2025大阪・関西万博を契機に、大阪・咲洲を最先端の実証フィールド、人材育成の場へ

文●松下典子 編集●ASCII STARTUP 撮影●高橋智

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 2025年4月13日から10月13日まで184日間にわたり開催される「2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)」。開催まで1000日を切り、プログラムや民間パビリオンの展示内容が発表されるなど盛り上がりをみせている。大阪・関西万博(以下、万博)は世界中から新しい技術やアイデアが集まり、お披露目される場だ。大阪では、万博を契機に新たなイノベーションを起こすべく、スタートアップや学生向けのプログラムにも力を入れている。万博に向けた仕掛けづくりに取り組む公益財団法人 大阪産業局の手嶋耕平氏にお話を伺った。

公益財団法人 大阪産業局 ソフト産業プラザTEQS /IoT・RTビジネス推進部 部長・チーフプロデューサー 手嶋耕平氏

咲洲エリアの街全体を実証実験フィールドに

 万博会場である夢洲(ゆめしま)に隣接する人工島の咲洲(さきしま)エリアは、テクノロジーの集積地として発展しており、万博を契機に市場の発展が期待される。大阪市は、咲洲の「アジア太平洋トレードセンター(ATC)」内にあるテクノロジー支援拠点「ソフト産業プラザTEQS」を設置し、インキュベーション施設をベースに、アクセラレーションプログラムや実証実験のサポートを提供している。

 なかでもユニークなのが2017年から実施しているATCの施設全体を使った実証実験「商業施設丸ごと実証実験プロジェクト」だ。

 ATCには物流センター、ショップ、レストラン、バックヤード、オフィス、ホールなど、あらゆるサービスの現場がそろっている。中小企業やスタートアップ企業は実証実験の場所を自力で探すのが難しい。そこでATCの現場を実証フィールドとして開放し、事業化を加速させよう、という試みだ。ATCに入居するテック系企業のほか、全国、海外からも企業が集まり、日々実証実験が行われている。

 また、2020年10月にはソフトバンク、大阪市、大阪産業局、i-RooBO Network Froumの官民連携で5Gのオープンラボ「5G X LAB OSAKA(ファイブジー クロス ラボ オオサカ)」を開設。万博会場では5Gが基本の通信インフラになる。5G X LAB OSAKA では、33製品の5G活用事例を展示し、5G環境で活躍できる製品とサービスの開発を支援している。開設以来、全国から多くの見学者が訪れているそうだ。

オープンラボ「5G X LAB OSAKA」では5Gを活用した33製品をデモ展示している

ATCのITM棟3階にあるオープンテクノロジーセンター「Robo&Peace(ロボ アンド ピース」では、小中高生を主な対象に、ロボットなど先端テクノロジーを体験できる製品やサービスを展示。週末にはプログラミングや3Dプリンターを活用したワークショップ等も開催されている

 夢洲での万博開催を機に咲州エリアも再開発が進む。2022年秋には総合スポーツメーカーのミズノ株式会社が大阪本社の隣接地に新研究開発拠点を設立する予定。また、総合レンタル業の西尾レントオール株式会社がR&Dセンターを開設予定だ。その隣には森ノ宮医療大学のキャンパスがあり、ミズノとヘルスケア分野で提携し、実証実験に取り組む動きも始まろうとしている。

 この立地のポテンシャルを活かし、咲洲エリア内全体をフィールドとして使える「街ごと実証実験プロジェクト」を2023年から開始する予定だ。

2023年に「咲洲プレ万博」を開催

 2023年度は、万博の機運醸成、出展支援、社会実装支援に向けた複合型支援プログラム「咲洲プレ万博」の開催が計画されている。

 咲洲プレ万博は、実証実験支援、機運醸成、事業支援の3つを柱とし、2023年4月から1年間を予定。ATCを中心とした咲州エリア全体に大阪・関西万博を見据えた実証実験フィールドを構築し、さまざまな製品とサービスの実証実験イベントを展開していく。

 ATCでは物流、リテール、スマートシティといったサービスをテーマとした実証フィールドを用意。ミズノはスポーツテック、森ノ宮医療大学はヘルステック、西尾レントオールからは建設やイベント関連をテーマにした実証環境が提供される。

 公募は2023年3月頃の予定で、参加企業は、万博での展示や開催中にサービスの提供を目指している企業を想定しているとのこと。「街全体を使い、実際にクルマや人が往来し、観光客も学生も普通に生活しているリアルな環境で実証実験ができるチャンスはなかなかありません。ぜひこの機会をフル活用してほしい」と手嶋氏。

 事業支援としては、実証実験プロジェクトなどから生まれたスタートアップの事業に対して大阪産業局の支援メニューを活用した支援をしていく計画が進められている。

大阪スーパーシティ構想へ向けて、咲洲でまちづくりを検証

 もちろん、これらの取り組みは万博後の2026年以降も継続される。夢洲の万博会場は大阪スーパーシティのエリアに指定されており、咲洲の実証実験フィールドの整備は、万博後のまちづくりを見据えたものだ。

「万博はあくまでマイルストーン。その先も継続して咲洲を実証実験フィールドとして活用してもらえるように支援していく考えです」(手嶋氏)

 万博は世界中から厳選された最新の技術や製品が集まる場であり、スタートアップにとって出展は狭き門だ。「咲洲プレ万博」は、大阪パビリオンへの出展を目指すスタートアップ支援事業としてエントリーしており、採択されれば、プレ万博の実証実験の参加が万博出展へとつながる可能性もある。

中高生等向け「デジタル学園祭&未来創造コンテスト」

 万博を契機とするもうひとつの取り組みがデジタル人材支援だ。エンジニア人材を育成し、国際競争力を高めるため、2022年7月に一般社団法人デジタル人材共創連盟(通称:デジ連)を設立。中高生等のデジタル活動の成果発表の場のひとつとして「デジタル学園祭&未来創造コンテスト(仮称)」の開催が企画されており、2025年大阪・関西万博アクションプラン ver.2(2022年6月10日付の国際博覧会推進本部にて決定)にも盛り込まれている。

2022年10月18日には一般社団法人デジタル人材共創連盟(以下、デジ連)の設立記念イベントが開催された

 デジタル人材の育成は起業促進の要だ。プログラミング教育を必修化しただけでは、子どもたちのモチベーションは上がらない。野球部が甲子園を目指すように、中高生等がデジタル部活動の全国大会として「デジタル学園祭」を開催することで、未来を担う子どもたちのデジタル活動を盛り上げて裾野を広げていくのが狙いだ。デジタル学園祭は2022年からパイロット版を開催し、2025年は大阪・関西万博会場でも開催できるように調整している。

 デジ連では、全国の中高生等のデジタル部活動を活性化するため、コンテンツの提供や講師の派遣、大会ガイドランの作成、活動拠点としてのバーチャルプラットフォームの提供といった支援を予定しており、取り組みに参画する会員企業を募集している。

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