薄氷の勝利だった「Blender Benchmark」
CG作成アプリ「Blender」を利用したベンチマーク「Blender Benchmark」を試してみよう。テストではCPUもしくはGPUがレンダリングデバイスとして選択できるが、今回はCPU比較であるためCPUを指定している。
CINEBENCH R23では第13世代CoreがRyzen 7000シリーズを大きく上回るスコアーを出していたが、それはCINEBENCH(実体は「CINEMA 4D」)での話。BlenderではまだRyzenの方が強い。ただその差は限りなく小さく、コア数の多いRyzen 9でないと優勢とは言いづらい情勢であることも確かである。
しかし、第13世代Coreは第12世代以上に消費電力を犠牲にして性能を取りにいった設計であるため、ワットパフォーマンスという点では圧倒的にRyzen 9 7900Xや7950Xの方が優れている。レンダリングのコマ数が多くなればなるほど、Ryzenが有利になる。ただその理屈で言うと、旧世代Ryzenの上位モデルも、まだまだ現役を張れる性能を出しているとも言えるのだが……。
Ryzen上位モデルが粘る「Media Encoder 2023」「HandBrake」
続いては動画エンコードでの検証だ。まず「Premiere Pro 2023」で約3分の4K動画を作成し、これを「Media Encoder 2023」にキュー出しして4K動画に出力する時間を計測した。フレーム補間はシンプルな“フレームサンプリング”を指定している。
コア数がモノを言う条件だけにRyzenの6コア〜8コアモデルでは相応に処理時間が長くなっている。第13世代CoreもPコアは6ないし8基だが、Eコアが8基もあるためその分Ryzenの下位モデルよりも有利になっている。
ここでも第13世代Coreに勝てるのは、Ryzen 7000シリーズの上位モデルに限定される。Core i9-13900Kに対してはRyzen 9 7950Xが、Core i7-13700Kに対してはRyzen 9 7900Xがそれぞれ勝利している。PコアとEコアを使い分けるハイブリッドデザインは良い部分もあることは確かだが、このような処理では単純にパワーのあるコアだけで構成されているRyzen 7000シリーズが良いようだ。
続いては「HandBrake」でも試しておこう。再生時間3分の4K動画(60fps)に対し、プリセットの“SuperHQ 1080p30 Surround”、“H.265 MKV 1080p30”を利用してフルHD 30fpsのMP4ないしMKV形式に書き出す時間を計測した。エンコードのタスクはSuperHQ 1080p30 Surround(コーデックはH.264)の後に、すぐH.265 MKV 1080p30を実行させるようにキューを組んでいる。
H.264のエンコードスピードはRyzen 9 7950XとCore i9-13900Kが同着、Ryzen 9 7900XとCore i7-13700Kが同着となった。新旧Ryzen比較で言うとRyzen 7000シリーズは5000シリーズを大きく引き離しており、Ryzen 9 7950Xと5950Xを比較するとH.264で3割程度短縮しているだけでなく、Ryzen 7 7700Xがよりコア数の多いRyzen 9 5900Xを上回るなど、1ランク上の働きを見せている。
一方H.265においては、第13世代Coreの13900Kおよび13700Kは対抗するRyzenに対し逆に負けていることが示されているが、特にCore i9-13900Kに関してはCPUパッケージ温度が100度に到達するためサーマルスロットリングが発生、結果としてクロック低下やCPU Package Powerが低下することが速度ダウンの原因である。
つまりこの検証におけるCore i9-13900Kの結果(特にH.264)は、尺の長い動画を処理した際のパフォーマンスを正しく反映していないことになる。Ryzen 9 7950XもCPU温度(Tctl/Tdie)は90℃を軽く超えるため使う側としてはヒヤヒヤすることは確かだが、こちらはクロック低下はしない。長い目で見てどちらが良いかは明らかだ。
GPUパワー寄りの「DaVinci Resolve Studio」や「Video AI」ではどうなる?
次に試す「DaVinci Resolve Studio」も動画編集アプリではあるが、Premiere Pro 2023やMedia Encoder 2023よりもずっとGPUパワーへの依存が大きいアプリだ。こういうアプリでは差が出るのか否かチェックしてみよう。
ここではProRes 422 HQ動画を使用した再生時間約2分の8K動画を準備し、これを8KのMP4に書き出す時間を測定した。ビットレートは80MbpsのH.265とした。DaVinci Resolve StudioではCPUパワーに比重を置いた“NATIVE”エンコーダーとGPUのハードウェアエンコーダー(今回のテスト環境では“AMD”)があるが、今回は比較の意味で両方とも使用している。
まずGPUのハードウェアエンコーダー(AMD)を使った場合は、一部例外的なものはあるが、Ryzen 7000シリーズと第13世代Coreの間に実質的な違いはない。しかし、Ryzen環境でCPUを使う場合(NATIVE)は、上位モデルほど処理時間が長くなることが確認できた。今回のテスト素材と設定ではCPU負荷が上がりきらないことも一つの原因ではあるが、CCDが2基構成になることのコア間レイテンシーの増大も原因としてあると考えてよいだろう。
下手にRyzen 7000シリーズの上位モデルを使ってNATIVEエンコーダーを使う位なら、Ryzen 7や5を使った方がエンコード時間が短くなるという結果が面白い。
無論この結果は動画に適用するエフェクトやフィルターの種類や数も影響すると考えられるため、GPU依存度の高い処理をさせた場合はこうだった、程度の認識でいるのが良いだろう。
次はAIを利用した動画の超解像処理を行う「Topaz Video AI」、これまでは「Topaz Video Enhance AI」と呼ばれてきたアプリを使う。約30秒の720p動画(59.94fps)をプリセットの「Upscale to 4K and convert to 60fps」で60fpsの4K動画に変換する時間を計測した。学習モデルは「Chronos Fast」「Proteus」とし、出力ファイルのコーデックは「ProRes 422 HQ」を選択している。AIプロセッサーの設定は明示的にRX 6950 XTを指定し、VRAMの占有許容量は90%とした。
まずRyzen同士の比較では、明らかにRyzen 7000シリーズの方が処理時間が短い。5000シリーズでは下位モデルがより遅いのに対し、7000シリーズではRyzen 7 7700Xが最速となるなど、微妙に傾向が異なってはいるものの、同じ処理をさせてもRyzen 7000シリーズの方が大幅に処理時間を短縮できている。
しかし、それ以上に第13世代Coreは処理時間が短い。AIプロセッサーにGPUを指名しているのでCPU側のAI関連の拡張命令の差というよりも、Topazシリーズのインテル製品への最適化度がこの結果に繋がったのではないかと考えられる(Arc AシリーズのAI関連の機能でも、同社の製品は対応アプリとしてインテルが例示しているほどだ)。
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