「インターネット」と「AI」という2つの革命の未来を展望、出版記念講演イベント
「インターネットの敵」とは誰か? セキュリティ研究者ヒッポネン氏の問いかけ
2023年06月28日 11時20分更新
現在進行中の「AI革命」はインターネット革命を超えるインパクト
およそ30年前に起きたインターネット革命を超えるインパクトを社会に与える可能性があるものとして、ヒッポネン氏は現在進行中の「AI革命」を挙げる。特に「ChatGPT」「DALL-E」といった生成AI(ジェネレーティブAI)の急進化は、テクノロジーに詳しくない一般層にまでAI革命のインパクトの大きさを知らしめる結果をもたらした。
インターネット革命とAI革命の大きな違いは、社会における“語られ方”にあるとヒッポネン氏は指摘する。30年前のインターネット登場時には、功罪の“功”の部分、すなわち明るい側面に期待する声がほとんどだった。当時、現在起きているようなサイバー犯罪やサイバー戦争を予言する人はほとんどいなかったのだ。
それと比べると、現在のAIに対する声は「AIが人間の仕事を奪う」から「倫理性の欠如」「ディープフェイク」「プライバシー侵害」まで“罪”の部分、暗い側面に集中しているように見える。
ヒッポネン氏自身も、現状はまだ大きな脅威になっていないものの、将来的にはサイバー攻撃者がAIを活用して攻撃の自動化を図ってくることを懸念しているという。一方で、WithSecureのようなセキュリティ企業や一般企業のような防御側でもAIによる自動化が進み、やがて「善いAIと悪いAIの戦い」になるだろうという見解だ。
それでも、かつてのインターネット革命がそうだったように、AI革命も“最良のこと”と“最悪のこと”の両方をもたらすとヒッポネン氏は断言する。「AI革命によってもたらされるメリットもまた、歴史上かつてないほど大きなものになるはずだ」(ヒッポネン氏)。
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「インターネットの敵」とは誰か? 今回の講演では主にサイバー犯罪者グループにフォーカスが当たっていたが、同書ではそのほか、グーグルやフェイスブックのような巨大テクノロジー企業(ビッグテック)によるデータの独占やプライバシー監視、国家によるサイバー諜報やサイバー戦争などのテーマも大きな柱となっている。帯に書かれたコピーは「自由なインターネットは死んだ。あなたのプライバシーも死んだ。」だ。「革命」と呼ばれるフェーズを終え、日常に浸透するインターネットにおいて、個々人が「敵」を厳しく見定めることが自由なインターネットの未来を左右することになる。
それでもなおヒッポネン氏は、インターネットの行く末に対して「楽観的」だ。それは単純な楽観主義などではなく、「悲観的な見方をする時期はもう過ぎ去った」からだという。同書のあとがきにあるこの言葉からは、30年以上にわたって「インターネットの負の側面」を見続けてきた経験の重みと同時に、それでも常に善い側面を生みだそうとする人間への絶対的な信頼(テクノロジーへの信頼ではなく)が感じられる。
「インターネットの敵」とは誰か? サイバー犯罪の40年史と倫理なきウェブの未来
著者:ミッコ・ヒッポネン 訳者:安藤貴子
発行:双葉社 定価:本体2800円+税(ソフトカバー版。電子版あり)
最高で最悪なインターネット/マルウェア全史――あのころ、現在、そして近未来/ヒューマンエラー/スマート社会は穴だらけ/プライバシーの死/暗号通貨の時代/インターネットと諜報、そして戦争/インターネットと私たちの未来