プリペイドSIM天国だった香港
実名登録必須になりどう変わったのか
香港は世界中のスマートフォンが輸入されてくる「スマホ天国」ですが、プリペイドSIMについてもキャリアの店やコンビニ、そしてSIMを売る屋台などがあちこちにあり、本人認証も不要で自由に購入して使うことができる「プリペイドSIM天国」でした。
しかし2023年2月24日からプリペイドSIMの実名登録が完全義務付けられ、購入したSIMは各キャリアの登録ページから身分証明書を使った登録が必要となったのです。登録先はプリペイドSIMを買うと説明書に書いてありますし、香港電信管理局(OFCA)が一覧ページを作っています(香港電信管理局サイト)。
プリペイドSIMは1人あたりの購入制限も新たに設定され、1ブランドあたり上限10枚までとなります。ただしキャリアによっては複数のブランドを出しており、たとえば3HKなら「3HK」「SoSIM」「Mo」などを販売しているので、それぞれ別カウントになります(この3ブランドをそれぞれ10枚ずつ、合計30枚買える)。またプリペイドSIMの有効期限がくれば自動的に10枚の枠から消えますし、紛失してしまった時も登録ページから消すことが可能です。
プリペイドSIMを何枚も買うなんて日本ではあまり考えにくいかもしれません。香港ではプリペイドSIMを売る屋台では定価以下で売られており、500円程度のプリペイドSIMも山のようにあるのです。たとえば筆者が端末5台をテストするとき、手持ちのSIMを入れ替えるのも面倒なので、外出して10分くらい歩いたところにある「SIM屋台街」に出向いて適当なプリペイドSIMをまとめて買ってきます。
10枚も買わなくとも、海外からの来訪客や、仕事で別の電話番号が欲しいなんて香港の人たちにとっても、SIMを買ってからいちいち登録しなくてはならないのは面倒なもの。それを嫌ってプリペイドSIMの販売数も今後どんどん減っていくのではないかと思われます。香港からいずれSIM屋台が消えてしまうかもしれないのです。
筆者がそのように危惧するのは、過去に同じ事例を見てきたからです。
シンガポールやタイも実名登録必須に
そしてプリペイドSIM屋は激減
まずシンガポールは2005年11月からプリペイドSIMの実名登録を開始しました。購入制限は1人10枚。それ以前は街中どこでも好きなだけプリペイドSIMを買うことができたのです。いわゆる「赤線地域」のゲイランにはプリペイドSIM屋台がずらりと並んでいましたし、有名なショッピング街であるオーチャードロードの歩道にもSIM売りの移動屋台が多数あり、気軽に買うことができました。しかしユーザー登録が始まったあと、それらは次々と消えてしまったのです。なお2014年からはプリペイドSIMの購入上限が3枚になっています。
また、タイも2015年8月からプリペイドSIMの実名登録を完全義務化。バンコクの「スマホの聖地」だったMBKショッピングモール4階のスマートフォンフロアでは、プリペイドSIMが山のように売られていましたが、それも現在はほぼ見かけることがなくなりました。
この2ヵ国の現状から、いずれ香港も同様に街中からプリペイドSIM屋台がなくなってしまうかもしれません。日本人的視点からすれば、ahamoがあれば世界各国でそのまま使えますし、ほかのキャリアも国際ローミング料金を使いやすい設定にしています。そのため香港のプリペイドSIMの魅力は以前ほどないかもしれません。でも複数のスマートフォンを香港に持ち込んで、それぞれの端末にSIMを入れるというのも便利なものです。
観光客が戻ってきたのでSIM屋台も復活!
世界中のプリペイドSIMが買えるので人気
それでは実際に現状はどうなっているのでしょうか。2023年3月18日、プリペイドSIM登録から約1か月経った香港の屋台を訪問してみました。深水埗にある屋台街では、たしかに店舗が減っています。
開いている屋台も売るものがなくて困っていると思いきや、品ぞろえは以前より減ったものの数は豊富で、結構なお客さんがいます。横で見ていると購入客は香港に来た観光客などで、香港のプリペイドSIMを買っています。キャリアより価格が安いことや、ここに来れば様々な製品の価格を比べられるからでしょうか。またコロナが落ち着いて観光客が増えたことも、屋台を訪れる客が増加した要因でしょう。
そして香港のプリペイドSIM屋台は、香港のSIMだけを売っているのではありません。世界各国、たとえばアメリカ用だったり日本用のSIMも売っているのです。香港の人は海外へ行く前にここでプリペイドSIMをよく買っていましたが、コロナの蔓延により海外旅行が事実上できなくなり、この2年はプリペイドSIM屋台もかなり大変な情況でした。コロナ中は家にこもることが多くなり、MVNO各社もそれまではせいぜい10GB程度だったプランを50GBや100GBなどに増量。自宅の構造上光回線を引けないアパート・マンションが香港は多いこともあり、SIM屋台は「自宅で使う大容量SIM」でコロナを乗り切ったのです。
コロナがほぼ収束し、人の出入りが激しくなり始めたことでプリペイドSIM屋台は再び海外用SIMも様々なものを売るようになりました。このあたりはシンガポールやタイの状況とはちょっと異なっており、国内向けのSIMだけの販売では屋台もどんどん厳しい状況に陥りそうですが、国外向けSIMの販売はまだまだ需要は減りそうにありません。
プリペイドSIM屋台なら格安で購入できる
そしてなんといってもプリペイドSIM屋台は定価より大幅に安く買うことができます。筆者が購入した「中国大陸365日18GB SIM」は定価が488香港ドル(約8200円)。しかし、購入価格は180香港ドル(約3000円)と、半額以下です。ここまで安いとネットで買うより深水埗まで地下鉄で出向いたほうがはるかにオトクです。
ユーザー登録が必要ではあるものの、香港を訪れる外国人客が増え、香港人も海外渡航を復活させ、そして定価より安く購入できる場所であるのならば、香港のプリペイドSIM屋台は姿を変えながらもまだまだ生き残れそうです。
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