ロードスターの日々は毎日素晴らしい~990Sロングランレポ 第9回
「2022ロードスター展」を開催した RCOJ(ロードスター・クラブ・オブ・ジャパン)とは?
2022年11月12日 12時00分更新
この夏、横浜にあるマツダの開発拠点、マツダR&Dにおいて7月9~31日にかけて「2022ロードスター展 with Bow」が開催されました。これは、ロードスター30周年を記念してファンがボディー全体に署名した署名車(筆者も署名しています)をはじめ、1990年代のマツダのデザイナーによるスケッチ原画、イラストレーターのBow氏の作品展示などが用意された、ロードスター・ファン向けのマニアックなイベントです。
ですが、今回紹介したいのはイベントそのものではなく、それを主催した「RCOJ(ロードスター・クラブ・オブ・ジャパン)」であり、その代表である人物です。
ちょっと横道に逸れますが、ロードスターが誕生から30年を過ぎて、なお新しいファンを生み出しているのは、ある意味、奇跡的なことだと思います。製品としての魅力が、時代の変化を乗り越えて維持されていることも素晴らしいことです。ただし、ロードスターの人気は、製品だけの力ではないという側面もあります。ロードスターのファンがいて、その集まりとなるファン・クラブがあり、それを手助けする街のショップなど、様々な人が関わりあうことで醸成されたのが、現在のロードスターの人気だと僕は考えます。ファンによるSNSへの投稿が、新しいファンを生む大きな力になっていることは疑いようのない事実です。
これって、まさに“クルマ文化”と呼べるのではないでしょうか。
そんなロードスター文化の醸成に貢献した団体や人は、数多く存在します。その中の一人として、ぜひともロードスター・ファンには知っておいてほしいのが「RCOJ(ロードスター・クラブ・オブ・ジャパン)」、そして、その代表となる水落正典氏です。
「RCOJ」とはロードスターのファン・クラブです。会員になると年に4回、印刷された会報が届けられます。入会は1000円、そして年会費は6300円となります。RCOJ主催のイベントに参加してもよし、会報を読むだけでもよし、というかなり緩いクラブです。
その「RCOJ」は、“ジャパン”と名乗っていますが、マツダではなく、代表である水落氏が運営する民間の団体です。ただし、普通のクラブと違うのは、名称にあるように最初から全国組織としてスタートしたこと。クラブのスタートは、初代NAロードスターがまだ現役であった1996年。設立から、すでに25年以上が過ぎたことになります。
よくあるファン・クラブは、友達同士が集まって、自然発生的に生まれるもの。ところが「RCOJ」は、最初から全国規模でスタートしたため、全国各地にある小さなファン・クラブのメンバーもこぞって参加したといいます。会員はすぐに1000名を超えたとか。最盛期には全国の80のクラブからの参加があったそうです。
ちなみに、現在の「RCOJ」の会員は約1400人で、クラブの参加は30ほど。最盛期ほどではありませんが、それでも数多くのクラブが参加しているのは間違いありません。
そういう状況のため、「RCOJ」はただのクラブではなく、全国のファン・クラブの連絡会のような存在となっているのです。ロードスターの国内最大級のイベントである軽井沢ミーティングにも、「RCOJ」やそのメンバーが運営側の一人と参加しています。全国各地にあるファン・クラブが連絡を取り合い、そして大きなイベントの開催に多くのクラブが協力するという格好です。
これって、けっこう珍しい状況ではないでしょうか。いろいろなクルマにファン・クラブが存在しますが、意外とクラブ同士の仲が良くない場合もあります。ところが、ロードスターの場合、「RCOJ」が扇の要のような存在になり、各クラブが仲良く共存しています。こうした状況が生む、フレンドリーな雰囲気も、ロードスターならではの魅力のひとつだと思います。
元マツダ、元M2の人物が
「楽しい連中と老後まで」と一念発起
そこで、気になるのが「RCOJ」の代表となる水落氏です。ちなみに「RCOJ」は、大規模な組織ではなく、ほぼ水落氏だけという小さな組織です。ですから、「RCOJ」の成果は、ほぼ水落氏の個人の力と言っていいでしょう。
そんな水落氏は、どんな方といえば、元マツダの社員、しかもM2所属でした。M2が何かといえば、まだバブル景気の余韻の残る1990年代前半に、マツダが作った子会社のこと。東京世田谷の環状8号線沿いに前衛的な自社ビル(現在は別会社運営のセレモニーホールとなっている)を構え、ロードスターをベースにしたカスタムカー「M2 1001」を販売したり、多くのユーザーを招いて意見を聞くなど、先進的な試みを試した会社でした。
そのM2で、多くのロードスターのオーナーと出会った水落氏は「みんなすごい良いやつらばかりだったんだ」と当時を振り返ります。そこでユーザー側からも「全国組織を作ってほしい」という話も出たとか。そこで当時、マツダの人間だった水落氏は、マツダ主導の組織を検討したけれど、「企業で運営すると、景気が悪くなると手を引く可能性が高い」ということから断念したそうです。
しかしその後、M2は頓挫し、水落氏は広島に戻ることに。そのタイミングで、当時35歳だった水落氏は「クラブの楽しい連中と老後まで暮らせるのもいいな」と一念発起。マツダを退社して、「RCOJ」を立ち上げたというのです。「当時、100ほどあった全国のクラブに手紙を送りました。“情報センターとして真ん中に立ちます”と。上から目線にならないように気をつけました」とは水落氏。
実のところ、筆者と水落氏は、記者と取材対象(イベント主催側)という関係で、非常に長い付き合いがあります。筆者的な水落氏の印象は、「とてもフランクな雰囲気の方」というもの。もちろん元メーカーで広報の役割も理解しているため、非常に取材しやすい相手です。そうした接しやすさも、全国のクラブの方から信頼を得る理由のひとつになったのではないでしょうか。
筆者紹介:鈴木ケンイチ
1966年9月15日生まれ。茨城県出身。国学院大学卒。大学卒業後に一般誌/女性誌/PR誌/書籍を制作する編集プロダクションに勤務。28歳で独立。徐々に自動車関連のフィールドへ。2003年にJAF公式戦ワンメイクレース(マツダ・ロードスター・パーティレース)に参戦。新車紹介から人物取材、メカニカルなレポートまで幅広く対応。見えにくい、エンジニアリングやコンセプト、魅力などを“分かりやすく”“深く”説明することをモットーにする。
最近は新技術や環境関係に注目。年間3~4回の海外モーターショー取材を実施。毎月1回のSA/PAの食べ歩き取材を10年ほど継続中。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 自動車技術会会員 環境社会検定試験(ECO検定)。
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