今月、インテルはイスラエルでIntel Tech Tour.ilと題したTech Dayを開催した。なぜイスラエルか? というと、実は間もなく詳細が公開されるRaptor Lakeの設計と製造はイスラエルが主導しており、それもあってキーパーソンインタビューやDeep Diveなども開催されたのだが、このあたりの詳細はまた回を改めてお届けする。
イスラエルと言えば、インテルが買収したMobileyeやHabana Labsなども全部イスラエルの企業であり、それもあって今回のTech DayではHabana Labsによる製品アップデートも説明があった。
Habana Labsの話は連載575回で紹介したが、この時はGAUDIとGOYAという、同社にとって第1世代の製品の説明に留まった。ただ同社(というのか、同部門というのか)はこれに続いて第2世代製品をすでに出荷しているので、このあたりを中心に説明したい。
クライアント向けにVPUを導入
Habana Labsの話を中心に、と書きながら最初はクライアント側の話である。インテルはIce Lake世代でGNAと呼ばれるAIアクセラレーターを導入したが、これは連載665回で説明したように、非常に限られた用途向けのもので、汎用というには性能的に不十分なものだった。その一方で、クライアントではさまざまなところでAIを利用しよう、という機運が急速に高まりつつあるとする。

AIをクライアントで利用していく。ただゲームとContents Creation(それこそAdobeのSensei)とProductivity(例えばMicrosoft OfficeのAIを利用したアシスタント機能)は、全部バラバラにAIフレームワークを実装して利用しているわけで、これらが統合されるまでには時間がかかりそうではある
これに向けて、インテルとしてもクライアント向けに本腰を入れてAIを実装していこう、としている。具体的には、クライアントにもVPUを標準で導入する、というのが今回の大きな発表である。

クライアント向けにAIを実装するというのは、ソフトウェア側から見ての話である。それにしても、発表だけはしたもののまだ製品の出ていないIntel XMXやXeSSまでしれっと「実現したもの」リストに入れてあるのはどうだろう?
VPUはVision Processing Unitの略で、インテルが買収したMovidiusのMyriadシリーズのアクセラレーターに採用されている名称だが、これを全面的にクライアントに導入することを正式に発表した。

クライアントにもVPUを標準で導入する。VPUは映像に特化しており、ISPなども内蔵して映像処理に非常に便利な作りではあるが、別にISPを通さなくても利用できるので、このあたりで手頃だったということだろう
まずRaptor Lake世代が最初の導入プラットフォームになる。そしてMeteor LakeではこれがCPU側に統合されることが明確にされた。
もともと今年2月に開催されたInvestor Meetingの際に、Raptor Lakeには“AI M.2 Module”なるものが追加されると明らかにされていた。
連載657回でも「現時点で一番可能性が高いのはこのMyriad X VPUベースということになる」と書いたが、上の画像でMicrosoft(おそらくWindows MLのVPU対応をするのだろう)のほかにDell/HP/Lenovo/Acerのロゴがあるのは、この4社から投入されるRaptor Lakeベースのクライアント機には、Myriad X VPUを搭載したM.2 Moduleが搭載されると考えていいだろう。
実際にさまざまなアプリケーションがVPU対応になるのはまだまだ先のことであろうが、AMDもZen 5世代でXNAという名称で旧XilinxのAI Engineを搭載することを発表しており、クライアントにAIアクセラレーターが標準搭載される日が近づいたことになる。もっともスマートフォン向けのSoCではもうNPU(Neural Processing Unit)を標準搭載するのが当たり前の昨今からすると、むしろ動きが遅いともいえるが。

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