IPv6 IPoE 10周年記念ミーティングの締めは豪華メンバーのパネル
コンテンツ、アクセス格差、集合住宅 IPv6普及に向けた次の課題
コンテンツ側のスティックが気になる
各者のプレゼンが終わり、パネルに進む。まずはこの10年のIPoE化の振り返り。
2008~2009年頃、JPIXに所属していた石田氏は、「当時はISPはキャリアに集約されるという危機感があった時期。IPv4とIPv6って直接つながらないんだから、それをエクスチェンジするのが次のIXのミッションじゃないかと考えていた。新しいネットワークを作るにも結局アドレスは足りないんだから、IPv6は必要でしょうと話していたが、結局10年、15年かかってしまった」とIPv6の普及について振り返る。
続いて水越氏は、IPv6前提で設計されたNTTのNGNについて言及。「NGN以前からIPv6自体は使っていたので、感覚的にはもう当たり前の存在。ただ、エンドユーザーに届けるまではハードルはあったし、キラーアプリがない中、これだけ普及したのは増大したトラフィックをさばけたからだと思う」と指摘した。NGN以前から使ってきた経験もあり、NTTもシングルスタックのメリットを享受できており、オペレーションも手慣れてきているという。
これからシングルスタックに進むNTTドコモの伊藤氏は、「設備的に端末からアプリケーションサーバーまでエンドツーエンドで通信できることは確認できたが、オペレーションはまだ決まっていない。まだデュアルスタックのネットワークは多いし、IPv4しか話せない端末もそれなりにある」と不安をのぞかせる。とはいえ、3G、4G、5Gという3世代のネットワークを運用しているつらさがどんどん顕在化しているため、世代を意識して、サービスをシュリンクしていく必要があるという。「断捨離していくのは、このタイミングしかなかった」(伊藤氏)。
そして、続いて望まれるのはコンテンツのIPv6対応。石田氏は、「固定も、モバイルも、すでに対応済みだし、エンドユーザー界面の方もどんどんIPv6対応すべきなのに、コンテンツ側の人はなぜスティックするのかわからない。コンテンツを当たり前にしていくのがこの数年」と指摘する。
コロナ禍に耐えられたのはスケーラブルな設計だったから
IPoEとコロナ禍でのトラフィック増もテーマに当った。「コロナのときにIPoEでよかったとほぼ全国民が意識したと思っている」とコメントすると、水越氏は「確かにIPoEがなかったらどうなっていたか。やはりトラフィック増に応えられるスケーラビリティが大きかった」と応じる。
ISPからのトラフィック増のリクエストにVNEが迅速に応えられたのは、IPoEがシンプルで、VNE事業者の数が少なかった点が挙げられる。水越氏は、「PPPoEでもできるけど、IPoEの方がシンプルで、比較的安価だった。VNEの事業者が多くなかったので話がまとまりやすく、投資判断が速かった」と語る。
JPNEの石田氏は、「やっている立場からすると、増速に際しての運用コストはトラフィックに応じて増えたわけではなかった。人員を増やさないで済んだのは、設計としてスケーラビリティが用意されていたから」と語る。これに関しては、水越氏も「PPPoEのように装置ごとに対応するのではなく、as a Serviceで提供できたので、スピード感はあったと思う」と応じる。
江崎氏は、「スケーラビリティを意識しながら、スモールスタートでやった。これが(コロナ禍で)一番厳しいときを乗り越えられたポイントなのかもしれない。次の十年も大風呂敷を広げながら、スモールスタートしていくことなのかもしれない」とコメント。NTT NGNやIPoEのような固定系サービスでのIPv6の運用をモバイルにも活かせるのではと提案した。
シングルスタック化を進めているNTTドコモの伊藤氏は、「メンバーのやりたくないモチベーションはメチャ高かった(笑)。今、安定して運用できているし、プロセスも全部が壊れる。壊れて新しくプロセスを作るのは大変だし不安。これは理解できる」と語る。その一方で、「この状態でネットワークエンジニアは幸せなのか?という話は、いつもしている」と語る。職人技を持つエンジニアがいつまでもいられるわけではないので、デジタルによる自動化は必要。そして自動化するのであれば、アドレス空間の広いIPv6の方がよい。こうしたロジックでメンバーに説得をお願いしたという。
いったんシングルスタックでの運用がスタートし、デュアルスタックに比べて手間とコストの差が明確になれば、導入は一気に加速するはずと伊藤氏は見込んでいる。そして、成功を味わったメンバーがサービス系の部門に移っていけば、自ずとサービスのIPv6化は全般に伝播するはずだという。