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次のIoTの姿が見える!SORACOM Discovery 2022レポート

スマートシティ実現に必要なものは産官学民の“ワクワクする連携”だ

渋谷区と配送サービスのLOMBYが語るスマートシティ実現への現実解

指田昌夫 編集●MOVIEW 清水

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 7月6日と7日の2日間、ソラコムの年次イベント「SORACOM DISCOVERY 2022」がオンラインで開催された。両日とも3トラック、2日合わせて40セッションという圧倒的な情報量の講演内容から、ここでは2日目午後の基調講演でスマートシティをテーマに行なわれた講演の内容をお届けする。

 本セッションは、渋谷区でスマートシティ推進室に勤める加藤茜氏と、遠隔操作ロボットによる配送サービスを開発しているスタートアップ企業LOMBY(ロンビー)代表取締役の内山智晴氏が登壇し、社会課題解決のために行政と民間、スタートアップができることは何かを議論した。また司会進行は、角川アスキー総合研究所 ASCII STARTUP編集長の北島幹雄氏が務めた。

角川アスキー総合研究所 ASCII STARTUP編集長 北島幹雄氏、渋谷区 スマートシティ推進室 加藤茜氏、LOMBY代表取締役 内山智晴氏

物流のラストワンマイルをロボット配送で解決する

 最初に、内山氏、加藤氏がそれぞれの現在の取り組みについて説明した。

 内山氏が社長を務めるLOMBYは、配送ラストマイルの人手不足問題に取り組むスタートアップ企業だ。コロナ禍でネットショップの利用が増えた一方で運送業界の人手不足は深刻さを増している。配送業界の人手不足問題の特徴は、重い大きな荷物を運ぶため、男性中心の労働環境であること、勤務場所や必要な設備、免許による制限があることだと内山氏は指摘する。

 これらの課題を、ロボットを使うことで解決できるというのが同社の考えだ。「限定されたエリアから、限られた人を選ぶ必要がある業界に、ロボットを導入することで変革を起こすことができる。ロボットが配送業務を担うことで、これまで採用が難しかった女性や高齢者、障がい者の労働力を配送業界に流入させることを目指している」(内山氏)

 配送ロボットは、完全自動運転と遠隔操作型の2種類が開発されているが、同社が開発しているのは後者の遠隔操作型だ。地方にいても、都市部のロボットを操作することができる。東京の高円寺で実証実験を行なったが、ロボットを操るパイロットは大阪から操作に成功した。

 全自動の配送と比べて、オペレーターによる遠隔操作の大きなメリットは、配送地域に関するデジタルマップを作る必要がないことだ。また、機体の価格を圧倒的に安く、コンパクトにすることができるため、トータルで配送事業者が導入しやすいコストに抑えることができる。

 内山氏は元々、置き配サブスクサービスの「OKIPPA」を提供する会社を運営しており、置き配についてのノウハウを持っていた。LOMBYでも対面、宅配ボックス、置き配を選択でき配送現場の省人化を進めることができる。

遠隔操作によって雇用機会を創出し、人材不足を緩和する

 LOMBYのサービスは、実用化が間近と言っていい。2023年4月から道路交通法が改正され、「遠隔操作型小型車」の免許が新設される。ナンバーを取得すれば、同社の遠隔操作ロボットが公道(歩道)を走行することができるようになるのだ。事実上のサービス解禁に向けて、開発を進めている状況だ。

 遠隔操作においては、当然のこととして通信環境は非常に重要であり、サービスの生命線である。広域通信網が圏外になったところでは操作できなくなる。それをどう解消していくかが、公道を走らせる際の大きな課題である。また段差や傾斜などを遠隔で走りやすい環境をどう作るのかもポイントだ。ロボットの直進性、安定性を高める工夫も必要になる。そのあたりを実証実験でノウハウを積み重ねている。

 社会的には、意外とロボット配送を受け入れる地ならしは進んでいるというのが、内山氏の感触だ。ただ一方で、ナンバーを取って事業者としてオペレーターをやっていく場合、安全性や通信の安定性などの技術的課題の解決に向けて開発が続いている。

地域のデータを可視化するだけでも効果がある

 続いて、渋谷区のスマートシティ化への取り組みを加藤氏が説明した。加藤氏はIT企業でクラウドデータベースの開発やアプリ開発、マーケティングに関わった後、2020年から渋谷区の職員としてスマートシティ推進室に勤務している。

 渋谷区の人口は約23万人で、昼間人口はその約2倍という来訪者の多い区である。また、スタートアップ企業が集積していることで知られており、現在は駅前をはじめさまざまな場所で再開発が進められている。

 加藤氏を含むスマートシティ推進室は4名体制だが、庁内外からさまざまな分野の提案が入ってくる。その内容は土木から子育てまでと、まさに幅広い。そのときに必ず聞かれることが、「渋谷区の課題は何ですか」ということだという。入庁間もない加藤氏もそこがわからなかったため、区にはテクノロジーで解決していけるどんなテーマがあるかを調べて、はっきり見せていく必要があると考えた。

 そこで手始めに、すでに区が持っているデータを分析したマップを作った。このマップを見て、庁内、区民のそれぞれが課題に気づいてもらうことを狙っている。

民間の妓実やデータを用いて、街をデータで把握する

 膨大なデータの中には、小さな課題もあるが、手を抜かず分析に力を入れている。「たとえばコミュニティバス(ハチ公バス)の利用状況を月ごとにグラフ化してみると、毎年夏にピークがあることがわかり、改善のポイントが見えてくる。このデータの粒度をさらに上げていけば、新しいモビリティの開発時にどこを走らせればいいのかヒントになる」(加藤氏)

 一方、街中で発生している大量のデータについては、区ではまだ十分に取得できていない。SNSの書き込みから街の分析をしている事業者の協力を得て、飲食に関してポジティブな書き込みを地図上に可視化する取り組みを始めている。さらに新しい取り組みとして、民間企業とも連携して、バス停にAIカメラを設置して、利用者の乗車区間を解析できるようにしたり、公園にもAIカメラを設置して、利用状況を観測している。

「こういった取り組みを単発で終わらせないため、街を対象に、デベロッパーやテクノロジー企業など、いろいろなステークホルダーが集う産官学民の連携組織を2022年の秋に立ち上げる計画だ」(加藤氏)

 渋谷区として目指すスマートシティの姿について、加藤氏は、「区のビジョンとして、『ちがいをちからに変える街』を掲げている。すでに街は存在しているので、そこに新しい企業や技術が入ることで、見えるところも見えないところもアップデートしていく形を目指している」と答える。

 新たな基盤を作ってそこにデータを集めていくというよりは、既存のデータもまだ活用度が低いので、まずは区が持っているデータを広く公開し、区でも活用を進めていくことを始めていく。位置情報など、一事業者が保有しているだけではあまり価値を生まないものについては、エリアとして連携できる形で近いうちに共有化を進めていきたいという。

「行政として日々運用の業務をしていると、課題を意識することが少ない。そこでデータを広く共有することで、課題を発見しながら取り組んでいきたいと考えている。同時に、スタートアップからの視点もあると考えている」(加藤氏)

 加藤氏のチームがデータを可視化してから、主に若手の職員から、データ活用のさまざまなアイデアと要望が届けられているという。

「渋谷区は、スタートアップが集積する場所として、新しい挑戦をしたい人が集まっており、可能性を感じている」と加藤氏は言う。大企業が中心となって進めるスマートシティとは、ひと味違った独自性に期待を込める。

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