2022年2月に発売されたヤマハの新しいスポーツバイク「YZF-R7」が新しいスポーツバイクとして注目されている。スーパースポーツといえばサーキットランが楽しいオートバイ。けれどYZF-R7は、それを大きく超えるオールマイティーさがあるスポーツバイクだ。
オールマイティーさが魅力の
ヤマハ「YZF-R7」
2014年にデビューしたヤマハ「MT-07」というオートバイがある。専用に新規開発された水冷並列2気筒エンジンを、パイプフレームに搭載するストリートバイクで、スゴすぎない、それも意のままに扱えるモデルとして、ヤマハのヒット作となった傑作車だ。
MT-07より少し前に発売された並列3気筒の「MT-09」に続く、ヤマハがチャレンジした「4気筒ではないスポーツバイク」で、MT-09もMT-07も、ヤマハの新しい時代を引っ張っていくスポーツバイクだった。それまでのスポーツバイクの作法である、高出力のエンジンを高剛性のフレームに搭載するという「ハイパワー主義」から、ほど良いパワーを軽いハンドリングで扱う車体、という新公式に当てはめたモデルだったのだ。
YZF-R7は、そのMT-07をベースにスーパースポーツ風の味付けを施したものだ。あえてスーパースポーツ「風」と表現したのは、MT-07をベースとして、性能的に大きなモディファイがあったわけではないから。エンジン、車体はほぼMT-07のまま。大きく違うのは、MT-07にはないフルカウルを装着したことと、ライディングポジションがグッとスーパースポーツ寄りになったことだ。
またがっただけで、これは久々のスーパースポーツなのだと思わされる。ベースとなったMT-07と比べると、ハンドルは17cm低くグリップポジションは15cmも遠くなり、上半身はぐんと前傾姿勢を強いられることになる。それに合わせて、ステップポジションは5cm後退して6cm高くなった。シート高も3cm高くなって、まるで1980年代のレーサーレプリカのような攻撃的姿勢。
フロント荷重が増え、タイヤを路面に押しつけて
しっかりとコーナリングできる
これは手強そうだと覚悟して走り始めると、心配無用。エンジンのパワーフィーリングはMT-07そのままで、フリクションなく、ころころと軽快に回る並列2気筒の手応えは健在。スーパースポーツなルックスに衣替えしても、出力特性は変えてはいないのもYZF-R7の特徴だ。
ただし、ハンドリングのテイストは大きく変わっている。フロントフォークをMT-07の正立フォークから倒立フォークに変わり、走るフィーリングがかなりフロントタイヤの存在感を際立たせてくるのだ。
全体のハンドリングは、やはりフロント回りの設定変更が大きく、ハンドル位置が低くなってフロント荷重が増えたこともあって、かなりフロントへの分布荷重を増やしている印象。しっかりとフロントタイヤを路面に押し付けてコーナリングする、このあたりはスーパースポーツそのもののキャラクターだ。
とはいえ、ストリートランでも乗りづらさを感じさせるものではなく、フロントのしっかり感を増やしながら、軽快さを失ってはいない。このあたりの設定が絶妙で、街中の曲がり角のようなスピードや、車線変更はヒラリ、という動きを残している。
これをワインディングに持ち込むと、やはり動きは一変する。アクセルの開け閉めをしっかり、さらにブレーキングでしっかりフロントタイヤに荷重をかけてのコーナリングは、やはり軽快にクルッと回る。フロント荷重が増えたことで、よりコーナリング向きの車体になった──そんなキャラクターだ。
もうひとつ、高速道路の快適性を言うと、乗り心地のよさが印象的で、路面の継ぎ目を越えるにもフワッフワッとこなしてくれる。トップ6速で120km/hは、4800rpmくらいで、穏やかにスムーズに走ることができる。もちろん、もっとラクに乗るならMT-07には敵わないが、ちょっと前傾姿勢で、頭を低くして流すスポーツランも心地いい。
【まとめ】ワインディングも得意だが
サーキットランが一番楽しい
YZF-R7は、ワインディングで生き生きと走り回るオートバイだ。これまでも、そういったスポーツバイクは存在したけれど、そのキャラクターを生かす反面、街乗りのラクさや高速道路のクルージング快適性をスポイルすることもあった。けれどYZF-R7は街乗りも軽快に、高速道路も快適にクルージングできるのが新しい。
一番楽しいのは、やはりスポーツラン。たとえば、自分のバイクでサーキットを走ってみたい、というサーキットランビギナーにジャストマッチだと思う。この時も、たとえばYZF-R3といったスーパースポーツと比べても、恐怖感なくファンライドを楽しめる。もちろん、サーキットをゴリゴリに攻めたいならばYZF-R6、それでも自走でサーキットへ行き、帰りに高速道路や一般道を使って帰宅するまでをカバーするのはYZF-R7という印象。
これが、現代の新スーパースポーツだ。
この連載の記事
-
第491回
自動車
ボルボの電動SUV「EX30」は価格と性能のバランス良し! 乗って実感したオススメポイント5つ -
第489回
自動車
サーキット向けのアルピーヌ「A110S」はフランスらしいデザインと上質さで街乗りも楽しい -
第489回
自動車
アストンマーティン「DB12」はラグジュアリーと最高性能を両立させて究めた1台 -
第487回
自動車
Hondaのセダン「アコード」はすべてが適度でちょうどいい! 5つの魅力を紐解く -
第486回
自動車
これぞ王道! これぞ本流! BMWの魅力を凝縮したSUV「X5」は最高の1台と断言する -
第485回
自動車
1000万円対決! ポルシェ「マカンT」とアウディ「SQ5」似て非なる2台をあらた唯と徹底比較 -
第484回
自動車
日本カー・オブ・ザ・イヤー受賞のHonda「FREED」の魅力と買いのグレードはコレだ! -
第483回
自動車
【ミニバン売れ筋対決】ホンダ「フリード」とトヨタ「シエンタ」の良いところと微妙なところ -
第482回
自動車
これがBMWの未来! フラッグシップEVの「iX」は乗り心地良すぎで動くファーストクラス -
第481回
自動車
アルファ・ロメオのハイブリッドSUV「トナーレ」はキビキビ走って良い意味で「らしく」ない -
第480回
自動車
独特なデザインが目立つルノーのクーペSUV「アルカナ E-TECH エンジニアード」はアイドルも納得の走り - この連載の一覧へ