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ロードマップでわかる!当世プロセッサー事情 第680回

欧州の自動車業界で採用されているフランスKalray社のMPPA AIプロセッサーの昨今

2022年08月15日 12時00分更新

文● 大原雄介(http://www.yusuke-ohara.com/) 編集●北村/ASCII

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第3世代のCoolidgeを投入
演算性能がAndey/Bostanの倍に向上

 Bostan 2に続き2018年に投入されたのが第3世代のCoolidgeである。プロセスをTSMCの16nmに移行したほか、コアそのものも6-wideのVILW(パイプラインも9ステージに強化)に変更され、L1 I/Dキャッシュも16MBに倍増している。

第3世代のCoolidge。クラスターがSiP(Silicon in Package)なのも特徴的。つまり80コアのSiPを2つ搭載したものが160コアの製品になるわけだ

 クラスターあたりの共有メモリーも4MBに増強されている。ただシステム全体で言えばAndey/Bostanが256コア(つまりCPUクラスターが16個)だったのが、Coolidgeではクラスターが5ないし10個、コア数で言えば80ないし160コアに減っている。

 それで性能が落ちたかといえばそんなことはない。まずVLIWコアそのものであるが、ざっくり演算性能がAndey/Bostanの倍になっている。

Coolidgeの性能。演算器のサイズが64bitに拡張されている。もちろんこうなるとAndey/Bostanとのバイナリー互換性はないのだが、VILWの構成を変えた時点でもうバイナリー互換性はなくなっているし、そもそも互換性が要求されるタイプのプロセッサーでもない

 さらにアクセラレーターだが、これが2-wideのテンソル・コプロセッサーに切り替わった。これは畳み込み演算などに向いた専用アクセラレーターを追加したというものである。

テンソル・コプロセッサーの構成。ちなみにこれはCoolidge v1の構成であるが、続くv2もすでに設計に入っており、こちらはさらに性能が上がる

 ちなみにデータ型はINT 8/16とFP16のサポートになっており、80コアのCoolidge(1.2GHz駆動)の場合、以下の処理性能になっている。ちなみに消費電力は25Wとされており、INT8ではほぼ1TOPS/Wといったところ。TSMCの16nmでこの数字は優秀だろう。

80コアCoolidge(1.2GHz駆動)の処理性能
INT8 24.6TOPS
INT16 14.3TOPS
FP16 4.2TFlops(VLIW 1.15TFlops+コプロセッサー 3.05TFlops)
FP32 1.15TFlops(VILW 1.15TFlops)

 実はこのCoolidge v1に続き、同じTSMC 16nmを利用しつつテンソル・コプロセッサーの性能を倍増したCoolidge v2がこの後投入予定になっているのだが、もろもろの事情でやや後送りになっているようだ。

量産パッケージのCoolidge v1-80。-160はやや遅れ気味

本当ならもうCoolidge v2が出ているはずなのだが……

 ただ同社の製品は特に自動車業界で高く評価されているようで、2018年の株式上場の前には、ルノー/日産/三菱から構成されるAlliance Venturesからの出資を受けているし、2020年にはNXPからの出資も受けている。そしてそのNXPが自動運転向けの開発プラットフォームとして提供しているBlueBox 3.0には、Coolidge-v1が搭載されることになっている。

 同社はまた、ストレージ・コントローラー向けにもCoolidgeを利用しようとしており、2021年にはFlashboxと呼ばれるフラッシュメモリーベースのストレージを発表。今年4月にはSDS(Software-defined Storage)を手掛けているarcapixを買収してこのFlashBoxの強化を目論んでいる。

 必ずしもAI一辺倒ではなく、しかもすでに株式上場を済ませているあたりが、他のAIベンチャーとの違いでもある。日本に再上陸してくる日が来るのかはわからないが(現在は半導体商社のマクニカがKalray Japanの代行を行なっている)、ヨーロッパの自動車業界向けに意外としぶとく生き残っていけるかもしれない。

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