プレスリリースも有効 知財活動で企業価値を高める方法
「スタートアップが企業価値を高めるための知財戦略 by IP BASE in 熊本」レポート
この記事は、特許庁のスタートアップの知財コミュニティポータルサイト「IP BASE」(関連サイト)イベントレポートの転載記事です。
特許庁スタートアップ支援班は2022年10月4日、熊本市と九州経済産業局の協力のもと、くまもと森都心プラザ「XOSS POINT.」にて、スタートアップ向け知財イベント「スタートアップが企業価値を高めるための知財戦略 by IP BASE in 熊本」を現地とオンライン配信にて開催。“知財戦略による企業価値の向上”をテーマに、国内唯一のレンタルCIPO事業を展開する株式会社MyCIPOの谷口将仁氏による講演と、熊本に所縁のあるスタートアップの2社の代表によるパネルディスカッションを実施した。
オープニング、特許庁のスタートアップ向け知財支援施策
冒頭のあいさつにはソシデア知的財産事務所 代表弁理士の小木智彦氏が登壇し、九州のスタートアップエコシステムとして、福岡とは違った熊本、その他九州地域全体を巻き込んだエコシステムが拡大していくことを期待した。
続けて特許庁 総務部企画調査課 スタートアップ支援係長 大塚美咲氏より特許庁スタートアップ支援施策として、スタートアップ向け知財コミュニティ「IP BASE」の運営、知財アクセラレーションプログラム「IPAS」の2つの取り組みを紹介。また本年度からベンチャーキャピタルへの知財専門家派遣調査事業を試行的に実施しており、来年度からは派遣先VCを公募する本格実施に移行する予定だ。
企業価値を高める知財戦略には顧客価値の言語化がポイント
株式会社MyCIPO 代表取締役 谷口将仁氏による講演では「スタートアップの企業価値を高める知財戦略」と題し、「企業が目指すべき知財戦略とは?」「勝てる特許ポートフォリオ戦略」「IPOに向けた知財戦略の具体例」の3つのトピックについて解説した。
企業が目指すべき知財戦略とは、顧客価値を実現するアイデアを特許で守り独占すること。そして、独占した権利をどう活用するのか? そのまま1社独占にするのか? アライアンスに活用してエコシステムを拡大するのか? なども同時に考えていく必要がある。知財戦略を企業価値に繋げるには、売上から逆算して考えることがポイント。例として、AmazonのECサイトを挙げ、Amazonは「最適のものがすぐに見つかる」、「少ない手間で買える」、「安く買える」、「すぐに届く」という4つの顧客価値を言語化し、この4つの顧客価値で世界No1になるために、知財戦略を展開していると紹介。少ない手間で買える「1クリック購入」(1997年)、最適なものがすぐに見つけられる「レコメンド機能」(2009年)、安く買える「出品工数削減」(2002年)、すぐに届く「配送時間短縮」(2012年)といった特許を紹介。Amazonは、この4つの顧客価値を独占するポートフォリオを構築することで、競合他社に顧客価値を提供させないようにし、知財戦略で圧倒的な競争優位性を創っている。
業務に落とし込むには、製品サービスのローンチの前後で方針を分けて考えるのがポイント。ローンチ前は、基本特許を出願権利化したのち、次に想定している顧客価値を実現するキラー機能などのアイデアを特許出願する。ローンチ後に、実際の顧客の声や要望から必要に応じて軌道修正し、キラー機能のアイデアを改めて特許出願するといいそうだ。
具体的な手順として、1 顧客価値を言語化、2 顧客価値を実現するアイデアのリスト化、3 特許性を高めた発明提案書の作成、4 顧客価値を独占する特許ポートフォリオを構築、5 競争優位性をマーケットに発信の5つを挙げた。
特許の出願から登録されるまでに時間がかかるため、IPOに向けた知財戦略は3年前から準備を進める必要がある。投資家に対して、特許の価値や知財戦略が伝わりやすいように表現を工夫し、持続的な売上利益が見込めることをエビデンスと示して説明することが大事だ。積極的な知財戦略を続ける限り、競争優位性がどんどん増えていくので、売上利益が右肩上がりになることを示し理解して貰うことで、企業価値が上がる。
IPOに向けた知財戦略の成功事例として、N-2期で予想していた企業価値に比べて、実際のIPO時に200億円以上企業価値が増額した例や、IPO後も知財戦略のIR/プレスリリースでストップ高を累計7回出している事例を紹介した。
「企業価値を高める知財戦略を実践して勝ちましょう」と締めくくった。
ポストコロナで増加する知財トラブル ~INPIT熊本県知財総合支援窓口の紹介~
続いて、INPIT熊本県知財総合支援窓口 事業責任者の本間康夫氏が窓口業務について紹介。
コロナ禍でSNSやネットショップの活用が広がったことから、商標権の侵害トラブルが増えている。会社設立時に自社の商号や屋号を法務局や税務署に登記していても、商標権は別途特許庁に申請し、登録する必要がある。会社名や商品名の商標権侵害が発生した場合、損害賠償請求や商品の回収、弁護士費用などで事業の存続を揺るがしかねない。商標権取得にかかる費用は、1区分であれば出願料は1万2000円、10年分の登録料は3万2900円、計4万4900円で登録でき、10年間独占的に使用できるので忘れずに登録しておきたい。希望する会社名や商品名を、すでに他人が登録しているかどうかは特許情報プラットフォーム「J-PlatPat」で調べることができる。登録方法や区分などがわかりづらいときは、INPIT熊本県知財総合支援窓口で無料相談が受けられるので気軽に活用しよう。
特許獲得のプレスリリースも企業価値向上につながる
後半のパネルディスカッションには、遠隔医療に対応した聴診器を研究開発しているAMI株式会社 代表取締役CEO 小川晋平氏、睡眠改善商品を開発、販売しているムーンムーン株式会社 代表取締役 竹田浩一氏、株式会社MyCIPO 代表取締役 谷口将仁氏、モデレーターとしてソシデア知的財産事務所 代表弁理士の小木智彦氏が参加。
小川氏と竹田氏、会場の来場者からの質問に対して、谷口氏と小木氏が答える形で進行し、「IRの仕方で工夫しているところは?」という質問には、「特許が売上にどのようにつながるのかを投資家にわかりやすく説明することが重要。単なる特許取得のメッセージだけだと反響は小さい。特許取得したことで事業にどのような影響を与え将来の売上利益がどのように変わっていくのかを伝えることがポイント」と回答。また、「権利化する前の出願中にPRしてもいいのか」という質問には、出願中の反応は薄い。登録後に伝えた方が効果が高い」とのこと。小木氏からの補足として、「スタートアップスーパー早期審査請求を使うと1年以内に取れるので、先延ばしせずに早期に権利化したほうがいい」とアドバイスした。
イベントの模様は下記、YouTubeにて全編アーカイブ配信中です。
■タイムスケジュール再生リスト
開会挨拶
-小木智彦氏 ソシデア知的財産事務所 代表弁理士
スタートアップ支援施策について
-大塚美咲氏 経済産業省 特許庁 スタートアップ支援班
ご講演
-谷口将仁氏 株式会社MyCIPO 代表取締役
INPTご紹介
-本間康夫氏 INPIT熊本県知財総合支援窓口 事業責任者
パネルディスカッション
-小川晋平氏 AMI株式会社 代表取締役CEO
-竹田浩一氏 ムーンムーン株式会社 代表取締役
-谷口将仁氏 株式会社MyCIPO 代表取締役
-モデレーター:小木智彦氏 ソシデア知的財産事務所 代表弁理士