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大谷イビサのIT業界物見遊山 第42回

増えすぎたSaaSの淘汰とAIの静かなる浸透 2023年のクラウド動向を読む

2023年02月08日 09時00分更新

文● 大谷イビサ 編集●ASCII

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 2023年のクラウド動向としては、やはり社内でのSaaSの淘汰とAIの浸透が挙げられる。金利や為替の影響もあり、コロナ禍で膨らんだIT予算は今年はシュリンク傾向になっていくことが予想される。少なくともDXに向けて必要な投資なのか、否かがシビアに選別されることになる。

企業内でのSaaSの淘汰は必然的に起こる

 2020年初頭に始まったコロナ禍は、テレワークや在宅勤務への強制的なシフトを企業にもたらした。紙や押印を前提とした業務フローのデジタル化が一気に進み、特にビデオ会議は多くの企業で当たり前のように使われるようになった。こうしたデジタル化が基盤となり、従業員の働き方改革、顧客とのエンゲージメント強化、そしてデジタルを前提としたビジネスシフトを含むDXにつながっていくのはご存じの通りだ。

 この過程で、企業には数多くのSaaSが導入された。対面での会議や打ち合わせを置き換えるビデオ会議やビジネスチャット、紙や印鑑が多かったバックオフィス系の承認や申請はワークフロー、営業やマーケティングなどの部門では営業支援、顧客管理、MAなどが用いられるようになった。

 北米のリサーチ会社によると、1社当たりで使っていたSaaSの数は2017年は16だったが、コロナ禍の2020年には80へ、2021年にはなんと110に急増しているという。日本ではここまでの数にはならないだろうが、トレンドに追従しているのは間違いない。特定の課題に対してピンポイントで対応するいわゆる「ワンイシューSaaS」まで含めれば、日本の大企業であれば3桁という数は現実的だと思う。

 さて、問題はこれらのSaaSが2023年以降も生き残っていけるかだ。多くの企業で聞くところ、コロナ禍でのIT投資増はあくまでイレギュラーということが多く、IT予算の底上げにはなっていない。DX投資促進税制も2025年までの延長が決まったが、金利や為替環境などが厳しいこともあり、外部環境の変化で投資が削減される危険性も秘めている。また、ユーザーを獲得するためのマーケティングやキャンペーンのためにそれなりに持ち出しているSaaS事業者も多い。タイミングを見計らって通常の料金体系に戻す必要が出てくる。

 こうした中、増えすぎたSaaSの淘汰は必然的に起こる。特に前述したワンイシューSaaSの場合、他社のツールで代替可能になれば、契約は更新されなくなる。以前、コロナ禍でもてはやされたオンライン営業ツールが、ビデオ会議ツールに代替されて急速にシュリンクしてしまったというブログが話題となったが、手軽に始められ、手軽に辞められるのがクラウドのメリット。多くのユーザー企業が今年は投資対効果をシビアにチェックするようになる。SaaS事業者にとっては胃の痛い一年になるであろう。

ゆっくりと確実に業務に浸透するAI

 次に指摘したい変化は業務へのAIの浸透である。昨年の大きな話題は、MidjournyやStable Diffusionのような画像生成AI、ChatGPTのようなチャットボットなど、AIツールのレベルが、われわれの想像を凌駕するクオリティに達したことである(関連記事:画像生成AIの激変は序の口に過ぎない)。今まで研究開発に多額の予算を費やせる大手IT企業のみが恩恵を受けられたAIの世界だが、ChatGPTの開発元であるOpenAIのようなプレイヤーのテクノロジーで市場は変わりつつある。

 クオリティとともに個人的に大きなインパクトだと考えているのは、今までAPI経由での利用が前提だったAIツールのユーザービリティがどんどん向上している点である。AIの恩恵を誰でも簡単に享受できるといういわばAIの民主化だ。誰でも使えるから試行錯誤がしやすく、求める成果物も作りやすい。いらすとや風のイラストを作れるAIサービスが登場したり、AIが生成したイラストのみを販売するマーケットプレイスが現れたり、AIのメリットを一般人が簡単に享受できる時代になった。美大付属の高校生を持つ親としては、娘の将来が安穏たるものでないことを肌で感じる。

 そして、クオリティも高く、ユーザービリティの優れたAIツールは、確実に業務に浸透している。Gmailの校正ツールが日本語対応したが、助詞の入れ忘れが多い私は、よくGmailのチェックを食らっている。その指摘の正しさにぐうの音も出ない。マイクロソフトも、自らが投資したOpenAIのテクノロジーを検索エンジンやOfficeに組み込んでいく予定であり、ビジネスパーソンは意識せずAIの恩恵を受けることになる(関連記事:「Azure OpenAI Service」など、マイクロソフトが最新のAI動向を説明)。

 一方で、投資対効果という面で厳しいと烙印を抑えたAIプロジェクトは、どんどん頓挫することになるだろう。メンテナンスに手間がかかるチャットボット、面白いけど売上に貢献しない有象無象のAIアプリ、精度の高い汎用サービスに開発が追いつかれてしまったPoCなどなど。続けるのか、続けないのか、現実的な選択を迫られる2023年だ。

大谷イビサ

ASCII.jpのクラウド・IT担当で、TECH.ASCII.jpの編集長。「インターネットASCII」や「アスキーNT」「NETWORK magazine」などの編集を担当し、2011年から現職。「ITだってエンタテインメント」をキーワードに、楽しく、ユーザー目線に立った情報発信を心がけている。2017年からは「ASCII TeamLeaders」を立ち上げ、SaaSの活用と働き方の理想像を追い続けている。

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