“エクステンド”インサートを新開発、高解像度で抜けのいいサウンドへ
Shureのフラッグシップ「SE846」が第2世代に進化(レビュー&インプレッション)
2022年09月15日 03時10分更新
これぞ求めていた音の改善、シュアらしい聞きやすさも兼ね備える
実機の試聴もできたが、エクステンド・インサートを使ったSE846の音は、非常に抜け感が良く明瞭。試しにクイーンの『ボヘミアン・ラプソディー』を聞いてみた。少し曇っていたガラスを拭いた後のような、あるいは台風の後の青空のような、華やかさや明瞭感が感じ取れた。「シュアならではの音が、より現代的な雰囲気に生まれ変わった」と筆者は感じたが、同様の感想を持つ人は多いのだそうだ。
もちろん、少し紗がかかったようにソフトで、中音域の密度感が高いバランス・インサートの音も悪くはない。しかし、最近のイヤホンは高解像度志向のものが多く、それを聞きなれた人の耳にはエクステンド・インサートの音がより好ましく響くに違いない。
例えばボヘミアン・ラプソディーでは、冒頭からフレディ・マーキュリーの声の聞えやすさが際立つ。さらに、0:40付近のシューっと流れ星のように入るSE的な音がこれまでになく際立って聞こえ、2:05付近に入る金物を叩く音、3:20付近で様々方向から出る声は位置の変化が分かりやすい。声や楽器が空間の中で浮き立つ感じが実感できるのだ。
すでに書いたようにフィルターの効果は中高域に出るので、全体の音調は緩めでゆったりとした低域の上に、抜け感が良く高解像度な中高域が載るちょっと面白い組み合わせになる。一例としてドラムの表現を示すと、タムタムやスネアの立ち上がりが速くなり、分離もよくなる一方で、キックは少しゆったりとしている。このあたり現代的な音調に寄りつつも、シュアらしい暖かさも残る部分と言えるかもしれない。
ハイレゾ認証を取ったイヤホンと言うことで、最近人気があるドングル型でハイレゾ対応のUSB DACと組み合わせた再生も楽しそうだ。Apple MusicやAmazon Musicではハイレゾ音源も豊富なので、手軽かつ高音質に音の世界に浸れる。音数の多い楽曲としてやくしまるえつこメトロオーケストラの『僕の存在証明』(24bit/96kHz)なども聴いてみたが、ボーカル、ストリングス、シンセなどの電子音、マリンバ、エレキギター……などさまざまな楽器が掛け合って入り混じる楽曲でも個々の楽器の分離感が高く、それぞれの音のニュアンスが立って聞こえる。一方で、理性的にも聴けるというか、曲の全体像を把握したり、破綻を感じず小さな音をより細かくチェックすることもできる。
さて、SE846発表時の記事を読み返したところ、BA型ではこれまでなかったような低域の量感に感心している。改めて、SE846をじっくり聞いてみたが、量感のある低域の印象が強い点は大筋では変わっていない。ただ、敢えて少し加筆すると、この低域は割合緩くて大らかな印象である。
従来の標準だったバランス・インサートの音はしっかりとした低域の上に豊かな情報量を持つ中域ときつさのない高域が載る、安定感のあるサウンドではあったが、曲によってはもう少し抜け感が欲しいと思うこともあった。第2世代のSE846では、新開発のエクステンド・インサートが標準になるというが、なるほどと感心したし、欲しかった改善だと思った。
実売価格は12万9800円程度と高価だが、4種類のインサートの交換で音の変化を楽しめるし、シリコン型、フォーム型、3段キノコ、スポンジと4種類のイヤーチップ、粋な感じのフィルター交換用工具なども付属。別売とはなるが、シュアはワイヤレスアダプターなども豊富なので、完全ワイヤレス化も楽しめる。これに約10年近く続いたシリーズであるという信頼感も加わる。シュアには50年以上親しまれ、今も定番のマイク「SM58」などがあるが、変わらない価値と安心感を持ちつつ、時代に合わせて変化する姿勢がSE846にも共通しているかもしれない。