電動キックボードは自動ブレーキの対象外
── 実際、電動キックボードの事故は多いんでしょうか。
ここ3年間で増えましたね。そのうち8割が東京、大阪、神奈川の大都市圏で、第1当事者は四輪車が42%。問題のひとつはいわゆる自動ブレーキが電動キックボードを現時点では認識できないことですね。衝突被害軽減ブレーキ、いわゆる自動ブレーキは新型の乗用車に対して2021年11月から法律で義務化されましたが、現時点で法規要件に電動キックボードは入っていません。もともと目的関数が入ってないわけで、センサーが電動キックボードを認識してもブレーキをかけるというプログラムにはなっていないんです。
── 商用車との事故も増えそうです。
私は過去、商用車の開発ドライバー職を拝命していましたが、バスや大型トラックの運動性能から考えて、電動キックボードが車道にぱっと出てきたら避けるのは難しいです。バスも大型トラックも乗用車の8割くらいの急ブレーキがかけられますが、トラックの場合は積荷が崩れて賠償責任を負うリスクがあり、路線バスであれば車内に立っている人が転んでしまう車内事故の可能性がある。こういった理由からも、今後7月1日以降は望まない加害者、望まない被害者が増えていくだろうと予想されます。自動車保険を扱う保険会社は「支払額が増えそうだ」と言っています。専門用語では「社会的損失度が上がる」と言うんですが、事故が増え、支払額がかさめば将来的には自動車保険も上がる可能性がありますよね。
── 基本的にはドライバーが気をつけるしかないんでしょうか。
ドライバー側に言えることとしては、ドライブレコーダーを買い替えるとき、古いものを歩道側に向けて残してもらえたらどうかということですね。新しいドラレコを付けるなら、せめて360度がわかるものにしてはどうかと。
── いざというときのために証拠能力を持っている必要があると。
ただ一方でメーカーの肩を持つわけではないですが、電動キックボードのいいところもたくさんあるんです。小さくて軽いから置き場所を取らないし、あと乗ってないときも、片手というわけにはいかないけど、簡単に移動ができるから、家の中にも入れられたり、集合住宅でも使い勝手が良かったりする。
それにこの状況は今に始まったことではなく、ホンダがエンジンを装着した自転車「バタバタ」を出したときも、当初は安全な乗り方の周知がなされず、結果的に事故が増えた。だからホンダは1970年、安全運転普及本部を設立したわけです。メーカー主導で正しい使い方を教えた。ですから、この先は電動キックボードなどのメーカーがユーザーと一緒になって正しい乗り方の啓発をしていただければいいと思います。たとえば、まっすぐ走らせるためには足元ではなく遠くを見る。スマホや傘を片手に運転しない。ブレーキをゆっくりかけるなどです。
そしてこれから電動キックボードを買おうと思っている人は体験できる場所を見つけ、まずは一度、ヘルメットを着けた状態で乗ってみてもらいたいですね。
メーカーなど業界の取り組みが重要に
「キックボード法」とも呼ばれる、7月1日施行の改正道路交通法。規制緩和と思いきや、安全面においては厳しい方向になっているということに驚かされました。私自身も電動スクーター(原付一種)に乗っていますが、体幹が重要でバランスを取るのが意外と難しく、特に低速域ではふらつき、転びそうになったこともあります。西村さんの話にもありましたが、今後はメーカーを中心とした電動キックボード業界がいかに安心・安全な交通社会を作っていけるかが命題となりそうです。
書いた人──盛田 諒(Ryo Morita)
1983年生まれ。6歳児と2歳児の保護者です。Facebookでおたより募集中。
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