このページの本文へ

スキー場のコンディションを見える化する「SKIDAY CAM」

2023年03月09日 06時00分更新

文● 中田ボンベ@dcp 編集● ASCII STARTUP

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

 星野リゾートが運営するホテル「OMO3札幌すすきの」に、スキー場のコンディションが確認できるサービス「SKIDAY CAM」が導入された。「SKIDAY CAM」は、スキー場に設置した専用カメラを通し、現地のコンディションをリアルタイムで確認できるシステム。利用者はホテルのロビーで各スキー場のコンディションが確認でき、好みのコンディションのスキー場に行くことができる。この「SKIDAY CAM」はすでに国内複数のスキー場で利用されており、特に熟練のスキーヤー、スノーボーダーから高い評価を得ている。

従来のライブカメラの課題とは

 現在、多くのスキー場にライブカメラが設置されているが、ケーブルや電源確保の問題で、設置場所が限られてしまっている。また、過酷な自然環境の中で安定稼働させるも難しい。そのため、例えば「麓からゲレンデを見上げるような映像」など、カメラが設置しやすい場所からの映像しか配信できなかった。

 しかし、コアなスキーヤーは、そのスキー場で最も景色がいい場所や、滑る機会の多い山の頂上付近の映像を求めている。つまり、従来のライブカメラ画像と、ユーザーが求める画像がマッチしていなかった。

「SKIDAY」の代表であり、プロスキーヤーでもある太野垣達也氏は「スキーに深く関わってきた中で、『雪のコンディションがもっと正確に、いつでも分かるようになれば、行き先を選びやすくなるし、体験価値も高められるのに』と一顧客として感じていた」と話す。一方、スキー場事業者からも情報提供が課題という声が多く挙がったこともあり、本システムの開発に取り組んだという。こうして誕生したのが、日本で唯一となる、電源ケーブルや通信ケーブルがいらないモバイル式ライブカメラだ。

ライブカメラのケーブルレス化を実現

「SKIDAY CAM」の電源はソーラーがメインだが、電池での稼働も可能と、少ない電力で動かすことができるのが特徴。「SKIDAY CAM」は動画撮影をしているのではなく、定期的に撮影した写真を連続してつなげて配信している。動画の場合、消費電力の問題でケーブルをなくすことが難しいが、写真にすることで、ニーズを満たす形でケーブルレスを実現した。また、通信にはLTEを利用しており、携帯の電波が届く範囲であればデータの送信が可能になっている。

 電源とデータのケーブルがないため、「(LTEの範囲であれば)どこでも設置することができる」のが「SKIDAY CAM最大のメリット」だ。前述のように、従来のライブカメラは麓にある事務所の近くなど、限られた範囲にしか置けなかった。しかし、「SKIDAY CAM」は山頂の上級者向けコース近くなど、ユーザーが求める位置、方角に設置できるのだ。

 また、従来のライブカメラは、夜に見ると真っ暗な景色しか映っていないなど、「見るタイミングの映像」しか確認できなかった。「SKIDAY CAM」では、過去の画像を保存することにより、時間をさかのぼりコンディションの変化が確認できる仕組みになっている。

事業者、スキーヤーの両方から高い評価を受けている

 2022年3月の時点ですでに国内27ヵ所のスキー場に導入されていた「SKIDAY CAM」だが、今冬で国内70ヵ所にまで拡大。前年に導入してもらったスキー場の多くが継続利用と、高い評価を得ている。

 スキー場から評価されているポイントは、やはりどこにでも設置できる手軽さだという。標高差が大きく、ゲレンデが広い大規模なスキー場だけでなく、これまでは導入費用の問題でライブカメラの導入を控えていた中規模のスキー場への導入が増えたという。また、1ヵ月3万円と、従来よりも低額で設置できるのもポイントだ。

 また、スキーヤーやスノーボーダーといったユーザーからの評価も高い。例えば、専用アプリには、選択したスキー場がベストコンディションになりそうな場合、自動的にプッシュ通知を受け取れる機能が搭載されている。従来は自分で調べないと、目的の情報が得られなかったこともあり、コアユーザーからは「毎日情報収集しなくていいので精神的に楽になった」といった声が寄せられているという。

 太野垣氏は「アプリ登録者の離脱率は極めて低く、高い継続利用率になっています。機能自体はミニマムなところからスタートしているが、多くのユーザーに高く評価していただいている」と話す。

冬以外のレジャーでも活用が期待される

 今冬に実施されている「OMO3札幌すすきの」への「SKIDAY CAM」表示モニターの設置は、札幌市が主体となって行なっている観光インフラの拡充を目的とした実証実験だ。札幌市では、冬の大きな資産となるスキーやスノーボード客の誘致にまだまだ可能性を秘めているという課題があった。その解決のために「SKIDAY CAM」で撮れた画像を映すモニターをホテルのロビーに設置し、スマートな情報発信を目指している。

 太野垣氏によると、スキー場以外にも、札幌市など自治体や観光協会など、新しいステークホルダーとの連携も増えているという。「SKIDAY CAM」は、ヘビーなスキーやスノーボードの愛好家以外の、これまでスキー場に足を運ばなかった観光客への効果も期待できる。例えば、情報発信することで「ショッピングに行くつもりだったけど、コンディションがよさそうだからスキーに行こう」と、行動を変えるなど、意思決定につながるサービスとなりうる。そのため、正確な情報発信によって観光地の魅力をどんどん「見える化」し、集客のの活性化を目指す自治体のニーズと非常にマッチしているシステムだといえる。

 そのため、太野垣氏は「今後は冬以外の観光施設にも価値を届けたい。スキー場だけでなく、屋外の観光施設であれば、同じようなニーズがあると考えている」と話す。例えば、桜や紅葉が美しい庭園や雄大な景色が楽しめるスポットは、天候次第で体験価値が大きく変わる。キャンプ、サーフィン、釣り、登山といったレジャーも同様だ。「SKIDAY CAM」を活用することで、「現地の情報を確認してから行く」という、新しい観光の仕組みが生まれるかもしれない。

グローバルな展開も目標

「SKIDAY CAM」はグローバルな展開も視野に入れている。体験価値の提供は、日本だけでなく海外でも共通する課題だからだ。もちろん、訪日外国人に情報を適切に届けるのも目標。特に、言語に頼らない画像サービスゆえに外国人への価値提供にも相性が良いという。

 太野垣氏は、「画像と気温の情報を提供しているが、雪質の変化など、より正確な情報をユーザーに届けることも目標。最近ではバックカントリーにおける事故が問題となっているが、もし雪の正確なコンディション情報など、正しい情報を提供できていれば判断材料も増えるはず」と話す。インバウンドビジネスで「SKIDAY CAM」をどのように活用するかも今後注目のポイントだ。

 電源・通信ケーブル不要で、好きなところに設置可能な「SKIDAY CAM」は、スキー場と来場者両方の課題を解決するソリューションだ。また、スキー場だけでなく、冬以外のレジャーでの活用にも注目が集まっている。今後、より多くの観光施設に「SKIDAY CAM」が導入されることで、屋外観光における体験価値が向上する未来に期待したい。

「ASCII STARTUPウィークリーレビュー」配信のご案内

ASCII STARTUPでは、「ASCII STARTUPウィークリーレビュー」と題したメールマガジンにて、国内最先端のスタートアップ情報、イベントレポート、関連するエコシステム識者などの取材成果を毎週月曜に配信しています。興味がある方は、以下の登録フォームボタンをクリックいただき、メールアドレスの設定をお願いいたします。

カテゴリートップへ

「スポーツビジネス」の詳細情報はこちら
  • Sports Marketing

    スポーツを活用するマーケティング戦略を追う

  • Sports Technology

    スポーツの世界を変えるテクノロジーたち

アクセスランキング
ピックアップ