大学の研究知財をビジネスへ 大学発スタートアップを増やすには
知財セミナー「大学の知財をビジネスに! 大学発スタートアップの知財戦略 by IP BASE in 仙台」
東北大発スタートアップが伝える研究成果の事業化と知財への取り組み
ファイトケミカルプロダクツ株式会社 CTO 北川 尚美氏は、(1)独自技術の単独知財化と量産技術の確立、(2)独自技術に基づく新たなコンセプトの製造事業を創出、(3)事業展開地域に応じた知財戦略の3つのトピックについて同社の取り組みを紹介した。
(1)独自技術の単独知財化と量産技術の確立
同社は、東北大学大学院工学研究科 北川研究室の研究成果をもとに新産業の創出を目指す東北大学発のスタートアップ。もともとは海外大学のように知財を活用した研究費の確保を目的に、独自技術の「イオン交換樹脂法」を大学単独で知財化し、並行して量産技術を確立していったのが始まりだ。
北川氏らが発見した「イオン交換樹脂法」は、水処理の分離剤である汎用樹脂が油溶液中で合成触媒に使えるというもの。2003年4月に油とアルコールからの脂肪酸エステル製造に活用するアイデアを着想し、TLOの東北テクノアーチを通じて2004年に製造方法を企業と特許出願。2005年は再生方法について東北大単独で特許、しかし名義変更で企業と共同出願になり、その後も2012年までに14件を共同出願していった。しかし、出願14件中、登録は3件のみ。これは共同出願した企業側の戦略で、新技術を広めるために出願はするが、あえて権利は取得せずに他社が使いやすくしたと考えられる。
この反省から、ビタミンE製造に関する知財は、最初の1件のみ農研機構と共同出願したが、その後の8件は東北大独自で出願し、うち7件が登録済みだ。ただし、当初は知財戦略がなく、研究論文そのままの内容で事業としては使い物にならなかったという。そこから戦略に取り組むようになり、4カ国へ国際出願・移行して成立しているそうだ。
その後、量産のための装置開発に取り組み、2017年に東北大BIPプログラムに採択、2018年に東北大発スタートアップとして起業に至っている。
(2)独自技術に基づく新たなコンセプトの製造事業を創出
持続可能な事業とするため、原料は国内で容易に確保でき、食と競合しない未利用資源として米ぬかの廃棄油を採用。イオン交換樹脂法を用いることで、化粧品やサプリメントに用いられているスーパービタミンEや植物ステロールを高純度に回収し、さらに残りはバイオ燃料に利用できる。
(3)事業展開地域に応じた知財戦略
同社の技術を他企業へライセンスして大規模な工場を全国に設置すれば、油脂産業で発生している大量の廃棄物を資源化できるようになる。さらに米とパームの組成が似ていることから、熱帯雨林の破壊などが環境問題になっている海外のパーム産業への展開を視野に研究を進めている。同社のイオン交換樹脂法を使えば、廃棄油がすべてバイオ燃料になるので、耕作地を拡大しなくても実質的に生産量が2倍にアップできるという。
知財は、エステル製造に関する技術は東北大学、ビタミンEの製造技術はファイトケミカルが保有し、企業に製造技術と量産化技術をライセンスすることで技術導入を推進している。
海外展開については、生産地域と市場を考慮して戦略的に特許を出願しており、それらを有効に活用することで技術導入による生産および輸出販売を進めていく計画だ。
海外展開については、生産地域と市場を考慮して特許を出願し、権利化が成立しているインドネシアとマレーシアは製造拠点を設置、中国へは信頼のおける特定企業と連携して生産および輸出販売、欧米は輸出販売を進めていく計画だ。
特許庁のスタートアップ支援施策
特許庁総務部 企画調査課 知的財産活用企画調整官 岡裕之氏は、スタートアップ支援施策として、事業戦略に連動した知財戦略の策定を支援する「知財アクセラレーションプログラム(IPAS)」と知財コミュニティの活動を促進する「IP BASE」の2つの事業を紹介した。
特許庁の調査によるとスタートアップコミュニティの知財意識は低く、創業時から経営戦略に知財戦略を組み込んでいる会社は少数派だ。しかし、資金調達や上場の際には知財が押さえられているかどうか厳しく審査されるため、早期から戦略を立てて知財に取り組んでおくことが大事だ。
知財アクセラレーションプログラム(IPAS)は、創業期のスタートアップを対象に、ビジネスの専門家と知財専門家からなる知財メンタリングチームを派遣。5カ月間にわたりメンタリングを実施し、適切なビジネスモデルの構築とビジネス戦略に連動した知財戦略の構築を支援するものだ。2022年度は25社を採択し、メンタリングを進めている。
スタートアップ向け知財コミュニティ「IP BASE」は、知財情報の発信や知財専門家の検索機能を備えたポータルサイトの運営、知財イベントや勉強会の開催などを実施している。
また新たなプログラムとして、2022年度からベンチャーキャピタルへの知財専門家派遣調査事業を開始。VCへの知財専門家を派遣し、VCに知財支援のノウハウを蓄積することで投資先の知財支援へと広げてもらうことを目的としている。2023年度からはVC派遣を本格実施する予定だ。
そのほかスタートアップ向けの早期審査や手数料の軽減措置などの施策が提供されているのでうまく活用しよう。