腕時計には様々な形式があり、現代ではスマートフォンと連動する機種など、選択肢が広がっている。腕時計の文化は目下円熟の域にあるのだ。
その中で、古典的形式である「機械式」は電子部品に頼ることなくゼンマイと歯車のみで駆動し、時を告げる。精度(正確さ)は新鋭に比べれば劣るのだが、その差を補って余りある魅力があるのだ。それは一定の寿命が存在する電子機器と異なり、職人の「手作業」による定期的なメンテナンスにより恒久的に使えるということ。一生モノとしてのポテンシャルは絶大なアドバンテージだ。
機械式の魅力は、高級価格帯でなくても享受できる。初心者にお薦めの、多彩な実力派を紹介する。
魅惑の60’sテイストをモダナイズ!
セイコー/キングセイコー
1881年の創業以来、国産高級腕時計の旗手として数々の名作を発表してきたセイコーは、前世紀の半ば世界の趨勢であるスイス時計へのキャッチアップを軸としながら日本独自の本格時計の在り方を強く意識し、数々の最適解を具現化した。その歴史のひとつが1961年、前年の「グランドセイコー」に続き誕生した「キングセイコー」だ。
キングセイコーは国産時計の魅力をよりリーズナブルに提供する新機軸として発動し、時代的なニーズの変化に鑑み生産を終了した1975年まで同社の屋台骨として活躍。今となっては伝説の国産機械式時計の名作が、最新作として令和に再臨となったのだ。それも、限定復刻の類ではなく通常のシリーズとして。
基となったのはキングセイコーのセカンドモデル、通称「KSK」で、オリジナルモデルの特徴である、多面カットを生かした存在感の際立つケースを基盤に、ボックス型の風防や立体的なインデックス、兄貴分のグランドセイコーにも通じる太く堂々とした長い針など、全般にわたり往時のセイコーが成し遂げた独自の意匠がより現代的にフィーチャーされているのだ。とりわけ印象的なのが、重厚なスタイルのラグ。現代の一般的なモデルよりも肉厚の設計で、ポリッシュとヘアライン、2種類の仕上げを巧みに組み合わせることでダイナミックなハイライトを実現。構造的にも重心を低くすることで装着性の向上が図られており、外観、機能性ともども出自が半世紀前のモデルとは思えないほど高度に洗練されている。
このモデルがたんなる懐古調でないことは、ムーブメントに注目しても明らかだ。自社製の自動巻き式Cal.6R31は最新技術によって動力の伝達効率が高められ、フル巻き上げの状態から約70時間の連続駆動が可能。まる3日近くも動き続ける自動巻きモデルなんて、1960年代の当時では考えられなかったことだ。このクオリティで、値段は破格のアンダー20万円。当時の時計ファンが知ったら、驚いて嫉妬するに違いない。
現代の幸運なる時計ビギナーに贈る快作だ。
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