タイタニック号を助けにいった船長のカクテル
英国正統コースディナーを平らげてさすがにお腹がはちきれそうです。ここはひとつ、船内劇場の「Royal Court Theatre」のショーを鑑賞しつつ胃袋の消化を待ちましょう。
Royal Court Theatreは船首部分の第1デッキから第3デッキの3層にわたって設けられた劇場。ステージ奥にはオーケストラピットを備え、劇伴音楽を生演奏で聴かせてくれます。
劇場の第3デッキレベルには、通常シートの左右にバルコニーで仕切りを設けたプライベートボックスがあります。この中の右翼にある15番シートは、命名式でエリザベス2世女王が着座した場所として知られています。
プライベートシートは有料ですが、すべての乗客が予約できるとのこと。キュナードスタッフによると「ステージが最もよく見える場所」だそうです。
この日のショーは20時からと22時からの2ステージ制(どちらも同じ演目)。22時からのステージを観終わるとお腹に余裕ができてきました。こういう時、船旅ではラウンジで1杯が定番です。数あるラウンジから今宵は第10デッキの最前部両舷にわたって設けられている「Commodore Club」に立ち寄りました。
重厚な雰囲気を醸し出しているこのラウンジの名称である「Commodore」とは、海軍の階級として知っている人も多いかもしれません……。あ、ASCII.jp読者的には「Commodore 64でしょう!」って反応する人も多いかもしれません。
民間のキュナードでは、顕著な業績を残した歴代船長に提督を意味するCommodoreという称号を与えて讃えています。その称号を冠したバーラウンジであるCommodore Clubでは、歴史に残る活躍をした7人のCommodoreをイメージした特別なカクテルを提供しています。その中から、キュナードがオススメする「Punch Romaine a la Carpathia」(パンチ・ロメーヌ・ア・ラ・カルパチア)をいただきます。
このカクテルは名前にもある「Carpathia」(カルパチア)の船長を務めた、アーサー・ロストロン氏をイメージしています。ロストロン氏はCarpathia船長だった1912年、客船タイタニック沈没事故で最初に現場に到着して、たった1隻で救助活動を行い700名以上を救出しました。
Punch Romaine a la Carpathiaは、タイタニックのメニューに記載されていたカクテル「Punch Romaine」(クラッシュド・アイス、シャンパン、白ワイン、シロップ、オレンジジュース、レモンジュース、ホワイト・ラム、オレンジピールで作るカクテル)がベースです。
そこに、オリジナルでアドヴォカート(欧風卵酒みたいなもの)を加えた、甘みがはっきりしたクリーム系のデザートカクテルでした。キュナードの公式レシピによると、アドヴォカート、リモンチェッロ(レモンのリキュール)、クリームシェリー、ライムジュース、マーロウが挙がっています。
ロストロン氏の偉業を振り返りつつ、カクテルと飲み干すとすでに日付が変わっていました。タスマニア海を南下するクイーン・エリザベスが揺れているのは、酔いのせいだけではないようです。今夜はこのあたりで寝ることにしましょう……。ぐぅぅぅぅ。
サマセット・モームはかく語りき
船旅の朝は早い!
夜明け前の海原もですが、正直言ってそれ以上に楽しみにしていたもの。それは早朝から饗される料理の数々です。ブッフェダイニングのLido Restaurantでは、すでに6時半から冷製料理をはじめとする軽食の提供が始まっています。ええ、もちろんお腹は空いていますとも。
南半球のオーストラリアは初夏のはずなんですが、季節外れの寒波がやってきていたらしいです。早朝の海原では、日本から着込んできた防寒具がなかったら厳しい寒さでした。
そんな冷えた身体をコーヒーで温めつつ、オレンジジュースにアップルジュース、グランベリージュースをカラフルに並べて、トーストにハム、サーモン、チーズの「軽食」をいただきます。コンチネンタルスタイルブレックファスト? いやいやこれは朝食にあらず!
オレンジマーマレードの高めの糖分とコーヒーの温かさで生き返ったところで、Lido Restaurantでは7時30分から朝食の提供が始まります。ブッフェスタイルなので、食べたいメニューを自分で好きなだけ取り放題です。もちろん、残さず平らげます。
8時からはメイン・ダイニングのBritannia Restaurantで朝食が始まります。ええ、こちらももちろんいただきます。筆者的にはここまでは“前菜”ですから。なお、Lido Restaurantの朝食もBritannia Restaurantの朝食も、それだけで十分満足できるボリュームです。筆者が食べ過ぎなだけなので、食が普通の方はマネしないほうがよろしいかと存じます……。
こちらはテーブルについて、メニューから注文して給仕を受けるスタイルです。朝食はオープンしている時間内(船内新聞に掲載。今回の航海では8時から9時半まで)であればいつでも入れます。
なお、ディナーは2部制で利用できる時刻が船から指定されますが、キュナードでは「オープンダイニング」という制度を設けており、時間を変更したいなどリクエストがある場合は申し出ることで自由な時間に対応してもらえます。
様々なメニューの中から選んだ朝食は、まさに「キュナードの客船で朝食をいただくならこれでしょう!」と言わんばかりの熱!(というか圧!)を感じさせる「Cunard's Get Up and Go Signature Plate」です。
朝はあまり食欲がない人でも大丈夫なコンチネンタルスタイルとは真逆の、ボリュームたっぷりイングリッシュブレックファストな1皿です。そこには卵料理(料理方法はスクランブルかフライを選択)、イングリッシュベーコン、カンバーランドソーセージ(太くて長いソーセージ)、ハッシュブラウン(ハッシュポテトに似ています)、グリルトマト、マッシュルームソテー、Bury black puddingがモリモリっと載っています。
Bury black puddingは血を固めたソーセージで、わざわざ銘柄指定で記載してあるように、英国で最も有名なブラックプティングメーカーの製品を使用しているそうです。
よ、よ、よ、よぉーし、食べるぞおおおおぉぉぉぉ! ……た、た、た、た、食べたぞおおおおおぉぉぉぉ! ボリューム満点! そして、おいしい! モームさん、あなたの“名言”に従って朝食を3度とりました! え、「違う、そうじゃない」って?※
※編集注:イギリスの小説家、サマセット・モームの名言に「To eat well in England, you should have a breakfast three times a day」(意訳:イギリスでおいしいご飯を食べようと思ったら3食とも朝食にするしかないね)というものがあるそうです。