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渡辺由美子の「誰がためにアニメは生まれる」 第53回

【後編】『機動戦士ガンダム 水星の魔女』プロデューサー岡本拓也氏インタビュー

『水星の魔女』を世に送り出すうえで考えたこととは?――岡本拓也P

2023年04月09日 16時00分更新

文● 渡辺由美子 編集●村山剛史/ASCII

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予期せぬタイミングが化学反応を呼ぶ

―― MVも含め、企画された作品群を『水星の魔女』本編と一緒にリアルタイムで追いかけていると、「タイミングの妙」というべきものになっていて驚きました。

 まず「PROLOGUE」を観て、渋いガンダムが始まったなと思ったら、本編の第1話は明るい学園もので。その後にYOASOBIさんのMVと小説「ゆりかごの星」を観ると、素敵な世界観と同時に、スレッタの向こう側に重い背景が見えてきたりして。感情が揺さぶられました。各作品の明るさと重さ、そして発表タイミングの相乗効果で、ネットでの盛り上がりが一気に沸騰した感があります。

岡本 私たちにとってもうれしい誤算、想像しきれていなかった部分ですね。

 MVで盛り上がったり、「ゆりかごの星」を読んで考察してくださったり、それがうまく本編、「PROLOGUE」とリンクして……というのは、すべてがすべて意図的に組み上げていったわけでもないんです。

―― このタイミングは、すごい天才が計算して作為的にやっていたのか、偶然なのか、どちらなんだと思ってました。

岡本 計算っぽく見えるのはありがたいんですけれど、私たちとしてはぜんぜん予定調和じゃなかったんです。

 「これとこれを連動させましょう」と意図的に考えていた部分もなくはないのですが、やっぱり「次から次へと来る案件を(本編と)どうやってつなげていくか?」のほうがずっと大きかったですね。

 この『水星の魔女』はバンダイナムコグループが総力戦で盛り上げていくプロジェクトなので、ガンプラ、音楽、タイアップ……と非常に多くのチームが動いています。アニメ本編を作る私たちは、各チームから上がってくる企画や施策のアイデアを「さあ、どうやって作品とつなげていこう?」とその都度考えていく必要があります。

 本編を作りながら、「こういう企画が来ました!」「では、このようにしましょう」「次はこんな企画が来ました!」「そちらはこういう風につなげましょう」……という作業の連続なんです。

 もちろん、相乗効果が生まれるよう、つなげていく努力はしましたが、やはり巡り合わせもたいへん大きかったと思っています。

 私たちが想像していなかったようなことが次から次へとやってきて、出会い頭でどう対応するか? 瞬発的な作用から起きた化学反応なのかな、とも思います。

面白いと思ったものは、壁を作らず採用していく

―― SNSでバズる要素について、どのくらい意識されたのかもお聞かせ下さい。ミオリネが立ち上げた「株式会社ガンダム」のPVが動画としてアップされてネットで大喜利になったり、グエルが寮を追い出されて1人でキャンプ暮らしを始めたシーンは大きな話題になりました。

岡本 アニメ本編を制作していく過程で、バズらせようという意識や、作り手の方に「バズる要素を入れてほしい」といったリクエストはしていません。

 心がけたのは、どちらかというと作品の方針に関わることでした。

 物語を長いスパンでご覧になっていただく際に、作品をすべて見終わったあと「第●話と言えばアレがあった回だよね」と印象が残るよう、1話ごとにお話の中で盛り上がるポイントや、その回ごとにトピックになるようなものを入れる。これは小林さんや大河内さんをはじめチームの方々が意識してくださっていると思います。

―― 長編として大きな山場を作るだけでなく、1話1話でもインパクトを大事にする、と。なんだか1話完結で見られるドラマみたいですね。

岡本 バズりを意識するというよりは、たとえば放送の次の日に学校で、職場でみなさんが感想を言い合えるようなものになっていると良いなと思っています。私自身に当てはめてみても、そういった番組は楽しかったなと思いますし、心に残っている印象がありますね。

 あとは「チームの方々が楽しいと思うものを入れる」という意識が大きいのかもしれません。とりあえず言ってみて、それがほかのスタッフにとっても面白く感じられて、なおかつ物語として成立するのであれば、採用する。「それもアリだよね」と言える体制づくりが大事かなと。

 「会社ならPVを作るんじゃないですか」「それは面白いかもしれないね」というところからお話づくりがスタートしたり。

 グエルの野営生活が話題になったのは完全に予想外でしたけれども……あれは、グエルにキャンプさせようとしたのではなくて、物語の流れで、グエルが学校の寮を退寮させられちゃったので、「行くところがないのなら、どこかで野営しているんじゃないか」という会話から作られたものです。

 もちろん、制作作業が一筋縄ではありませんし、キャッチボールがすごく大変なところもあります。でも、面白そうな要素は「壁」を作らずに採用しているところが、結果的にトピックを作り出す原動力につながっているのかな、と思います。

―― 「壁」と言いますと、今までのお話から考えるといわゆる「ガンダムらしさ」も当てはまるのでしょうか? 「今作っているのはガンダムだし、これだとふざけ過ぎだからナシでしょう」というような。

岡本 そうですね。そうした壁を作らないことは意識しています。

 作品的な部分でもそうかもしれませんが、特に宣伝的な部分で「あまりガンダムであることに縛られ過ぎない」というのは、『水星の魔女』を世に出していく上でのキーワードかなと思っています。

 一緒に周辺施策をやっていただく別の部署や、コラボしていただくメーカーさん、うちの宣伝チームも含めて「今までのガンダムと違う、新しい切り口での展開にチャレンジしていく」という意識を持っていただいているので、どんどん新しいことをやっていこうという空気になっているのかなと思っています。

 それはこの『水星の魔女』だからこそできることでもあり、この作品だからこそ意識できた点なのかもしれません。

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