日本IBMが「IBM Cloud」の事業戦略と最新の取り組みを説明、CTCとの新たな提携も発表
IBM Cloudは「ミッションクリティカルにフォーカス、貢献していく」
2022年12月01日 07時00分更新
日本IBMは2022年11月29日、パブリッククラウドサービス「IBM Cloud」の事業戦略に関する記者説明会を開催した。
日本IBM 執行役員 テクノロジー事業本部クラウド・プラットフォーム担当の今野智宏氏は、市場においてクラウドベンダーそれぞれの特色が求められるなかで、IBM Cloudの特徴は「最もオープンでセキュアなビジネス向けのパブリッククラウド」と位置づけ、「Enterprise Grade Cloud」「Security Leadership」「Open Hybrid Cloud Services」の3点の強みがあることを強調した。
あらためてIBM Cloudの「特色」とは?
上述したとおり、IBM Cloudでは「Enterprise Grade Cloud」「Security Leadership」「Open Hybrid Cloud Services」の3点を強みに掲げる。
「Enterprise Grade Cloud」では、VMwareやSAP、IBM Power、IBM Zなどのミッショクリティカルシステムをクラウドにリフトするための「IBMらしい」サービスを提供するとともに、「説明責任のあるクラウド」を提供し、金融サービスを中心に業界そのものの変革を支えるという。
「Security Leadership」では、暗号化技術において業界最高水準であるFIPS 140-2 Level 4に業界で唯一対応し、データセンター事業者が顧客のデータを見たり、触れたりすることができない環境を実現している。さらに、ISOなどの国際標準だけでなく、FISCなどの国内標準や国内規制にも対応している点も挙げた。
「Open Hybrid Cloud Services」では、オープンテクノロジーをコアに、ベンダーロックインを排除。RedHat OpenShiftおよびKubernetesにより標準化され、可搬性に優れたクラウドサービスを提供できると述べる。
「クラウドベンダーにもそれぞれに特色が求められる。他社のクラウドを利用している企業でも、『基幹系に近いワークロードにはIBM Cloudを利用したい』という声が多い。たとえば国内流通業ではシビアな非機能要件を満たすことができるIBM Cloudを採用、また製造業ではコネクテッドカーのインフラにIBM Cloudを活用している。また保険会社では重要業務をハイブリットクラウドで運用し、その基盤にIBM Cloudを採用している。IBM Cloudはミッションクリティカルにフォーカスし、そこで貢献をしていく」(今野氏)
サステナビリティ、ソブリン、インダストリークラウドなどの取り組み
IBM Cloudでは、いくつかの新たな取り組みも開始している。
ひとつめは、IBM Cloudデータセンターへの投資の強化と、サステナビリティに向けた取り組みである。
IBM Cloudでは現在46拠点のデータセンターを持つが、これをさらに拡張する計画を打ち出しており、分散クラウドの充実にも寄与していくという。既存設備のリプレースだけでなく、既存データセンターのアベイラビリティゾーン化、高集積サーバーや大容量ストレージ、大規模ネットワークの採用、マルチアーキテクチャ化(x86、IBM Z、IBM i、AIX、量子コンピュータなど)を促進していく。すでに現時点でも127量子ビットの量子コンピュータをIBM Cloudで利用できる。
サステナビリティの観点では、2030年までに脱炭素100%エネルギーの採用率を90%にすること、2025年までにすべてのデータセンターの平均PUEを1.4にすることなどに取り組んでいる。
「2023年早々には、データセンター/サービスごとにCO2排出量などを可視化できる『Carbon Calculator』を提供する。これにより、顧客企業におけるサステナビリティへの取り組みにも貢献できる」(今野氏)
なお、IBM Cloudを活用した顧客企業のサステナビリティの取り組みは加速している。三菱重工業では、CO2流通を可視化するデジタルプラットフォーム「CO2NNEX」を構築。三井化学とはブロックチェーンによる資源循環型プラットフォームの構築で協業。旭化成とはプラスチック資源循環プロジェクト「BLUE Plastics」をスタートしている。
2つめは、規制が厳しい業界向けのインダストリークラウドの取り組みである。ここでは特にソブリンクラウドへの対応について触れた。
経済安全保障やデータ保護の観点から、国内データセンターでのデータ管理/保存/利用を行うソブリンクラウドへのニーズが高まるなかで、IBMもその対応を進めている。サーバーやデータ保管先の物理的な専有ができるベアメタルサーバーにおいて日本で最大シェアを持つ強みに加えて、顧客データセンターへの分散クラウドを実現する「IBM Cloud Satellite」、利用者しかデータにアクセスできない「Hyper Protect Crypto Services」、国内での複数リージョン(東京/大阪)運用、各種コンプライアンスへの順守状況を監視できるサービスの提供などを挙げ、「日本版ソブリンクラウドに対応していく」と述べた。
また、金融業界との協業で構築されたパブリッククラウドサービス「IBM Cloud for Financial Services」をグローバル展開しており、海外の金融機関で採用が進んでいることを紹介した。同クラウドのコンソーシアムには世界で120以上の金融機関が参加しており、日本からも三菱UFJフィナンシャルグループが参加している。
「コンソーシアムに参加する金融機関の意見を聞きながら、金融業界向けパブリッククラウドのあるべき姿に向けてサービスをアップデートしている。今後はFISCなどへの対応を図り、日本での展開を予定している」(今野氏)
なお日本の金融機関向けでは「金融サービス向けデジタルサービスプラットフォーム(DSP)」の実績が先行しており、現在は約30行の金融機関が利用しているという。「事前準備された機能やサービスを利用でき、基幹系連携や業務マイクロサービスも提供している。そして、DSP基盤にIBM Cloudを活用している。今後、DSPは、製造、流通など、様々な業界に展開し、業界内のプラットフォーム化や、業界をまたいだ新たなサービスの創出にもつなげていく。パブリッククラウドでありながら、業界に特化した形で、変革を起こしていく」と語った。
またIBM Cloud Satelliteの活用事例としては、東京電力グループのテプコシステムズが、IBM Cloud Satelliteにより、データをオンプレミスに置いたままクラウドを活用したサービスをユーザーに提供しているケースを挙げた。
3つめは、IBM Cloudの品質強化である。
同社によると、重大な障害(重要度1:クラウド環境に大規模な影響が発生し、多くの利用者が正常に利用できなくなる障害)の発生件数は、2022年、大幅に減少した。今後も継続的に品質向上を図るという。
「ネットワークに起因したトラブルが非常に多いため、ネットワークベンダーやキャリアとの連携と過去からの経験をもとに、12カ月分のデータを四半期ごとに洗い出し、IBM Cloudに関する既知や未知の障害に、リアルタイムで対応するといった取り組みを行ってきた。そうした取り組みが劇的な改善につながっている」(日本IBM テクノロジー事業本部クラウドプラットフォームテクニカルセールス シニアアーキテクトの安田智有氏)
CTCがIBM Cloud上でハイブリッドクラウド支援サービスを提供開始
今回の説明会では、伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)との新たな提携を発表。IBM Cloud上で、CTCのハイブリッドクラウド支援サービス「OneCUVIC」の提供を開始する。
OneCUVICは、オープンハイブリッドインフラサービスやマネージドサービス、セキュリティサービス、クラウドネイティブサービスなどで構成される。CTCでは、安全で効率的なITインフラサービスの利用を求める、海外拠点を持つ日本の企業を中心にOneCUVICを提供していく方針で、3年間で650億円の売上げを目指す。
CTCの東智之氏は、OneCUVICは「複雑化する企業のハイブリッドクラウド環境を、オープン、シンプル、セキュアな環境に移行させるためのDX基盤として提供している」と説明したうえで、「IBM Cloudが持つグローバルインフラを活用し、国内だけでなく全世界に展開できる。また各国の規制に対応した運用が可能になる点も特徴だ」などと述べた。
「DXは第2章に突入した」新たな時代の役割
今野氏は「コロナ禍の影響で『DXは平均5.3年進んだ』と言われており、DXは第2章に突入した」と指摘する。この「第2章」では、GAFAのようなサービスプロバイダー主導ではなく「企業がリードするイノベーション」へと進化し、ハイブリッドクラウドや企業内データの活用による価値創出を図っていく必要があると語る。
「単純なクラウド化から、ハイブリッドクラウドを活用した変革に時代が突入するなかで、複数の業務や企業をまたがり価値が生まれる『共創』、クラウドに求められる『新たな価値』、そして『ミッションクリティカル』を支えるクラウドが重要になる」(今野氏)
そのうえで「IBM Cloudは、マルチなアプリケーション、マルチなソフトウェア、マルチのインフラ環境をトータルで提供し、データのポータビリティを支えるコンテナを核にして、ハイブリッドクラウド全体で、企業や業界の変革を生むことを支援していくことになる」と語った。
なお、今野氏が所長を務め、顧客やパートナーのコンテナ化に関するスキル獲得および育成支援を行うコンテナ共創センターでは、現在62社が参加し、コミュニティ会員として1063人が登録。技術アドバイザーが18人、技術ブログの情報発信は1万2723件、事例公開は6件に達しているという。