昨年10月に開催されたウイングアーク1st主催のビジネスカンファレンス「updataDX22」。DXを真正面に据えた講演やオフラインでの体験を重視した内容は多くの参加者の共感を得た。ウイングアーク1st代表取締役 社長執行役員CEO 田中潤氏と執行役員 マーケティング本部長 久我温紀氏に、updataDXが生まれた背景やイベントで取り上げられたDXや日本の課題について聞いた。
DXってなに?どうやって実現する?を考える道しるべに
大谷:まずはupdata(アップデータ)というイベントの成り立ちについて教えてください。イベント名が変わったのは、けっこう最近だという印象なのですが。
田中:2004年にウイングアーク1stが生まれ、そこから「WingArc Forum(WAF)」という名前でイベントをやってきました。これがコロナ渦の2年前くらいからフォーカスを変え、2020年に「updata」という名前のイベントになりました。updataはupdateとdataを組み合わせた造語です。
大谷:なぜ長らく親しんできたイベント名を変えたんですか?
田中:WingArc Forumの頃のイベントの目的はあくまでプロダクトを知ってもらうこと。われわれの新製品や取り組みを紹介していました。
でも、われわれとしてはモノだけを提供してきても、お客さまが使いこなせないと、なんの結果も得られないことに今さらながら気がついたんです。いくら素晴らしい製品でも、使いこなせなければ意味がない。
特に日本の企業でデータをうまく活用できているところはあまりない。これはアンケートでも明らかです。そこで思ったのは、「データをどう使って、どう結果を生むかを知らないと、せっかくいいツールがあっても意味がない」ということ。われわれが作っているソフトウェアって、すべてデータを扱うもの。企業にあるさまざまなデータの使い方を変えていけば、世の中の役に立つはずだと考えたんです。
大谷:ツールではなく、データの方に力点を移したんですね。
田中:でも、ツールと違って、データの使い方って、ある種の気づきが必要です。そこでデータをうまく活用している人たちから学ぶイベントを作ることにしました。ほかの会社がどうやっているのかを知ることで、チャレンジしやすい環境を構築するのがupdataの目的です。
大谷:なるほど。コロナ禍でもイベントはきちんと継続されていましたね。
田中:はい。前回は「updataNOW」、つまり現状認識がメインでした。今回はupdataというイベントの中で、特にDXというテーマに絞ったので、updataDX22という名前がついています。おっしゃるとおり、みなさんがDXと言うようになって関心軸になったので、DXにおけるデータ活用がテーマです。
DXに迷う人の道しるべになるようなイベントにしたかった
大谷:とはいえ、今年はほとんどのIT企業がDXをテーマにしたわけですし、DXって概念的に誤解されたり、議論の的になることも多いですよね。
田中:確かに議論がずれているなあと思うことは多いです。なにかとDXというキーワードを持ち出す人、ツールを提供するだけの人もいますね。でも、DXでなにが実現できるのか?をきちんと説明してくれる人はあまりいない。特に日本はシステム提供したい会社が多いので、そういう風になりがちです。
単にデジタル化するのがDXというわけではない。なんらかツールを使えば、DXになると言っているようなもの。ホントのDXって、デジタルによってなんらかトランスフォーメーションをしているはずなんです。
だから、「本当のDXってなんなのか?」を考えたかった。もちろん、人手不足とか、売上の伸び悩みとかいろいろ課題はあるんですが、先にユーザーが思い描くビジョンがあって、それを実現するためのDXってどんなものかを考える方が重要だと思うんです。だから、DXを苦しみながら進めている人、DX推進室を作ったけどどうすればいいかわからない人などの道しるべになるイベントにしようと思いました。
大谷:でも、それって必ずしもウイングアーク1stの売上に寄与するわけではないですよね。あくまでDX=ウイングアーク1stという刷り込みみたいなのが実現されないと。
田中:もちろん、われわれもDXの一翼を担えるはずだとも思っているのですが、イベント自体はDXをどうやって実現するのか、DXによってなにが実現できるのかを中心に組み立てているので、必ずしも当社の製品がそこにあるわけではないんです。
大谷:なるほど。そこまで割り切っているんですね。とはいえ、WingArc Forumというイベントをいきなりupdataという造語に変えてしまうわけだから、それなりに勇気がいったんじゃないですか?
田中:いや、怖いことはなかったですね。
久我:私は少し怖かったですが、田中は鉄の心臓なので(笑)。
田中:うーん。「データとテクノロジーで世の中を変える」というビジョンに基づくと、やはり自分の会社がなにかをするというより、世の中をどう変えていけるのかの方が重要なんです。
イベントタイトルを変えたということは、逆にテーマを変えていいということだと理解しました。だから基調講演も、「世の中こう変えていくべきだ」とか、「今の日本のここが課題だ」といったトピックを盛り込んで、課題に立ち向かっている会社や人を紹介していく形です。われわれも一社でやるつもりはなく、みんなの強みが集まることで、新しい体験が生まれるエコシステムの方が重要です。
大谷:田中さんの目から見たら、むしろ枷が外れて、より自由なテーマ設定ができるようになったという話なんですね。
田中:そうです。
圧倒的な満足感 updataDX22はなにが聴衆を惹きつけたのか?
大谷:具体的にはどのようにイベントを変えたのでしょうか?
久我:WingArc Forumの頃はウイングアークを知っている人とコミュニケーションするためのイベントでした。それを一般層、非認知層まで拡げていきたいと考えたのは、やはりIT部門が基幹システムからフロント部分にどんどんシフトしたことですね。
この傾向って、調査レポートにも出ているし、現場が事業をパワフルに進めるためにITを使うって、方向性としても正しいと思うんです。ツールとしても、クラウドやSaaSが台頭したことで、これが可能になってきました。
そうなると、今までのIT部門やパートナーとのコミュニケーションでは足りなくなるんです。こうした流れは確かに一般的ですが、われわれはそれを肌身に感じています。
大谷:ウイングアーク1stの製品って、IT部門が導入して、バックオフィスが使うみたいなイメージだと思っていました。
久我:たとえばDr.SumはほぼIT部門がユーザーなんですけど、MotionBoardのユーザーって、IT部門も多いんですけど、現場部門も増えてきたんです。製造部門が工程管理を見える化するために使うとか、事例も出てきました。
田中が話したように、われわれが持っているデータやテクノロジーのノウハウを届けていきたいし、日本だけでなく、世界がどのように動いていくのかという情報のアップデートも必要になります。今回、Day2は特にそこを意識していて、ウクライナ動向のような世界的な関心事項に関しても、ビジネスパーソンにお伝えできるようにしました。
大谷:今回は私もupdataDXに取材に行ってみたわけですが、ITやテクノロジーに精通していない普通のビジネスパーソンがふらっと参加しても得られるものがいっぱいあるなと感じたんですよね。
久我:ITがいい意味でコモディティ化したというのもあると思います。
これからITは欠かせないものになるだろうということで私もIT業界に入ってきたのですが、やがてコモディティ化していくだろうなとも思っていました。入社した当時は、技術者を抱えていれば勝てたみたいな業界でしたが、そのうちソフトハウスが淘汰され、技術者が余るようになりました。ユーザー企業側もIT部門がコストセンターになり、子会社化し始めた頃です。
コモディティ化って、社会に浸透したということなので、基本はいいことなんです。でも、そうなったときにソフトハウスは、なにで差別化していくかを考えなければならない。テクノロジーで勝負するのはIT企業として不可欠なんですが、働く人たちや企業が成長するために必要なインサイトを提供できれば、われわれのブランドや価値も上がるだろうという仮説に結びついたんです。その1つの形が、updataDXですね。
大谷:数字という面で今年のupdataDX22の結果を教えてもらえますか?
久我:1万7540人が公式発表の登録者数です。もともと1万人超えは目指していました。どんなに面白いイベントでも来てもらわないと意味がない。ある程度の規模で行ってみようかな、と思わせるブランドの引力は必要だと思っていました。だから、1万人を超えたのはよかったなと。
セッション満足度も高くて、大変満足と満足あわせて97%になりました。基調講演はやはり人気が高くて、自社製品の紹介になるデータ活用のセッションもよかったです。星野リゾートさんやパナソニックさん、竹中工務店さんなどのセッションは満足度が高くて、カインズさんのセッションは満足度100%でした。
大谷:そんなことがあるんですね!
久我:満足度100%というアンケート結果が今年は7セッションもありました。もちろん入場者がそれなりにいるセッションでです。
事例もウルトラCみたいな話はありません。メンバーに3時間くらい1on1で説明したとか、DXのツールを使うためにカリキュラムを作ったとか、ツールを使う前段階の地道な話ばかりです。そして、どの会社も、「DXってなんのためにやるんだっけ?」とか、「リスキリングってなぜ必要なんだっけ?」みたいな疑問を現場で解き明かしていくフェーズを必ず設けているんです。そういう試みがとても共感を生んでいて、Twitterでも盛り上がっていました。