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国内規制緩和に向けたWEB3ビジネスのいま

JID2023セッションレポート「若手起業家はなぜWEB3で起業するのか?」

連載
JAPAN INNOVATION DAY 2023

 ASCII STARTUPは2023年3月3日、赤坂インターシティコンファレンス(東京都港区)で先端技術やイノベーションに関わる企業、団体が集う展示会とカンファレンス「JAPAN INNOVATION DAY 2023」を開いた。「若手起業家はなぜWEB3で起業するのか?」と題したセッションを紹介する。

 次世代インターネット「WEB3(ウェブスリー)」を活用した起業が2022年から国内でも増加傾向にあり、未整備だった国内の規制のあり方についても政府が緩和に向けて動き出した。ただ税制などを理由に起業家の国外流出も続いている。セッションではWEB3の進展に向けて必要なことは何か、コミュニティーにあり方を論じた。

 登壇したのは、Pivot Tokyo株式会社取締役の満木夏子氏、渋谷区産業観光文化部グローバル拠点都市推進室グローバル拠点都市推進主査主任の中屋力氏、株式会社ガイアックスPlanetDAO事業部長の西村環希氏の3人。満木氏はモデレーターも務めた。

グローバルコミュニティーを運営する満木氏

 WEB3を推進するビジネスコミュニティー「Web3BB(Web3 Beyond Borders)」を主催するPivot Tokyoの満木氏は、2023年も4月、7月、12月に開催する。昨年までの「NFT_Tokyo」の名称からWeb3BBと衣替えした。

Pivot Tokyo株式会社取締役の満木夏子氏

 2022年は3月を皮切りに7月に蒲田で約600人、12月に浜松町で約1000人が参加したイベントを開催。米国シリコンバレーにも法人を置き、人脈を生かして日本のイベントに業界の著名人が毎回参加する。満木氏は「日本国内でWEB3ビジネスをどのように推進していくか。企業目線で参入するにはどのようにしたらいいかを考えるグローバルコミュニティーを運営している」と自己紹介した。

渋谷区でスタートアップ支援事業を推進する中屋氏

 渋谷区グローバル拠点都市推進室の中屋氏は、内閣府の科学技術・イノベーション推進事務局への出向を経てスタートアップ支援事業を担っている。

渋谷区産業観光文化部グローバル拠点都市推進室グローバル拠点都市推進主査主任の中屋力氏

 2000社以上のスタートアップが集積する渋谷区は官民連携コンソーシアム「Shibuya Startup Deck(シブデック)」で銀行口座の開設支援などスタートアップがビジネスをしやすい環境整備事業を展開。海外企業に1年間の「スタートアップビザ」を出してグローバル化推進事業にも力を入れ、実証実験の場も通年で提供する。中屋氏は「渋谷にスタートアップ・エコシステムを形成するため、行政として支援事業を展開している」と話した。

WEB3に特化のシェアオフィスと「PlanetDAO」事業の西村氏

 起業支援スタートアップスタジオのガイアックスでPlanetDAO事業部長を務める西村氏は、WEB3に特化したシェアオフィス「CryptoBase(クリプトベース)」を渋谷駅から徒歩4分の場所に22年9月にガイアックスが設けたことを紹介した。NFT(非代替性トークン)の「NFT会員証」で解錠できるスマートロックを自社開発して導入した。

株式会社ガイアックスPlanetDAO事業部長の西村環希氏

 Web3の勉強会やイベントを定期的に開催して、月に300人から500人が参加するコミュニティーに育っている。西村氏自身は、DAO(分散型自律組織)を活用するPlanetDAO事業に取り組んでおり、「6月にリリースする。今日は日本の規制問題を話し合いたい」と述べた。

WEB3ビジネスの認知はまだまだ

 WEB3ビジネスやコミュニティーの現状ついて満木氏は、暗号資産(仮想通貨)や高額で取引されていたNFTアートの価値下落を念頭に「WEB3は冬だと言われる」と切り出した。「だから(何も)やっていないかというと実はそうではない。投機的な動機のNFTトレーディングではなく、ブロックチェーン(分散型台帳)をインフラのように社会的に実装することを大手ブランドがやっている」と話した。

 具体的にはスターバックスがロイヤルティープログラム(優良顧客の特典)を(WEB3で)一新する話を紹介。「お客さんが知らないで裏でWEB3になっていたみたいなこと」で、5年、10年かけるインフラの総入れ替えに各社が取り込んでいる。ただ企業が実際に消費者向けサービスでWEB3を実装しようしとしても、認知やリテラシー不足で二の足を踏んでいる。「日本国内で何パーセントの人が本当にNFTを聞いたことがあるだろうか」と疑問を呈した。

 中屋氏はNFTアート集団によるイベント「Bright Moments(ブライトモーメンント)」が5月に予定されており、「渋谷という街の注目度は世界的になっている」とした。とはいえ規制や法整備が追いついていない課題感もある。「行政として規制緩和を提案できることがある。イベントでは会場探しやホテルのディスカウント(割引)などでサポートしている」と話した。

 西村氏はWeb3コミュニティーの重要性が理解されてきた現状を話した。「いいコミュニティーで(Web3を)よく知っている人とつながって話ができる時間はとても貴重。(Web3やNFTの)規制の部分はこれからどんどん変わっていくので、何が正しくて何がダメなのかをキャッチアップできる」とした。クリプトベースで開催しているイベントに来れば「ファウンダー(創業者)同士がマッチングしたり、開発できる人を探したりできる。そういう場所になってきた」と紹介した。

若手起業家や大手企業の取り組みは?

 次に、若手起業家と大手企業と取り組みを意見交換した。満木氏はWEB3で日本の起業家が海外で法人化するのは主流ではないが、規制の問題でそうせざるをえない現状を認める。「この問題は政府のみなさんも(対応策を)やっている」とした。海外で成功しているWEB3企業やスタートアップの経営者層には米巨大IT企業のGAFA経験者が入ってグロースフェーズ(成長段階)に入っている。「Web2で成功した人たちがWEB3に目を付けているのは、今後成長すると読んでいる指針や目安になる」と話した。

 中屋氏は2月にイスラエルで開かれたスタートアップイベントにブースなしで参加し、ドバイを視察して現地の日本人コミュニティーで聞いた話を紹介。日本でWeb3ビジネスをしようとしても所得税55%がかかるのは世界的にも厳しい制度だと指摘を受けた。「とてもじゃないけどビジネスをする状況ではないとの生の声は耳が痛かった。ただ日本に戻りたい気持ちはあり、行政として環境整備をサポートしていく」と述べた。

 西村氏はクリプトベースに来ている人たちが日中はWeb 2.0の会社で働き、WEB3は個人の興味で勉強して開発したり、海外のDAOプロジェクトを日本語で発信する手伝いをしたりしているという。「フルタイムでWEB3をやっている人はまだ少なく、フルタイムでやる人はみんな海外に行って日本にはいない。準備が整うとみんな行ってしまってすごくもったいない」と残念がった。

 日本ではビットコインが消失した「マウントゴックス事件」(2014年)や、暗号資産の取引所がハッキングされた「コインチェック事件」(2018年)で規制が厳しくなった。その一方で、2022年に閣議決定された「デジタル社会の実現に向けた重点計画」で「Web3.0の推進」が盛り込まれた。むしろ今、米証券取引委員会(SEC)が暗号資産に対する規制を強めている。西村氏は「日本は一度厳しくしたので、今後はどのように個人を守りながら規制を緩めるかの議論を始めている。環境整備ができて海外のプレイヤーや日本のプレイヤーが伸び伸びと活躍できる場所ができればいい」と希望を語った。

握手券や会いに行けるNFTなら世界初になる

 WEB3ビジネスは今後、日本でどうなるだろうか。満木氏は「展開できると思うし、そうあってほしい。WEB3企業は日本にもあって国内大手と取引しているからゼロではない。ただ、これからどれぐらいの日本企業が海外に出て行けるだろうか」と問いかけた。「資本が物を言うパワープレイの世界に入ってきている。スタートアップだけではなく政府やVC(ベンチャーキャピタル)が一体となって取り組むこの5年、10年が重要」とした。

 その際、重要になるのは一次情報だ。「カンファレンスをオーガナイズ(組織)する時に、かなりこだわってやっている。誰かの解釈が入ったもの聞いていると、一次情報と異なることがある。一次情報をもとにリサーチをかけて海外企業の人に直接つなげている」と指摘した。

 日本企業はコンテンツづくりが上手なことも強みになる。「音楽CDで握手券がついていたりミートアップ(会い)に行けたりするのが昔からあった。あれをNFTにしただけで世界に事例がないコンテンツが作れる」とアイディアを披露した。NFTをテクノロジーで語るより、中身に何を入れるかが大事だ。「今あるビジネスにNFTをどう掛け合わせたら今までなかった体験ができるか。このアプローチの方が日本企業に合っている」と話した。

 中屋氏も「本当に日本にはアイドル以外にもマンガやアニメ、ゲームと本当に(NFTに)相性良いコンテンツがある。きちんとした法整備をグローバルに負けないスピード感で整えていけば十分可能性がある」と賛同した。

 西村氏は、廃家屋や廃寺に出資してリノベーションするプロジェクトを紹介しながら「ほぼすべての都道府県にご当地キャラクターがいる国はほかにない。それくらい地域には魅力が詰まっている」と地域の可能性を紹介した。ただし、NFTやDAOを現地で説明しても通じない。WEB3ツールは開発途上で導入が難しいのが難点だ。「仮想通貨を保有するウォレットは私たちでも手間取る。まだそんなクオリティなので改善が必要だ。DAOとかNFTなどの専門用語なしに、本質的に何がしたいかをちゃんと伝える力も必要」とした。

 満木氏は「WEB3はやっぱりとっつきにくいイメージがある。ブロックチェーンはすごく難しそうで、なんか怪しいことを聞いたけど大丈夫かとか言われる」と応じた。その上で「世界的な大手企業で、これまで手を出してこなかった人たちも実装に向けて動いている。今からでも遅くはない」と話した。西村氏は「クリプトベースで毎週水曜日にコミュニティーランチを設けている。イベントもやっているので気軽に来てほしい」と結んだ。

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