岩谷技研、気球による宇宙遊覧体験を2023年度内に商用化 将来は100万円台を目指す
気球による宇宙遊泳を目指す宇宙開発ベンチャーの株式会社岩谷技研は、誰もが宇宙を体験できる「宇宙の民主化」を実現する共創プロジェクト「OPEN UNIVERSE PROJECT」始動に関する記者発表会を恵比寿ガーデンホールにて2023年2月21日に開催。最新型のキャビン「T-10 Earther」を披露し、宇宙遊覧体験の搭乗者、パイロット候補生、共創企業の募集開始と、最初の共創パートナーとして株式会社JTBの参画を発表した。また、和歌山大学教授の秋山演亮氏とタレントの黒田有彩氏をゲストに迎えたトークセッションでは宇宙の民主化に求められる安全性やコストについて語られた。
岩谷技研は、気球による宇宙遊泳フライトの実現を目指し、北海道の札幌を拠点に高高度気球と旅客用気密キャビンの開発に取り組む宇宙開発ベンチャーだ。気球はロケットに比べて身体負荷が少なく、特別な訓練不要、自動車や飛行機並みの高い安全性で、誰でも安心して乗れるのが特徴。打ち上げ費用も安く、ロケットの1000分の1程度に抑えられるという。
代表取締役社長の岩谷圭介氏は北海道大学で宇宙工学を専攻し、2011年から気球の研究開発を開始。2016年に株式会社岩谷技研を設立し、フライトに必要な気球、気密キャビンの各種機器のすべてを自社で設計、開発、製造している。
同社はこれまでに300回以上の打ち上げ実験を実施し、到達高度は40キロメートルに成功。有人打ち上げも20回以上の実績があり、2023年度内には有人飛翔による成層圏への到達、宇宙遊覧フライトのサービス提供を計画している。
今回お披露目されたキャビン「T-10 Earther」は、直径150センチメートルの球形の宇宙船だ。
安全で快適な宇宙遊覧を可能にするため、キャビンの構造には多数の特許技術が組み込まれており、例えば、クリアな視界で宇宙を眺められるように曇りや結露を防ぐ技術、宇宙空間内で高精細な映像を撮影できる技術、キャビン内の温度や気圧を一定に保つ技術などが特許化されている(取得特許数15件、出願中13件)。機内の気圧変化は旅客機以下、振動や揺れは新幹線よりも小さいという。前面の窓は大きなドーム型で宇宙の臨場感を堪能できる。
気球の浮力には近年高騰しているヘリウムガスを使用しているが、同社の気球は大気中に捨てずにそのまま持ち帰る仕組みで95%を回収可能だ(特許出願中)。
今後さらにコストダウンを図り、将来は100万円台で宇宙遊覧が楽しめる世界を目指していくとのこと。
2023年12月からの第1期搭乗者5名募集、2400万円で販売
2023年度内に宇宙遊覧フライトの商用運行を計画しており、第1期搭乗者として5名限定の体験枠を2400万円で販売する。プロジェクトの募集サイト(https://open-universe-project.jp/oubo/)にて2023年8月31日まで募集し、2023年12月以降に順次打ち上げ予定だ。宇宙遊泳体験は、パイロットと搭乗者の2名。北海道内の打ち上げ地から2時間かけてゆっくりと上昇し、高度25~30キロメートルの成層圏で約1時間の宇宙遊覧を楽しめる。地球への帰還も1時間かけてゆっくりと下降し、海上のクルーザーに乗って戻る、という合計4時間ほどのプランだ。
また「OPEN UNIVERSE PROJECT」では、気球による宇宙遊覧を日本の新しい産業として開拓していくため、共創企業とパイロットを募集している。
宇宙遊覧の商用化には、打ち上げ場や出発前の滞在先となる宿泊施設などのリゾート開発、帰還した搭乗者を迎えに行くクルーザーサービスなど、さまざまな事業が関わってくる。さらには、旅行保険、船内で快適に過ごすためのインテリア、通信設備、衣服、食品、アメニティなども必要だ。プロジェクトでは、こうした宇宙遊覧に関わる幅広いサービスの共創企業を募集する。
また、岩谷技研の正社員として、気球のパイロット候補生も若干名募集中だ。
最初の共創パートナーである株式会社JTB 代表取締役 専務執行役員 花坂隆之氏は、共創の理由として「宇宙の民主化」というビジョンへの共感を挙げ、「安心・安全・低価格な民間向けの宇宙遊覧を起点として、さまざまな企業や団体と新しいサービス・事業・活動を共創し、これまで限られた人たちだけの活躍の場だった宇宙をすべての人が参画可能にする、という岩井技研の思想に共創パートナーとして協賛する意義を強く感じました。この取り組みで宇宙があらゆる人々にとって開かれた世界になることを期待しています」と述べた。
また「私たちJTBも、かつては海外旅行が一般的ではなかった時代に、誰もが享受できるサービスとしてマーケットを切り開いた経験があります。その背景を持つ当社だからこそ、多くの方に感動や夢を与える挑戦に共感します。同様に(岩井技研の)ビジョンに共感する共創パートナーとともに宇宙を軸に、人々の生活がより豊かになる価値の創出に尽力していきます」と語った。
既存の交通並みの安全性と快適な居住性、誰にでも手が届く価格が目標
トークセッションでは、株式会社岩谷技研 代表取締役社長 岩谷圭介氏、和歌山大学教授 秋山演亮(ひろあき)氏、タレントの黒田有彩氏が登壇し、「日本の気球で、本当に宇宙の民主化は実現できるのか」をテーマに語り合った。
岩谷氏は、「民主化、つまり誰でも宇宙旅行が楽しめるようにするには、既存の乗り物と同じくらいの安全性と、一般の旅行と同程度の価格が重要ですね。いままでの宇宙旅行の60億~100億円から0を3つか4つ取れようにして、将来的には世界一周くらいの価格に抑えるのが目標です」と話すと、秋山氏は「親は子どもがバイクに乗るのですら心配。岩谷さんは、安全・安心をすごく大事にしているのがすごくいい。岩谷さんのことは10年前から知っていますが、当時からなぜ気球は安全なのかを一生懸命説明していて好感をもちました」と賛同。
黒田氏は「世界一周並みになれば宇宙旅行が一気に現実的な選択肢になっていきますね。家族分も出せるかも? となれば真の意味で民主化が進んでいくのではないかと思います」とコメント。
共創で宇宙遊覧を産業として拡大し、全国の地域へ展開
後半では、黒田氏が実際にキャビンの乗り心地を体験。球体のため、中に入るとかなり広く感じるそうだ。ドーム型窓で視界が広く、頭上や足元のほうまで見える。岩谷氏によると「機内で自撮りがしやすい広さにした」とのこと。
黒田氏は、「家族と通話やライブ配信もしたいし、宇宙を眺めながら、お茶やお菓子を持ち込んでゆっくり過ごすのもいいですね」と感想を語った。
秋山氏は、「我々の子どもの頃は『銀河鉄道999』などマンガの宇宙を見て育った。宇宙遊覧サービスが始まれば、近くの小学校の子どもたちは、この気球が毎週のように飛んでいるのを眺めて育つわけです。するともっと宇宙が身近になり、どんどん宇宙開発に興味を持つ人が増えていくと思います」とコメント。
黒田氏は「せっかくの宇宙体験ですから、ふさわしい衣装や紫外線対策も気になります。宇宙遊覧用のコスメ、写真を撮りたくなるようなウェアもあればいいなと思います」と、今後の企業共創にも期待する。
気球は滑走路なしに飛ばすことができ、爆発の危険や大気汚染が少なく環境にも優しい。岩谷氏によると、既存のリゾートの敷地の一部を少し整備するだけで、気球の宇宙港を造ることができるという。全国各地に気球の宇宙遊覧の体験スポットができれば、宇宙港に付随するさまざまなサービスが生まれ、地域の活性化にもつながりそうだ。