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前田知洋の“マジックとスペックのある人生” 第191回

2倍の力で切断できるニッパー「BiCutダブルパワーカッター」

2023年04月25日 16時00分更新

文● 前田知洋 編集●ASCII

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良い工具は高いけど、コストパフォーマンスはいい

 「弘法筆を選ばず」なんて有名なことわざがありますが、その道の達人ならそうなのかもしれません。しかし、筆者のような凡人は、毎日使うPC、料理道具、DIYの工具などは、できるだけスペックが高く、良いものを使うようにしています。もちろん、筆者の仕事のマジックでもそう。

筆者の仕事道具のトランプ。アメリカのUSPC社の「Tally-Ho」というブランドを30年ほど使っている

 筆者は、安全や健康に関わるものは、値段で選ばず、できるだけ良い製品を選ぶようにしています。最近は、100円ショップなどでも、なかなかのクオリティーの商品が手に入る便利な時代。しかし、とくに刃物のジャンルは、良いものは使いやすい上に長持ちするため、長い目で見るとコストパフォーマンスが高い……そう考えています。

 今回、取り上げるのはそんな工具。ドイツの老舗工具ブランド、ビーハ(Wiha)の「BiCutダブルパワーカッター クラシック」です。

Bicutダブルパワーカッター クラシック。アマゾンで6437円で購入

あまり知られていない、ニッパーの用途

 ニッパーは、針金などを切る、ペンチに似た道具のこと。DIYに詳しくない人は「ニッパーなんて、どれも同じでしょ?」と思うかもしれません。

 実際、1つのニッパーで、針金からリード線までいろいろなものを切る人も少なくありません。しかし、たとえばプラモ作りが趣味なら、パーツをゲートから切り取る際にゲートカット用のニッパーを使っている人も多いのです。

爪の手入れに使う甘皮切り用ニッパー(左)、プラモデル用のゲートカット用ニッパー(右)

 ニッパーの刃の角度や材質は、切る対象によって違います。プラスチック用のニッパーで針金などの金属を切ってしまうと、すぐに刃こぼれしてしまいます。逆も同じで、鋼線用でプラスチックはうまく切れません。

特殊鋼C70の「落とし鍛造」でHRC64の硬度

 Bicutダブルパワーカッターの材質は、「落とし鍛造」による特殊鋼C70です。

 落とし鍛造とは耳慣れない言葉ですが、海外では「DROP FORGED」と呼ばれ、赤く熱した特殊鋼C70を上下から高圧で挟んで作る、手間のかかる製法です。

 さらに、刃先を高周波で焼入れし、硬度をHRC64まで高めています。HRCとは、工業材料をはじめとする物質の硬さ、すなわち硬度の示し方の一つ。一般的なヤスリの刃の硬さがHRC60程度(58、62など)ですので、Bicutダブルパワーカッターの刃先の硬さがよくわかります。

 メーカーによると、切断用途は、ケーブル、釘、ネジ、ボルト、チェーンなどだそう。筆者はそんな硬い金属の切断に毎回苦労をしていますが、Bicutダブルパワーカッターに助けられています。

刃先の硬さだけじゃない、力が2倍になるギミックも

 Bicutダブルパワーカッターシリーズには、軸にある「POWER」ボタンを押すと、切断力が2倍になるという特徴があります。マジックではありません。

目立つ「POWER」ボタン

 タネを明かすと、ニッパー内部に2つの支点が隠れていて、テコの原理で作用点の力が2倍になるシカケです。

ボタンを押すと、力が2倍になるが持ち手に比べて刃先の開きが1/2になる

ただし、POWERボタンを押すと、刃先の開く角度は狭くなります。ボタンを押した場合の刃先の最大口は10mm。おそらく切断できるのは8mm径くらいの鉄線まででしょう。それ以上の鋼線は、全長が75センチ以上のボルトカッターなどでないと切断は難しいかもしれませんが、そんなケースは稀なはず。

POWERボタンを押した場合の刃先の開き具合

「Bi」は「倍」のダジャレ?

 おもしろいのは、商品名の「BiCut(バイカット)」の「バイ」という単語。日本語の「倍(ばい)」と同じ発音です。これは日本語のダジャレではなく、ラテン語で「2つ」を表す「bi-」が語源だと推測しています。

 たとえば、2ヵ国語を話せるバイリンガル(bilingual)、2つの車輪があるバイシクル(自転車、bicycle)、コンピューター用語でも知られるバイナリー(二進法、binary)も同じ語源です。

 この商品名が「BiCut」なのは、力が2倍になることもさることながら、通常の材料でも硬い材料でも切れるという、“2つ”の役割をこなせるニッパーという意味だと想像しています。

使う人の健康を考える工具

 ビーハという会社は、使う人の身体を痛めず、ユーザーが健康を守るためのデザインの取り組みも手がけています。

 確かに、ドライバーを使っていて手や手首が痛くなった、ペンチを使っていて指を挟んだ……などの経験は誰にでもあるはず。そうした工具を使っての疲労やケガを予防するため、専門医と連携しながら工具を開発しているそう。

 下の動画はドイツ語ですが、歯車マークから「ドイツ語(自動生成)>>日本語」に設定することで、日本語字幕でご覧いただけます。

 ただ、今回紹介したBiCutダブルパワーカッターは、ARG(身体への負担を少なくする承認付きモデル)ではないのが残念です。クラシックな形が気に入って購入したので、筆者としては問題ありませんが。

 もし、工具箱や工具の置き場所がいっぱいなら、ぜひ“2-in-1”のBicutダブルパワーカッターシリーズがおすすめです。

 ちなみに、1000Vの電圧まで耐えられるハンドルがついたモデル(Insulated Industrial BiCut Compound Cutter 8.0)もあります。こんな需要のツールもあるのですね。

前田知洋(まえだ ともひろ)

 東京電機大学卒。卒業論文は人工知能(エキスパートシステム)。少人数の観客に対して至近距離で演じる“クロースアップ・マジシャン”の一人者。プライムタイムの特別番組をはじめ、100以上のテレビ番組やTVCMに出演。LVMH(モエ ヘネシー・ルイヴィトン)グループ企業から、ブランド・アンバサダーに任命されたほか、歴代の総理大臣をはじめ、各国大使、財界人にマジックを披露。海外での出演も多く、チャールズ英国王もメンバーである The Magic Circle Londonのゴールドスターメンバー。

 著書に『知的な距離感』(かんき出版)、『人を動かす秘密のことば』(日本実業出版社)、『芸術を創る脳』(共著、東京大学出版会)、『新入社員に贈る一冊』(共著、日本経団連出版)ほかがある。

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