これまでにないインフルエンザ検査AIカメラ・nodoca開発者に聞く医療機器ものづくり
熟練医の視診によるインフルエンザ検査を咽頭専用カメラとAIで再現
熟練医の咽頭の視診によるインフルエンザ検査を専用カメラとAIで再現
「nodoca」は、咽頭を撮影する専用カメラと、画像と問診情報等を合わせて解析するAIから構成されるインフルエンザ検査用医療機器だ。
インフルエンザに感染すると咽頭後壁に濾胞(ろほう)が現れる。このインフルエンザ濾胞による診断方法は2007年に宮本昭彦医師により報告されたが、視診のみで見分けるのは熟練医でなければ難しかった。nodocaは、この熟練医による視診をAIで再現している。
専用カメラで咽頭を撮影し、インフルエンザ判定ボタンを押すと数秒~十数秒で結果が出る。検体を採取する過程がないため痛みが少なく、判定結果を待つために診察室を出ることなくその場ですぐに結果がわかるのが特徴だ。
咽頭を撮影するための専用カメラはWi-Fiとディスプレーを搭載し、撮影した画像はクラウドに送信され、数秒〜十数秒でAIによる判定結果を確認できる。AI解析などのソフトウェア部分をクラウド側に持たせることでアップデートが柔軟にできるのも特徴だ。医療機器のため機能の追加・変更などは当局への手続きが必要になる場合もあるが、クラウド側のセキュリティやパフォーマンスの改善などは随時アップデートされていくという。
社会情勢の変化と臨床現場のフィードバックから改良を重ね、無線・小型化
「nodoca」の開発が始まったのは2018年。初号機は有線でサイズも大きく、まったく違う形をしていたそうだ。ディスプレーも搭載していなかったため、わざわざ別のモニタなどを見ながらでは操作しづらい、という声から本体への搭載に変更となった。見やすい角度、持ち手との位置関係などの検証を重ねて、使い勝手や安全性に配慮した設計になっている。
AIによる精度の高い判定には、精細な咽頭画像を得るためのカメラ性能が重要となる。本体の先には、咽頭撮影のために開発した高精細レンズと明るいLED照明を採用。照明は、宮本医師が咽頭の視診で使っていたペンライトを再現し、サイズを抑えつつ、咽頭全体をムラなく明るく照らせるようにカメラレンズの周りに配置されている。開発初期に撮影した画像と比べると、明るさや精細さが格段に向上しているとのこと。
撮影時には視野を確保するため、舌を押さえる必要があるが、できるだけ患者の負担を減らすべく、その形状にも工夫が凝らされている。
「舌を押さえる部分も当初はまったく違う構造をしていました。アイリスは社内に医師も在籍しているので、社内医師の声を参考にしながら開発をすることができます。少しずつ大きさや角度などを変えたものを試作しては医師に使ってもらうという開発工程を通して最終的に今の形になりました」(安見氏)
アイリス社内の医師らと仕様検討を繰り返し、さらに、開発初期から臨床現場で医師に使ってもらい、病院内での扱いやすさなどのフィードバックを受けながら改良を重ねている。
初期モデルは、データ転送はオンラインではなく、電源も有線だった。Wi-Fiの搭載と充電池の採用は、コロナ感染症の拡大による医療環境の変化に対応したものだ。
「当初はデータ転送は有線で、撮影後に毎回データを取り出して転送していました。コロナ禍では患者さんを隔離した場所で診察するので有線だといちいち所定の場所に持ち帰って転送しなくてはならないし、電源の確保も難しいことから、無線かつ充電池を搭載した仕様に変更しました。社会情勢の中で製品も進化していった形です」(亀山氏)
医療機器として薬事承認を受けるには、さまざまな規格に対応するほか、臨床データも提出する必要があった。季節性のインフルエンザは臨床研究の期間が限られることや、上述のような仕様変更もあり、開発のスケジュール管理には相当な苦労があったようだ。
インフルエンザ以外の病気の診断にも用途拡大へ研究開始
「社内の医師とAIによる診断を比較すると、いまはAIのほうが精度が高いです。またAIがどこを見ているのかを調べることで、濾胞だけでなく、咽頭側索と呼ばれる部位にも注目していることが示唆されたのです。これはAIが初めて発見したものです」(福田氏)
アイリスの医療機器開発では、AIとハードの両方を自社開発しているのが大きな強みとなっている。連携しながら開発を進めており、例えばカメラの仕様が変わると、撮れる画像が変わるので、それに合わせてAIプログラムも調整して精度を高められる。
完成したnodocaを臨床現場に持っていくと、医師に「なんでこんなに綺麗な咽頭画像が撮れるのか」と驚かれるそうだ。次の展開は、nodocaをインフルエンザ以外の病気の診断にも使うことだそう。
「病院に行くとまず口を開けて診るように、医師にとって咽頭の診察は最も基本的な身体診察のひとつです。咽頭に特化したカメラを使うことで今まで見えなかったものが見え、いろいろな病気が早期に発見できる可能性があります。内視鏡が発明されたことで医療が大きく進化したように、nodocaで医療を変えられるのでは、という手応えを感じています」(福田氏)
今はAIで判定できるのはインフルエンザのみだが、すでにいくつかの疾患の研究を進めており、将来的にはさまざまな病気を診られる医療機器として拡大していく計画だ。