次期モデル「Vusix M400C」や「Vuzix Shield」を展示、ユーザー/パートナーによる講演も
スマートグラスのVuzixが創立25周年カンファレンスを開催
2022年05月25日 07時00分更新
エンタープライズ、コンシューマー、エンターテインメント向けのスマートグラス専業メーカーである米Vuzix Corporation(ビュージックス・コーポレーション)が2022年5月24日、創立25周年を記念するカンファレンスを東京で開催した。
午前中は同社のCEOや東京支店長が登壇し、同社のこれまでの発展とこれからの“メタバース”時代における役割、また15年に及ぶ東京支店の取り組みなどを振り返った。また午後には導入ユーザーやパートナーが登壇して多彩なセッションを繰り広げた。展示会場では開発中(国内未提供)の次期モデル「Vuzix Shield」や「Vuzix M400C」、さらにスマートグラスを組み込んだパートナー各社の業務ソリューションも紹介された。
創立期の巨大なHMDから「まるでメガネ」の最新モデルまでを展示
Vuzixは1997年創立の老舗ビデオアイウェアメーカー/スマートグラスメーカーである。米NASDAQの上場企業であり、米国、英国、日本に拠点を置く。2021年度の売上高はおよそ1316万米ドル。
2013年には、Android OS搭載による独立動作が可能な同社初の単眼式スマートグラス「Vuzix M100」をリリースした。これ以降、Vuzixでは建設、製造、物流、医療など、あらゆる現場業務で活用できる業務ソリューション向けの「Mシリーズ」スマートグラスを展開している。
Mシリーズのフラッグシップモデルである「Vuzix M400」は、小型/軽量の本体(本体のみで68g)に8コアのクアルコム「Snapdragon XR1」とAndroid 9.0、1280万画素カメラ、マイク/スピーカー、タッチパッドなどを搭載。単眼式の有機ELディスプレイは4K動画の表示にも対応する。IP67相当の防水防塵性能を備えるため、屋外を含む現場で活用が可能だ。
Vuzix説明員の話によると、国内市場では特に建築現場での採用が多いという。M400を現場作業員のヘルメットに取り付け、「Zoom」「Microsoft Teams」などの内蔵アプリ経由でカメラ映像をリモートの現場監督にリアルタイム送信する。これにより、現場監督が各地に足を運ぶことなく、作業の進捗確認や指示を行うことができる。コロナ禍で行き来の難しくなった、海外の工場やプラントへの作業指示にも活用されているという。
今回のカンファレンスでは、M400と同デザインでディスプレイやカメラ、スピーカー/マイクのみを搭載したモデル「Vuzix M400C」も参考展示されていた(国内提供時期や価格は未定)。M400の内蔵CPU/メモリやOSでは動作させることが難しい大型のアプリなどをスマートフォンで稼働させ、そのインタフェースとして利用することが想定されているという。
さらに、Vuzix Shieldスマートグラスも参考展示されていた(国内提供時期や価格は未定)。ふつうのメガネと見まがうようなデザインだが、複眼式透過ディスプレイ(モノクロ)やステレオカメラ、タッチパッド、ステレオスピーカー/マイクなどを内蔵しており、ARコンテンツを表示できる。8コアのCPUとAndroid 10 OSを搭載する。
20年前に予言した「スマートグラスの大波」がやってきた
午後のセッションでは、Vuzix製品を利用するユーザーや、Vuzixのスマートグラスを用いたソリューションを提供するパートナーからの多彩なトークが披露された。
21年前、まだ「スマートグラス」という言葉が存在しない時代からヘッドマウントディスプレイ(HMD)を日常生活で着け続けてきたと語る神戸大学大学院 教授の塚本昌彦氏は、業務用/民生用のHMD/スマートグラス市場と製品の変遷を振り返りながら、今後の展望や課題を語った。
塚本氏は、いまスマートグラス市場に「スマホ以上の大波がやって来ている」と語る。市場は業務用領域から立ち上がってきており、特に作業現場の音声通話(インカム)が音声通話+映像共有(スマートグラス)に置き換わる動きは「まだまだ拡大する」と予想する。民生用でも、低価格でバッテリーのもちの良いライトな製品が登場することで、市場が拡大するだろうとした。「現在のスマートウォッチに代わる機能を持つスマートグラス、これが普及に火をつける可能性がある製品の1つだと考えている」(塚本氏)。
また今後はメタバース、NFT、AIといった技術と結びつくことで、スマートグラスのもたらす価値がさらに高まるはずだと期待を語る。
「わたしは『街なかで働く人々は100%、HMDを装着するようになる』『街を歩く人の50%がHMDを装着するようになる』と20年前から言い続けてきた。――ちょっと外し続けてきた感じもするが(笑)、最近ようやくその芽が出てきたと感じる。5年後の2027年には、スマートグラスは広く行き渡り、人々の暮らしや仕事になくてはならないものになるだろう」(塚本氏)
救急医療の現場を「持続可能」にする取り組み
聖マリアンナ医科大学 救急医学講師で、デジタルヘルス共創センターの副センター長を務める松本純一氏は、同大学病院で取り組まれている、ローカル5Gとスマートグラスなどを利用した資格情報共有、AI解析などの取り組み(総務省「課題解決型ローカル5G」実証事業に採択)を紹介した。
神奈川県川崎市にある聖マリアンナ医科大学病院の救命救急センターでは、年間の救急車受け入れ台数がおよそ5600台、うち外傷患者だけで年間4800人、さらに昨年は1500人以上の新型コロナ感染症患者も受け入れるなど、人口が急増する同地域の医療に大きく貢献してきた。ただし、それだけ現場の医師や医療従事者への負担は大きい。したがって「持続可能」で、なおかつ診療のクオリティを落とすことのない、質の高い救急医療の実現が求められている。
その実現のために、同大学病院では3つの開発実証に取り組んでいる。
たとえば、救命救急処置を行う現場医師が身につけたスマートグラスや、点滴ポールに取り付けた360°カメラ、4Kカメラの映像を、リモートにいる医師へリアルタイムに共有することで、現場(救急処置室)で待機しなければならない医師の数を減らし、なおかつ全体へスムーズで正確な情報共有を可能にするというものだ。現場に駆けつけなくとも、専門科の医師からリモートからの判断や指示も可能になる。
松本氏によると、重症患者が救急搬送されてきた場合、すぐに治療に関われるように救急処置室には複数科の医師やスタッフが集まり、待機することになるという。ただし、患者の状況によって必要とされる処置や検査は異なるため、すべての医師/スタッフの力がすぐに必要になるわけではない。また、現場の人数が増えると情報共有も混乱する。
ローカル5Gを活用して高精細なリアルタイム映像を共有することで、こうした課題が解決できるというわけだ。固定式のカメラではないため、固定された場所でなく、検査室や手術室、あるいは外来病棟など、場所を選ばずに使える点もメリットだと説明した。
「(この取り組みを)スマートグラスを使ってやってみて、救急処置の現場と遠隔地にいる医師がとてもリアルに情報を共有できることがわかった。超音波検査やCT検査、レントゲン写真のモニター映像を、高精細なかたちで遠隔にいる人と共有できるのは非常に良い。たとえば救急外来からでも病棟からでも、CTのモニターに映っている映像を遠隔の専門医師に送ってコロナ感染かどうかをすぐに判断してもらう、そういう情報が伝えられることが大事だと思っている」(松本氏)
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そのほか、午後のセッションではリコージャパン、TeamViewerジャパン、KDDI、KDDI研究所、NTTドコモ、Dynabookといったパートナー各社が登壇し、各社のソリューションや取り組みを紹介した。