kintone hive 2023の第2弾が福岡で開催された。会場はいつものZepp福岡。kintone hiveはkintoneのユーザー事例を共有しあうイベントで、優勝した企業は「kintone AWARD」に進出する。登壇したのは5社で、今回はトリとなる5番手は九州ではおなじみの西鉄。西日本鉄道 自動車事業本部 川崎健太氏と下條寛顕氏によるプレゼン「kintoneと共に進む 西日本鉄道のデジタルトランスフォーメーション!」の様子を紹介する。
DXへの取り組みでノーコードツールの導入を検討、条件に合うのがkintoneだった
西日本鉄道は福岡を中心に鉄道やバス事業を展開している大手私鉄企業。西鉄グループとしてショッピングセンターやホテル、物流事業、住宅事業など幅広い事業を展開しているのも特徴だ。川崎氏はそんな西日本鉄道の情報システム部門であるDX・ICT推進室に所属し、業務改善を担当している。
「世の中、DXと叫ばれるようになって久しいですが、弊社もDXには積極的に取り組んでおります。使いやすいサービスの追求と体験価値の向上を目指し、日々、ITサービスの活用可能性を模索しています。そんな中、さらなる生産性向上のために、ノーコードツールの導入を検討し始めました」(川崎氏)
川崎氏がノーコードツールに求めた条件は大きく3つある。1つ目が、現場の人間でも気軽に業務で使えるような操作性。2つ目は、導入障壁とならないようなコスト。3つ目は現場の多様な課題を柔軟に解決できる機能性で、これらすべてを満たすのがkintoneだった。
kintoneの運用は4つのステップを踏んだ
kintoneの導入が決まった後は、4つのステップを踏んで運用をスタートさせた。ステップ1は「ルール策定」。kintoneは現場でアジャイル的な開発や保守ができることが強みではあるものの、やはり、開発過程において属人化が起きてしまうことがある。また、アプリのセキュリティ設定をおろそかにすると、情報の流出を引き起こしてしまう可能性もある。それらのリスクを回避するために、まずkintoneの利用ルールを制定した。
運用開始後にルールを厳格化していくのは難しいと考え、まずは厳格なルールを敷いて、その後の運用の中で、必要に応じてルールを緩和していく方針にしたのだ。ルールの中には、セキュリティ規則やフィールドコード、アプリの命名規則など、幅広い内容を盛り込んでいる。
「ルールの中でも、開発スペースと本番スペースの使い分けが特徴的かと思います。各部ごとに開発スペースと本番スペースの2つを設けており、開発スペースではユーザーは自由にアプリを作成できます。その後、本番稼働する際には、DX・ICT推進部に申請してきただき、我々が精査をした後に、本番スペースに移動する運用です。そうすることで、各部の運用状況の把握ができるだけでなく、管理統制もできます」(川崎氏)
次のステップは「教育コンテンツ」。同社はインターネット上に専用のポータルサイトを開設しており、策定したルールやガイド、研修の開催案内など、kintoneに関するすべての情報を発信している。
研修動画もポータルサイトに掲載しており、kintoneの基本操作やフォームブリッジやkViewerなどのよく使う拡張機能の利用方法などでユーザーがいつでも学習できるようにしているという。
現場への導入はいきなり切り替えず並行期間を設ける
ステップ3が「本格導入」について。同社は内製化というスタンスで開発から運用に至るまで一貫して事業部門が主担当を担っている。そこで、このステップは事業部門を代表して、下條寛顕氏がプレゼンしてくれた。
「バスの現場を回している営業所は、紙にあふれています。バス事業を運営するには、各種法令に則って、必要な保存年限が定められた紙資料がたくさんあります。保存している紙もなかなか振り返って見ることがないので、カゴに入れて倉庫にしまっていて、どこに何があるのかよくわからない状況です」(下條氏)
しかし、ずっとアナログが当たり前の状況で、特に変えなくても業務を行なえていたため、なかなか業務効率化を勧められなかったそう。そんな中、2020年に下條氏は部門内の業務改善プロジェクトという部署に配属になった。「業務改善をしろ」と言われたものの、「コロナ禍で業績が大幅に悪化したためお金は使えない」とも言われた。
そんな時、同社でノーコードツールの導入を検討することになった。川崎氏がいるDX・ICT部門から社内実証への協力を打診され、行き詰っていた下條氏は二つ返事で承諾した。
まず取り組んだのが、営業所から本社に提出する報告書のkintoneアプリ化だ。従来は、ご多分に漏れず、紙で報告書を書いて、ファックスして、ファックスが届いてますかと連絡していた。内容に不備があれば書き直して、またファックスするというような状況だったのだ。
現場からはトヨクモの「フォームブリッジ」で情報を入力してもらい、本社側はkintoneで情報を管理できるようになった。その際、いきなり切り替えるのではなく、数ヵ月間はあえて両方とも使える並行期間にした。先行して使ってもらった人から、意見を吸い上げ、ブラッシュアップする助走期間としたのだ。
予想通り、フィードバックが寄せられた。たとえば、せっかくウェブに移行したのなら、自動で入力する箇所を増やしたいという要望。これにはkintone連携サービス「kViewer」を利用。kintone内の情報を外部公開するサービスで、ユーザーが入力する手間を減らすことができた。
また、報告したあと、結局電話をかけている、という声があったので、こちらは「フォームブリッジ」の機能を利用し、報告書を提出した際に、本社側の担当者に自動でメールを飛ばすようにした。
営業所内での回覧のために紙が必要になることもあり、ウェブページをそのまま印刷しても見栄えが悪い、という意見もあった。そこで「プリントクリエイター」というkintone連携サービスで、従来の報告書と同じ体裁で、kintone内のデータを印刷できるようにした。
元がアナログ職場なので、リリースにあたっては、丁寧すぎるぐらい丁寧なマニュアルも作った。項目1つ1つの入力方法を説明するなど、あえてリリース前に労力を割くことで、導入後の質問を減らそうと考えたそう。
「現場の声を聞き、少しでも60点のものを70点、80点にすることで、本運用を開始した後も、割とすんなりと受け入れてもらいました。現場から、使いにくいというクレームはほとんどなく、成功事例だと思っています」(下條氏)
報告書アプリを皮切りに、kintoneが少しずつ浸透しはじめたという。そこで、活躍したアプリを2つ紹介してくれた。
「1つ目が、コロナが蔓延する中でのアプリ活用です。従業員が感染した時に電話連絡していたのですが、感染の波が大きくなると、電話では対応しきれません。そこで、営業所で誰が休んでいるのかを入力してもらい、CSVで出力することで、勤務者数を把握するアプリを作りました。第7波や第8波は、このアプリがあって助かったと思います。もう1つが、乗務員さんに配転希望調査を行なうのですが、今までは紙で出してもらったものをExcelに転記していました。これもフォームブリッジで回答してもらい、kintoneに集約し、分析できるようになり、効果が大きかったです。これらのアプリは、この先何年も活躍してくれると思っています」(下條氏)
このように、下條氏はkintoneを活用した業務改善に成功したものの、一部、業務改善やアプリの開発に行き詰まったユーザーや部署もあった。そんなユーザーのために、川崎氏は毎月、業務改善相談会やkintoneの操作方法に関する研修も開催している。
また、各部署がどんなアプリを作り、どれぐらいの業務削減ができているのかを見える化することで、社内のナレッジ共有やモチベーションの向上も行なっているという。たとえば、毎年、業務改善表彰式を開催している。kintoneやRPAを用いた業務改善を行ない、優秀な成績を残した方に、担当役員より表彰状を授与している。
真のDXを実現するために気をつけたい3つのこと
「kintoneを使い続け、真のDXを実現するために、3つ、気を付けなければいけないことがあると考えています」と川崎氏。
第1に手段と目的を混同しないこと。kintoneはあくまでも手段で、使用すること自体が目的となってしまっては、何の意味もない。場合によっては、kintoneを使用しないという選択肢がベターなこともある。その見極めをできるユーザーを育成していきたいという。
2つ目は、サービス開発はUX第一ということ。働き手が楽になることも大事だが、アプリを使うユーザーが不便になっては意味がない。業務に関連するステークホルダーやプロセスをすべて洗い出して、全体最適化を図っていくような意識付けをしていきたいと考えているという。
3つ目は、浮いたリソースを有効に活用すること。業務削減に成功したら、その時間とコストを使って、新たな付加価値を生み出すことができて、初めて業務改善と呼べるという。
「西鉄は多様な事業ドメインそれぞれで、今後もお客様に選び続けてもらえるようなサービスを提供するために、ITツールやデータを活用した事業改革を行なっていきます。kintoneはそのような改革を支えるサービスだと考えており、そんなkintoneの可能性を最大限に引き出して、お客様に還元していきます。そのために情報システム部門と事業部門が一体となって、今後も頑張っていきたいと思います」と川崎氏は締めた。
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