Crystal LEDディスプレーを敷き詰めた、国内バーチャルプロダクションの拠点
ソニーPCLが2月に開設した「清澄白河BASE」を訪問した
2022年03月29日 17時00分更新
ソニーPCLは3月28日、2月に東京・江東区にオープンした「清澄白河BASE」を報道関係者に公開した。クリエイターとともに新たな表現手法を追究していくための拠点として位置づけられている。バーチャルプロダクション技術を用い、大型スクリーンを背景にした撮影ができる国内屈指の常設スタジオだ。
ここで実際に撮影するだけでなく、バーチャルプロダクションのフラッグシップスタジオとして、同種のスタジオを新たに開設したいと考える企業に向けたモデルケース・技術ショールームとしての役割も持たせている。ソニーPCLが持つ、リアルタイムの画像プロセッシング、ポストプロダクション、オーサリングなどの技術とも連携。Crystal LEDなどソニーグループ全体が取り組んでいる最新映像技術が用いられている。また、ソニーPCLが渋谷に持つ、8K編集室とも連動。大型映像を高精細に確認できる場となっている。大型ディスプレーでシミュレーションをしたり、ワークショップを通じてクリエイターと議論したりもできる。ソニーPCLとしては、ここで作成した3D背景のアセットを販売・流通させていくことも想定しており、清澄白河BASEをそのための拠点として活用していく考えもあるそうだ。
ちなみに、名称のBASEには、クリエイターとのディスカッションを通じて、先端技術とクリエイティブが出会い、新たな表現手法を追求し、想像を超えるコンテンツと感動を生み出す拠点という意味が込められている。しかし、目玉である「バーチャルプロダクション」という言葉はあえて用いていない。そこには、バーチャルプロダクションに限らず、新しい表現手法全般に積極的に取り組んでいくというメッセージを含んでいる。
映像制作で話題を集めているバーチャルプロダクションとは?
バーチャルプロダクションとは、自然の風景やセットを背景にするのではなく、大型のディスプレーに投影した高精細映像を背景に演技したり、パフォーマンスしたりする、映像撮影技法だ。映像だけを背景にするのではなく、手前にリアルのセットを作って組みあわせることもできる。
背景と実写の合成という意味では、これまでもグリーンバック合成などの手法があった。バーチャルプロダクションには、背景に何が映っているかを把握しながら演技するため、演者が状況を把握しやすいという特徴がある。また、スクリーンの手前に作ったセットや小物類に映像から自然に光が映り込んだり反射するため、より自然な合成結果が得られ、映像の合成結果もリアルタイムに確認できるため、広告クライアントなど専門家ではない人の立ち会い撮影でも結果を示しやすい。
背景の映像は8K品質の3Dで作成されている。固定の静止画やアングルが決まった動画ではない。撮影するカメラの位置や角度をセンサーで把握し、その動きと連動して背景映像の見え方が変わる仕組みだ。ソニーでは年明けのCESで発表したEVカー「VISION-S」のプロモーションビデオの制作にもバーチャルプロダクション技術を用いている。3Dモデルの準備や専用の機材が必要となるが、ロケ撮影をする場合と比較して、天候を考慮せず日程を組める点や、スタッフや機材の移動時間、移動経費を下げられるといったメリットがあり、撮影の効率化につながるとしている。また、非現実的な仮想世界と組み合わせた、印象的な映像表現の追究もできる。
スタジオの床面積は全体で1430m2ほど。その約半分となる760m2がバーチャルプロダクション撮影が可能なスペースとなっている。湾曲した形で敷き詰められたCrystal LEDディスプレーの弧は約15m(弦で12m)、高さは約5.6mとなっている。画面全体の画素数は9600×3456となっており、8K映像の縦を切り、横に引き伸ばした形だ。Crystal LEDにはいくつかのバージョンがあるが、1800cd/m2と高輝度なタイプでピッチが1.58mmのものを用いているそうだ。表面には低反射コーティングが施されている。
2月のオープン以来、すでにこのスタジオを使った制作が進んでいる。一例としてはSixTONESの「共鳴」「Gum Tape」のYouTube向けプロモーション動画がある。大型スクリーンを背に、設置された大道具の上で現実とは異なる世界でのリアリティを追究した作品となっており、バーチャルプロダクションならではの表現が感じられる。
説明会ではソニーPCL代表取締役の佐藤倫明氏が登壇。バーチャルプロダクション技術をエンターテインメントだけでなく、CM撮影やエンタープライズ領域の映像制作も含めて、幅広く活用してもらうための提案をしていきたいと語った。バーチャルプロダクションは、映画やCMなどの撮影だけでなく、展示などの背景に用いるなどリアル空間に設置に加え、ニーズが増えてきたオンラインイベントなどでも活用が可能だ。