脱させ、デブリ化を防ぐ技術を提供することになっている。
だがアストロスケールが提供するのはスペースデブリ対策だけにとどまらない。「軌道上サービス」というより広い視点での宇宙事業に取り組んでいるのだ。軌道上サービスとは、衛星や宇宙ステーションなどの宇宙機に修理や推進剤の補給、軌道の調整などを提供して長く活躍してもらうための「支援活動」のことを指している。
1970年代の宇宙実験施設「スカイラブ」を軌道上で修理したのが軌道上サービスの始まりとされ、2020年には高度約3万6000kmの静止軌道上の通信衛星に、ノースロップ・グラマンの軌道上サービス衛星が“合体”、推進剤の尽きた通信衛星かわりにエンジンを噴射して軌道を調整し、運用期間を延長させることに成功した。これにより、1機あたり数百億円の静止通信衛星を燃料切れで引退させてしまうよりも、エンジンの機能に特化した衛星をもう1機打ち上げて寿命を延長したほうが費用対効果が高いことが実証され、軌道上サービスに経済的合理性があると注目を集めることになった。
アストロスケールにはイスラエルに軌道上サービス専門の子会社もあるのだが、今回ハッブル宇宙望遠鏡のリブースト提案募集に応募したのは米国の子会社となる。これは、技術的詳細に関する情報をNASAから提供するという事情もあり、応募できるのが米国内の企業に限られたためだ。軌道上サービスは高価な衛星を修理したりドッキングして移動させたりできる技術で、裏を返すと衛星を破壊することもできてしまう。現状は、「国の衛星にサービスを提供できるのは、同じ国の事業者」というところまでしか法律の裏付けが整っていない。
アストロスケールのパートナーとなったモメンタスはカリフォルニア州の企業で、大型ロケットから放出された小型衛星を、目的の軌道まで精密に移動させるサービスを展開している。多数の小型衛星を「ファルコン9」(スペースX)のような大型ロケットで一度に打ち上げるライドシェアサービスが一般的になったため、宇宙空間まで打ち上げられた衛星を目的とする軌道まで連れて行く「宇宙タグボート」といわれる軌道の調整サービスも求められるようになったのだ。