メインフレームだといって古い言語やアプリを動かすばかりではない
もうひとつの誤解は、メインフレーム上で動作しているアプリケーションが30年前、40年前に作られたものであり、それを改良しながら使っているため、「メインフレーム=レガシー」という認識がある点だ。
山口社長は、「メインフレームでは、PL/IやCOBOLといった古い言語が使われていることも多く、30年以上に渡って、アプリケーションに機能のアドオンが繰り返しながら利用しているものもある。また、これらの言語を知る技術者が減少することで、システムが塩漬けにされてしまうという懸念がある。だが、ここにも誤解がある」と指摘する。
たとえば、IBM Zの最新の利用状況を見ると、CICSやIMS、DB2といった従来の計算負荷よりも、AIやLinux、Java、Pythonといった新しい計算負荷の方が多くなっていることがわかる。
「PL/IやCOBOLで書かれたレガシーアプリケーションが稼働している状況だけがメインフレームではない」とする。
さらに、「PL/IやCOBOL技術を知るエンジニアが減ったり、業務フローそのものを理解しているエンジニアがいなくなってしまうという問題が発生しているが、これは、いまオープンシステムを構築していても、その人たちがいなくなったら、5年後、10年後には同じことが発生することであり、最新の言語で開発することは、根本的な課題を解決する策にはならない。この点を理解するお客様が増えている」と語る。
そして、「ITシステムはそんなに『やわ』ではない。インターフェースを作れば、新たな環境に更新することができ、テクノロジーで解決できる部分は、想定以上に多い」と語り、「PL/IやCOBOLのエンジニアがいなくなり、メインフレームは、この先どうするのかという懸念を持つ人もいるが、それは20年前のメインフレームの考え方であり、日本IBMは、その課題に対して、懸念や焦りはない」と言い切る。
その上で、「大切なのは、アプリケーションをどこでどう動かすかということと、業務フローやビジネスモデルをちゃんと理解した人が、それをしっかりと管理していく方法を確立できているのかどうかという点である。また、メインフレームの能力を活用して、いかにAIやデータといったテクノロジーを利用するかが、これからのポイントになる」と指摘する。
クラウドと適材適所の運用が求められる、これからのメインフレーム
IBM Zを導入しているユーザーのなからは、メインフレームを適材適所で動かしているケースが目立ってきた。
三菱UFJフィナンシャル・グループや日本生命、ふくおかフィナンシャルグループといったメインフレームの先進的ユーザーに共通しているのは、IBM Zをオンプレミスで使う部分と、IBM Cloudで活用する部分、IAサーバーなどが活用されている他社のクラウドサービスで利用する部分などを明確に切り分け、それぞれの業務要件に最適化した環境を構築し、ITインフラを運用している点だ。
三菱UFJフィナンシャル・グループの亀澤宏規社長兼グループCEOは、「メインフレームが向いているところと、クラウドが向いているところがある。金融業界では安心、安定、安全が極めて重要であり、それをオンプレミスできっちりと作ることが必要。預金、外為、融資の基盤はメインフレームでなくてはいけない。その一方で、市場系や情報系はマルチクラウドによる自由度も必要であり、マルチクラウドの間をどうつなぐか、オンプレミスとの接続をどうするのかも課題。現在取り組んでいるアーキテクチャー戦略では、全体最適での配置を意識しており、新たな時代に合わせた可用性を実現しなくてはならないと考えている」と述べる。
また、日本IBMの山口社長も、「これから20年間、コードを変えなくていいものもあれば、柔軟に変更しながら運用することが適しているアプリケーションもある。柔軟に変更する必要があるアプリケーションであれば、オンプレミスから切り出して、セキュアな環境を維持しながら、メインフレームで動作するクラウドに移行させるという考え方もできる。将来的には、業務要件やセキュリティ、能力に合わせて適材適所で動かせばいい。、信頼性の高いクラウドを実現するには、メインフレームの存在は不可欠であり、既存の性能では限界があれば量子コンピュータを利用するという選択肢も提供できる」とする。
30年、40年前のアプリを動かせ、かつセキュアである
メインフレームの特徴は、30年、40年前に開発されたアプリケーションを最新ハードウェアの上でも動作させることができる上位互換性を徹底的に担保しながら、安定稼働を実現するセキュアな環境を提供している点にある。さらに、最新のCPU技術などの採用により、性能は驚くべき進化を遂げ、消費電力も大幅に引き下げているという点も見逃せない。
山口社長が、メインフレームの成長を、若い人の「成長痛」が出るほどの成長になぞらえている理由はそこにある。メインフレームは、長い歴史を見てきた「老人」という見方は捨てたほうが良さそうだ。
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