次のIoTの姿が見える!SORACOM Discovery 2022レポート

Luupや三菱重工が感じたプラットフォームのメリット

プラットフォームの必要性と価値とは? ソラコム安川CTO、深く掘り下げる

大谷イビサ 編集●ASCII

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プラットフォーム活用で価値を迅速に作り出す

 こうしたプロダクトやサービスの進化を促すイノベーションについて説明したのが、Maxことソラコム テクノロジーエバンジェリストの松下享平氏だ。

 ソラコムはサービスローンチ以来、2週間に1回のペースで新機能や機能改善のリリースを継続している。たとえば、NTTドコモ網を利用可能な日本向けのIoT SIMをとってみれば、初期費用の値下げ、ユースケースにあわせた値下げを繰り返している。また、「通信や技術のみではなく、お客様に使ってもらうための環境の提供もプラットフォームの役割だと思っています」と松下氏。具体的にはボリュームディスカウントやステータスダッシュボード、診断機能、操作用の子アカウント、監査ログ、サポートプランのみに限らず、使用作成用のアイコンセット、情報セキュリティチェックシート、経理・購買管理向けの手引き書まで幅広く提供している。

プラットフォームの役割を語るソラコム テクノロジーエバンジェリストの松下享平氏

 スモールスタートしやすいのもSORACOMの大きな特徴。SORACOM HarvestやSORACOM LagoonのようにSORACOMだけで完結できるソリューションもあるし、利用しているクラウドやSaaSでIoTデータを活かすためのSORACOM Beam、Funnel、Funkも用意されている。実際、チュウケイは医療品保冷庫の温度情報や停電の遠隔管理システム、LINE連携させたアラートをHarvestとLagoonを用いることで数週間で構築した。「プラットフォームが用意した部品を組み合わせることで、短期間で価値を作り出すことに成功した」と松下氏は指摘する。

 メルカリで売れた商品を発送できる無人投函ボックスであるメルカリポストもSORACOM AirとSORACOM Funkを用いている。Google Cloud上にある関数をSORACOM Funkが直接実行し、筐体で読み取った取引情報や発行する印字情報をセキュアに送受信しているという。「プラットフォームが進化することで、プロダクトやサービスも進化する」という好例として、松下氏は三菱重工業の水野直希氏を招き入れる。

三菱重工が語るプロダクトといっしょに進化するプラットフォームの価値

 三菱重工業 原子力セグメントの水野氏は、「EX ROVR(エクスローバー)」という自動点検ロボットのソフトウェアを開発している。EX ROVRが対象としているのは、地下から原油を採掘するいわゆるオイルリグや海底から石油を掘削する洋上プラットフォーム、石油の精製や加工を行なう製油所や化学プラント、製鉄所などの機器の点検だ。

EX ROVRと三菱重工業 原子力セグメント ソフトウェアエンジニア EX ROVR担当の水野直希氏

 EX ROVRはカメラ付きのアームを伸ばしてゲージや配管の検査を行なうほか、クローラーというキャタピラで階段を移動することも可能。異常があった場合は、いち早く担当者に通知し、取得したデータもいち早くクラウドにアップロードするという。AWS上にあるデータは関係者で共有できるほか、EX ROVRに対する遠隔操作も可能となっている。

 EX ROVRは2012年のトンネル崩落事故を契機に機器自体が発火源にならない防爆仕様の災害対策ロボットとして開発された。その後、前述した平常時の点検に用途をシフトし、自律動作や多階層対応、暗所点検などの進化をとげる。オイルリグや洋上プラットフォーム、製油所や化学プラント、製鉄所などの点検は引火性ガスが滞留する可能性があり、人間にとっては危険も伴なう。点検箇所や範囲も広く、作業員の負担にもなっていたことから点検業務を自動化できるEX ROVRは引き合いも多く、最新機種のASCENTは国内外から好評を博しているという。

危険な場所での点検業務を自動化できるEX ROVR

 こうしたEX ROVRの進化には、プラットフォームの活用があったと水野氏は指摘する。クラウドサービスのAWS、ロボット用のミドルウェアのROS、そしてSORACOMなどを活用することで、製品進化のスピードを上げ、ユーザーのニーズに迅速に応えることができた。「当初は自前で全部開発しようと考えていましたが、プラットフォームを活用することで、進化のスピードを何倍も上げることができました」と水野氏。裏を返せば、製品の進化はプラットフォームの進化に支えられることになる。そのため「ユーザーが求める方向に進化するプラットフォームを選ぶことが大切」と水野氏は指摘する。

 SORACOMプラットフォームの進化は、EX ROVR自体にも大きな進化を与えている。たとえば、試験のためにロボット1台につき、1つのSIMが必要という課題は、SIMなしでも、SORACOMとつなぐことができるSORACOM Arcの登場で解決。また、クラウドからロボットにアクセスするためにVPNが必要という課題に関しては、前述したSORACOM Napterを用いることでセキュアなアクセスが可能になった。さらにサブスクリプションコンテナという仕組みを使うことで、海外での利用料金も下げることができた。「以前は値段を下げてくれとリクエストするうるさい客でしたが、planX3を追加すると、ナイジェリアではコストが1/18になり、しかもLTEが使えるようになり、なにも文句が言えなくなりました(笑)」と水野氏は振り返る。

サブスクリプションコンテナを入れ替えて利用料金も下がった

 水野氏は「流行のプラットフォームではなく、製品といっしょに進化してくれるプラットフォームを選ぶ。イノベーティブな製品にはイノベーティブなプラットフォームを」とまとめた。

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