エリアLOVEウォーカー総編集長・玉置泰紀の「チャレンジャー・インタビュー」第20回

2025年開催の大阪・関西万博で大注目! 「空飛ぶクルマ」と「カーボンニュートラル」で オオサカが世界を驚かせる‼

文●土信田玲子/ASCII

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 2025年の大阪・関西万博開催まで、あと1000日を切った。そこで世界に向けて披露される予定の「空飛ぶクルマ」に熱い視線が注がれている。実現すればトランスポート(交通・移動)革命だけでなく、新たなビジネスや雇用の創出による経済効果が大きく期待されるからだ。また地球温暖化が深刻になっている今、喫緊の課題「カーボンニュートラル」への日本の取組みを、世界に伝える最大のチャンスでもある。今回は万博を通じて、夢の実現と多種多様な課題に臨む、大阪府商工労働部成長産業振興室メンバーの熱意を、元ウォーカー総編集長の玉置泰紀が聞いた。

パンフレット「大阪府における空の移動革命社会実装に向けて」(2022年3月作成)より

今回のチャレンジャー/(写真左から)大阪府商工労働部成長産業振興室産業創造課
産業化戦略グループ 空飛ぶクルマ担当:瀬川亮(総括主査)、藤原由衣加(副主査)、新エネルギー産業グループ カーボンニュートラル担当:長浜智子(総括主査)、定道生(参事)

空飛ぶクルマで移動革命! 新たなビジネスチャンスも

 まず「空飛ぶクルマ」について、産業化戦略グループの瀬川氏と藤原氏より話を聞いていった。

――「空飛ぶクルマ」とはドローンを大きくしたような乗り物?

瀬川「ポイントは①電動、②垂直に離着陸できる乗り物、③自律飛行可能。この3つの要素を兼ね備えた次世代の航空機を『空飛ぶクルマ』と呼ぶのが一般的です。経済産業省などでも、そういう定義をしていますが、一般的には人が乗れるドローンというのが、イメージしやすいかもしれません。」

――自律飛行とは、パイロットがいない自動運転?

瀬川「空飛ぶクルマが身近な乗り物として活用されるためには、ランニングコストの大きな部分を占めるパイロットの人件費がネックです。これがなくなれば、ユーザー側の利用コストも非常に下がるとされています。万博ではパイロットを乗せた有視界飛行、つまり肉眼で見える範囲で飛ぶ想定ですが、2030年以降にはパイロットがいない、自動自律飛行の実施を目指しています」

――ゆくゆく空飛ぶクルマの台数が増えてくれば、空の渋滞も発生しそう

瀬川「地上は2次元の世界のため、車だけでなく歩行者や自転車なども含めて、信号機で交通統制し、必ず『停止』する場面があります。一方、空中では3次元、ねじれの位置で飛ぶ航路を設定できるので、上手くコントロールできる仕組みさえできれば、渋滞は回避できるものになると考えています」

――騒音はどうです? 電動だから音も静か?

瀬川「現在のヘリコプターの音が大きい理由としては、エンジンで駆動するためです。よくお祭りなどで使われる屋外発電機と同じような振動音が出ます。それが回転する大きなブレードの風切り音と相まって、音が増幅されてしまいます。

 その点、空飛ぶクルマは電動モーターで動くため、電気自動車と同じように駆動音が静かです。プロペラも小型のものを多く使用するので、回転音や風切り音が小さくなると期待されています。また、モーター駆動音は周波数が高くなるので、人が不快に感じない、生活音に溶け込む音域を探ることも、ポイントとして開発が進められています」

関空から梅田まで10分で移動できる!?

 

――ビジネスでは、どんなシーンで利活用されそう?

瀬川「都市部と郊外では用途も異なると思いますが、大阪で一番期待度も高く、実現可能性も高いものは、空港からの2次交通ですね。例えば関西国際空港から、地上交通で観光地のUSJや梅田に向かうと、1時間強の結構な時間がかかりますが、空飛ぶクルマなら10分程度で移動できると言われています。

 インバウンドが回復すれば、時間をお金で買える富裕層が利用する可能性は、非常に高いです。また遊覧飛行など、エンターテイメントでの活用も十分想定され、万博の頃には夢洲周辺で飛行もあるでしょう。大阪南港にある天保山大観覧車(高さ112.5m)と同じくらいの高度から、空からの景色を楽しむ。ヘリコプターより機内が静かなら、普通に会話もできると思います」

――どんなところを飛ぶ想定?

瀬川「大阪ベイエリアのほか、有力な候補は大仙陵古墳(仁徳天皇陵)を含む百舌鳥・古市古墳群ですね。あの世界遺産に登録された巨大な古墳群は、空からでないと全体像が見えないですから。

 ほかにも空から見ることで、これまで触れることができなかった魅力、真価が分かる観光資源はいろいろあると思います。今後、観光資源を抱える地域それぞれが、その価値をさらにアップさせるために、空飛ぶクルマを利活用するという考え方が広がっていくと思います」

――救急救命、社会課題についてもニーズは多そう

瀬川「広範囲に被害が及ぶ水害や、大きな地震で道路が分断されてしまった際には、いち早く必要な物資を届けたり、医師の派遣にも使える可能性もあります。また、山間部や離島では日常生活の足として、医師不足の地域へはドクター・ヘリの代わり、といった社会課題の解決にもつながる、さまざまな使い方ができるだろう、と注目されています」

なぜ空飛ぶクルマの実現を大阪で目指すのか?

 

――空飛ぶクルマの開発は、大阪だけでなく世界中でも進んでいるはず。特に大阪で気合が入っているのはどうして?

瀬川「やはり、世界が注目する万博の開催が大きいと思います。世界の機体の開発状況を見ても、『機体の型式証明』という安全性の認証をクリアする機体が出てくるのが、2025年頃と想定されています。また、万博会場(夢洲)へ関空から海上を飛んでいくケースも実現可能性が高く、機体メーカーや運航会社も、万博でのお披露目を当面の共通目標として動いていますね。

 また、万博後の夢洲ではIR誘致の話もあり、マーケットとしてのポテンシャルがあります。関空、神戸の海上空港があり、大きな淀川が都心部を流れていることで、水面上を活用した航路開発もしやすい、というのが大阪の強みです」

――水都・大阪の地の利を活かせる

瀬川「コロナ以前、大阪にはインバウンドが1年間に1000万人以上来ており、事業者からも、マーケット的な魅力を期待されています。あと大阪府を事務局として『空の移動革命社会実装大阪ラウンドテーブル』を設立(後述)し、大阪で空飛ぶクルマビジネスを展開したい事業者に集まっていただき、皆で議論と実証実験を行う体制、推進組織を整えています。

 万博というタイミング・場面、大阪の地勢的メリット、同じ志を持つ産官学のプレイヤーの集結、こうしたものが皆で大阪で実現するんだ、という機運醸成にもつながっていて、すごく良い流れになっていますね」

「空の移動革命社会実装大阪ラウンドテーブル」の趣旨

 

――先ほど出た「空の移動革命社会実装大阪ラウンドテーブル」が生まれた経緯は?

瀬川「2018年夏に、国において官民集まって空飛ぶクルマを実現するために、何が必要なのかを協議する場が設置されました。その年の秋に万博の大阪開催が決まって、さまざまな事業者の方から“ぜひ大阪で実現を!”との声が大きくなりました。

 そこで、大阪ラウンドテーブル(円卓会議)を立ち上げ、大阪という具体的なフィールドでの運航の絵姿を描き、空飛ぶクルマ実現への必要項目を、国の制度設計に反映できるよう提案していくことにしました。経済産業省、国土交通省もオブザーバーで入る形で2020年、43社でのスタートでした」

――現在の参加社数はどのくらい?

瀬川「57社です。大阪で事業化を目指す方々は、さまざまな業種でおられます。最初はやはり、機体メーカーや運航事業者などが中心でしたが、商社や損害保険会社、金融機関、地元のデベロッパーにも加わっていただき、とても幅が広がってきています」

――コロナ禍ながらも、ずいぶん増えましたね

瀬川「昨年1年間議論して、大阪版ロードマップを発表したことにより、大阪では話が進み、具体的にやることも見えてきた様子をご覧になられて、議論の仲間に入りたいという方も増えました。非常にありがたいですね」

――ブルーテーブル、グリーンテーブル、オレンジテーブルの違いとは?

瀬川「大阪で具体的に空飛ぶクルマを活用したビジネスの実現を目指し、皆で議論する場がまさにブルーテーブルです。官民協議会のスタイルで運営しています。グリーンテーブルは、運航会社や機体メーカーが中心となる運航ビジネスを核に、多様な生活・ビジネスでの活用を目指す事業者に加わっていただき、ブルーテーブルのメンバーを含めた共創・協業によるイノベーションを生み出すプラットフォームとして、すでに20数社エントリーしています。

 オレンジテーブルは、府民や市民の方に、空飛ぶクルマのある社会像を共有し、自分事として関わっていただき、社会受容性の向上につなげていく場として活動するものです」

――中核部分のブルー、関連企業など少し裾野を広げたグリーン、最終的には一般の方にも興味を持って期待してもらえるよう、機運醸成的な面からも広げていくイメージですね

空飛ぶクルマの実現により新たに生まれるビジネス

 

――空飛ぶクルマの実現で、どんなビジネスが生まれそう?

瀬川「まず、機体メーカーによる機体開発と、運航事業社による機体を活用した人を運ぶ事業ですね。新しい事業領域として、空の移動を提供するビジネスがメインになります。また、離着陸する場所が数多く必要になるので、空港よりも、街の中心など利便性の高い場所に設置して、効率的に運用するビジネスも検討されています。

 さらに運航管理です。既存のエアラインであれば、空港周辺などは国交省航空局が管制する形になっていますが、街中をたくさんの空飛ぶクルマが飛んで降りるという状況を、誰がどのように管理するのか? 空の交通安全をどうやって守っていくのか? それらを調整、統合していく管制もビジネスとして必要になりそうです。

 そしてメンテナンスですね。航空業界でMRO(メンテナンス・リペア・オーバーホール)と言いますが、機体のメンテナンスを現地で効率的に行う必要があります。しかも高度な技能が必須なので、技術者の養成も含めてMROに関しては、かなり大きな市場が生まれると期待されています」

空飛ぶクルマの社会実装に向けた課題と解決法

 

――社会実装に際して、どんな課題がありますか?

瀬川「何よりも一番大事なのは、安全性の確保です。機体の安全基準をどう設計するか、当面必要となるパイロットの養成はどうするのか。これらは国が中心となってグローバルに検討されています。併せて地上の道路交通における車検制度、自賠責保険などの一連の仕組み・ルールを空の世界でどう形作っていくのか、という点も重要です。

 また、府民の皆さんの理解を高めていくことも重要であり、我々、地元自治体が役割を果たしていきます」

――そういった官民挙げての取組みは重要ですね

瀬川「目下の課題は、離着陸場です。離着陸場の整備には時間も必要となります。万博開催時も見据えて、どういうふうに作り、どんな制度で運用するかに関しては、国が設置したワーキングで議論が始まりました。さまざまな課題について、官民の関係者が一致団結して取り組んでおり、ひとつひとつ着実に解決されていくと思います」

空飛ぶクルマがある社会のイメージと大阪府のビジョン

 

――空飛ぶクルマが2025年以降、だんだん実現していったらどんな社会になるのか。大阪府が何を目指しているのか、そのビジョンを

瀬川「大阪ラウンドテーブルで共有している、目指す姿は“空飛ぶクルマ都市型ビジネス創造都市”です。大阪の特性を活かして、空飛ぶクルマという新しいモビリティを活用した、さまざまなサービス・ビジネスを創出する街として発展していくビジョンを掲げています」

――まだ見ぬ形の都市型ビジネスになっていきそう

瀬川「大阪府としても2030年、35年頃には生み出され得るビジネスモデルや、それらがもたらす経済効果や雇用創出効果に関する調査を実施することにしています」

万博のその先を描く「大阪版ロードマップ」

 

――2025年の万博も通過点として、その先のロードマップのイメージは

瀬川「ロードマップは、2030年代の事業拡大を視野に、まずは関係者共通のマイルストーンとして、2025年の万博で空飛ぶクルマの商用運航の実現を目指しています。その実現に向け、大阪における具体的な取組みについて、ロードマップとアクションプランを整理しています」

瀬川「2022年度は、地固め・下準備期間と位置付けて、必要な調査・検討を実施しています。2023、24年にはビジネス開発を進め実証実験も実施する。2025年には商用運航を開始して、2030年から35年に商用運航拡大を目指して着実に進んでいく。ロードマップ/アクションプランに沿って各プレイヤーが役割分担と連携し、皆で取組みを進めているところです」

今年度の大阪府はどのような取組みを進めるのか

 

――今年度の動きで注目してもらいたい点はありますか?

瀬川「3つあります。ひとつ目は、空飛ぶクルマの社会実装に向けた事業環境調査です。具体的な府内での事業モデルを描き、それに必要となる離着陸場の設置の課題を理解し、併せて経済波及効果や雇用創出効果を算出します。そのデータを示すことによって府内をはじめ、新しいプレイヤーの事業参画を促すなど、次の取組みにつなげていくものです。

 2つ目は、社会受容性を高めるための取組みです。事業者のみならず、府民の皆さんに空飛ぶクルマに触れてもらう機会を作ります。また、アンケートも実施し、府民の皆さんの認識度合いを確認したいと思っています。

 3つ目は、事業者による実証実験の後押しです。事業者の取組みのステップアップに応じて支援できるよう、今年度補助金制度の拡充を行いました。秋以降、事業者主体のさまざまな取組みが府内で行なわれるので、そこはご注目いただきたいですね」

――完成品はまだ出ないとして、空飛ぶクルマになりそうな実機が今年中には見られそう?

瀬川「実物大の模型(モック)展示や、かなり大型のドローンによる実証実験などがあるかもしれません。万博会場周辺で実施されると期待が高まりますね」

——機運醸成的にも目に見えるモノがあった方が断然イイ

瀬川「実は私も、空飛ぶクルマを見たことがないので、どんな音がするのか、どんなふうに飛ぶのか見てみたい。そして府民や関連事業者の方にも見てほしい。実際に目にすれば、これ以上なく分かりやすいですから」

藤原「空の移動が、飛行機より手軽で身近に感じられる時代が来ることに、すごくワクワクしますね。今年度から、この事業に携わるようになって、その動きが加速している感覚が、日々に強くなっています。事業者の方をはじめ、皆さんがひとつになって実現へ前向きなので、大阪府ができることを考えながら、頑張っていきたい気持ちでいっぱいです」

――57社も集まるブルーテーブルですが、多業種の方が集まるメリットを

藤原「こんなに多くの事業者の方が同じ目標に向かって、万博もあって大阪を舞台にチャレンジしている。こうした場面に自分も関わることができ、日々新しい発見もあり、パワーをもらっています」

瀬川「大阪ラウンドテーブルの活動が着実に前進して、その動きがさらなるプレイヤーを呼び込み、さらに議論の質が高まるという好循環になっているので、この機運と流れを維持して、ぜひ万博で空飛ぶクルマを実現したいですね。事業者さんたちが本気で飛ばそうと頑張っていますので、我々もしっかりバックアップしていきたいです」

――空飛ぶクルマが万博で飛ぶことをいっそう期待します。瀬川さん、藤原さん、ありがとうございました

地球規模の深刻な地球温暖化
カーボンニュートラルの意義と対策

 次に、カーボンニュートラルへの取組みについて、産業創造課新エネルギー産業グループの定氏と長浜氏に話を聞いた。

取り返しがつかなくなる前に何ができるか

 

――カーボンニュートラルとは、簡単に言えば温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させることですが

「気候変動の問題で、気温上昇の原因となる温室効果を有するガスの代表格が二酸化炭素です。現在、我々は石油や天然ガスといった、化石エネルギーに相当頼って暮らしていますが、これらは回り回って最後は燃えてCO2となり、大気中に出てしまう。特にCO2は、人間の活動が原因となって出てくるガスという点が問題です。

 そこで2050年までに、いえ最近では、もっと早くにCO2の排出量をこれ以上増やさないようにしないと、取り返しがつかなくなると言われています。少し前までは、地球温暖化を防止しよう、頑張ればまだ防げるという掛け声も聞かれましたが、そういう言い方はもう間違いだとされています」

――そうなんですか!?

「今までに排出された温室効果ガスが大気中に溜まっていて、地球が許容できる量はあとわずかとなり、今のペースでいくと一説では、2030年頃にはオーバーフローするのではないか、と言われています。

そこで今、国連で議論されているのは、もう温暖化は避けられない。産業革命以前の気温からプラス1.5度以内の上昇までなら、人間社会は何とかギリギリ耐えられるだろう、ということでパリ協定での努力目標になっています」

カーボンニュートラルを目指す意義

 

「IPCC(国連の気候変動に関する政府間パネル)第6次報告書では、既に熱波や豪雨などの気象の極端現象が顕在化している、とされています。世界には、日本よりも影響を受けやすい地域があります。

 まず、水と食料です。世界にはもともと降水量がすごく少なく、その中で作物を作り、家畜を飼って生活している地域があり、気候のちょっとした変動で水不足になると、生活の場が奪われてしまいます。次に海面上昇ですね。海抜の低い国や地域への影響は甚大です。例えば台風などで風が強くなると、それに伴って高潮も発生し、さらに海面が上昇すると台風も大型化し、より多くの被害を引き起こしてしまう。

 なんとか産業革命以前より、1.5度以内の気温上昇に収めなければ、人類への影響は深刻になる。そのためには、これ以上大気中のCO2を増やしてはならない、ということです。

 さりとて、人類が活動する上でCO2は排出されるので、その分吸収させる手段も使って、差し引きゼロにするのが、2050年の目標です。ただ、これは非常に高い目標です。すでに、いろいろな取組みや政策が動き出しており、大阪府としても、万博開催もひとつのきっかけとして、カーボンニュートラルに貢献する事業者のチャレンジをサポートしています」

――空飛ぶクルマは電動だからCO2は出さないけど

「見方によります。確かに駆動時に電気を使うという点では、CO2は出ないんです。しかし、その使われる電気は何から生み出されているのか、という点から見ると違います。

 電気はエネルギーを伝える媒体で、ひとつの形です。現在、電気の大部分は化石燃料、天然ガスなどから発電されていますので、電動がCO2と無関係ということにはならない。電動が注目されるのは、電気が太陽光発電や風力発電によって、再生可能エネルギーから取り出すことができるからで、つまり電気自動車などを増やしていくことは、将来的に再生可能エネルギーで動かせるものが増えていくということですから、ひとつの努力の方向ではありますね」

カーボンニュートラルに向けた大阪府の姿勢

 

――カーボンニュートラルの実現に向けて、大阪府ではどのような取組みを?

「カーボンニュートラルというのは、社会全体の取組みが必要です。府としても国の計画を基に温暖化対策の計画を練って実行しています。とりわけ大阪は都市部ですから、府民の日常生活と事業者の活動の中で、どのように減らしていくかが重要です。ひとつは日々の省エネ、事業者ならエネルギー効率の良い設備に変更することを支援しています。

 もうひとつは、電力調達を再生可能エネルギー由来に変えていくことです。最近は電力を売る会社も多く参入して、再生可能エネルギーの電力、あるいは再生可能エネルギーの比率が高い電力などのサービスも出てきて、一般家庭も事業者も電力会社を選んで契約できる。大阪府も共同購入のキャンペーンなど、切替えを後押しする事業に取組んでいます」

――万博開催の機会を活かした、カーボンニュートラルに関する最先端技術、開発、実証の支援もしているんですよね

「我々2名が担当しているのが、万博を契機としたカーボンニュートラル技術開発・実証事業の補助制度です。総額5億円と府としては、これまでにない大規模なもので、昨年度、燃料電池バス導入補助事業に寄付いただいた、三菱UFJフィナンシャル・グループ様からの寄付を原資にしています」

――すごいですね!

「万博をきっかけとしたカーボンニュートラルに向けた、イノベーションを進める取組みについて検討しようと思っていた矢先で、大変ありがたかった。この補助制度には多数の応募があり、支援対象のプロジェクトは、ただ今絶賛審査中です(取材時点)」

――面白い案件も来ているんじゃないですか?

長浜「カーボンニュートラルは、本当に幅広いんですよ。カーボンニュートラルの実現には世界的にも、現段階ではどれが優位というものはなく、幅広い選択肢の中で切磋琢磨していこうというフェーズです。その多彩な選択肢を万博時に見せることができれば、と思っています。

 今後で言えば、世界で都市化が進んでいく見込みの中、大阪は都市型のカーボンニュートラル技術を用いた持続可能な都市として、さまざまな技術を世界の皆様に発信したいです」

カーボンニュートラル以外を含む幅広い取組み

 

――燃料電池や蓄電技術、水素自動車など、他ともリンクしている取組みはありますか?

「万博まで、あと2年半余りとなりました。府としてもカーボンニュートラルにつながるシーズ(種)があることは、ある程度把握していましたが、今回の事業を通じて本当に幅広い業種の方々が、いろいろな取組みにチャレンジされていると、改めて思っています。

――芽吹きそうなタネが見受けられると

「この事業を通じて、皆さんとのコミュニケーションが生まれ、チャレンジを知るきっかけにもなりました。カーボンニュートラルの実施に向けては、再生可能エネルギーをどう使うかと、化石燃料をどう再生可能エネルギーに変えていくかは、ベースになる大きなコンセプトです。さらには再生可能エネルギーを使うとして、どういう媒体で利用するのか、というのも重要です。

 クルマの電動化は、再生可能エネルギー活用拡大のひとつのポイントです。もうひとつ、可能性があるものとして期待されているのが水素です。実は今回の事業提案の中にも、水素をどううまく利用するか、いろんなアイディアを考えてらっしゃる方々がいましたね」

――実に面白そうです。次に万博協会の「EXPO2025グリーンビジョン」について教えてください。万博の脱炭素資源循環に関する方向性と対策をまとめたものということですね

「私の理解では万博は、実は最初の誘致段階では、ライフサイエンスを強く謳っていました。それが途中から、SDGsの達成に貢献できる万博でなければ、というメッセージも強くなってきた。その中で、環境に対してもできるだけのことをしないといけない、現時点での我が国の最高のパフォーマンスを見せて発信しないといけない、という空気が生まれてきました。

 EXPO2025グリーンビジョンは、その一番大事なものをまとめている、と言えるのではないかと思います」

改定版<EXPO 2025 グリーンビジョン>より

「大きな技術のことだけではなく、日々の生活と関わりが深い、ファッションロスゼロや食品廃棄ゼロについても盛り込まれています。これらが実現したらその後、その地域で日々の生活で受け継いでいけるレガシーが残ることになります」

――ゴミや廃棄の問題は世界中が悩んでいるテーマですからね。実際に、大阪でカーボンニュートラルは進んでいると思いますか?

長浜「我々は、10年以上前から環境に携わっていますが、当時よりはカーボンニュートラルや気候変動という言葉が認知されてきたと思います。ひと昔前だったら地球温暖化といえば、モルディブやツバルが水没するかもというように、どこか他人事だったと思いますが、最近はメディアの扱いも変わってきましたね。

 日本はいわゆる‟バーチャルウォーター“輸入大国で、多くの食料を海外からの輸入に依存しており、これはそれらの食料を生産するために、必要な水も相当量輸入しているのと等しい。つまり、世界の水事情がダイレクトに日本の食料事情に跳ね返ってくるのです。今回のウクライナ情勢でもそうですが、全部自立できている国ではないので、世界で起きていることはつながっており、自分事ですよという現実が、だんだん認知されてきたのかなと思います」

「私も入庁してから、ずっと環境分野を担当してきました。私が入庁した頃は、環境は経済と対立するものでした。まだ当時は『公害』という言葉が一般的で、担当で苦情を受けても、環境を考慮したら儲からないという時代。でも現在は、そこからずいぶん進んで環境で儲けよう、ビジネスを考えようと企業が行動するようになってきた。

 昨今では万博も控えており、日々メディアで『脱炭素』という言葉が出ない日はほとんどないですし、その点はすごく変わったと思います。とはいえ楽観視できるかというと、まだまだ難しいというデータも現実としてあるので、これはまだまだやり続けないといけない。

 私はもうすぐ50歳になります。“環境意識を高めましょう”と啓発のイベントで学生さんに言ったりしますが、若い世代にしてみたら『お前らの世代がムチャクチャやったんだろ』と感じていると思います。私が学生だったら、そう言うでしょうね。そうした世代の一員として、今の取組みに何か贖罪意識というものを感じないわけではないですね」

——最近では、ESGやグリーンボンドに投資するのが世界的な潮流に

「そうですね。世の中の動きが速いのですが、進んでいるところもあれば、まだまだなところもあります。しかし、この流れは今後ますます大きくなると思います。カーボンニュートラルは本当に幅広い分野に関係することですので、いろいろなところに目配りしながら、少しでも役に立てるように、精一杯頑張りたいと思っています」

――それでは、万博でのカーボンニュートラル対策の実践にも期待しています。長浜さん、定さんもありがとうございました

 「空飛ぶクルマ」の飛行や「カーボンニュートラル」対策に大きな期待が寄せられている大阪・関西万博。その実践には課題はたくさんあるけれども、熱意を胸に取組む大阪府の皆さんは、きっと世界中の期待に応えてくれるはず。昭和の時代にはSFの世界だったことが現実となり、逆にその頃は想像もしなかった、地球温暖化という世界的な問題への対策を、大阪府は万博でどう世界にアピールしてくれるのだろうか。楽しみだ。

瀬川亮(せがわ・りょう)●1981年生まれ、大阪府堺市出身。平成26年度入庁、住宅まちづくり部、大阪ガス出向。最近はオンラインゲーム「フォートナイト」にハマって、息子と一緒に楽しんでいる。座右の銘は「無理なモンは無理」。日頃実践しているカーボンニュートラル/省エネ対策は「できるだけクルマに乗らずに歩く」。

藤原由衣加(ふじわら・ゆいか)●1989年生まれ、大阪府富田林市出身。平成29年度入庁、健康医療部、総務省自治大学校派遣。最近は、リビングに観葉植物を増やそうと検討中。座右の銘は「バカになれ」。日頃実践しているカーボンニュートラル/省エネ対策は「エアコン温度設定28度」。

長浜智子(ながはま・さとこ)●1977年生まれ、大阪府高槻市出身。平成17年度入庁、<水道部(現大阪広域水道企業団)、環境農林水産部、環境省>。 趣味は「トレッキングや旅行ですが、ここ数年はコロナ禍で、どちらもお休み中です(泣)」だそう。日頃実践しているカーボンニュートラル/省エネ対策は「マイボトル」。

定道生(さだ・みちお)●1972年生まれ、兵庫県神戸市出身。平成9年度入庁、環境農林水産部、政策企画部、環境省など。 近況は「学生時代に始めたボート競技の運営を手伝っていて、いろんな分野の人との交流を楽しんでいます」とのこと。日頃実践しているカーボンニュートラル/省エネ対策は「Save Food」。

聞き手=玉置泰紀(たまき・やすのり)●1961年生まれ、大阪府出身。元ウォーカー総編集長、現エリアLOVEWalker総編集長、KADOKAWAエグゼクティブプロデューサー。ほかにも日本型IRビジネスリポート編集委員など。座右の銘は「さよならだけが人生だ」。近況は「今年のお盆は久しぶりに大阪の実家に帰り、母親の介護をしつつ、お迎え、お送りで読経などもした。2025年には大阪・関西万博が開催され、空飛ぶクルマはもちろん『いのち輝く未来社会』をデザインしていく中で、母親のような高齢者の少しでもイキイキとした老後の設計や、お盆のような受け継がれてきた歴史的な習慣と、先端技術のマッチングがテーマになるのだなあ、と改めて感じた」。

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