スタートアップエコシステム創出に向けて関西の産学官金41機関が手を組んだ 26の大学発新事業構想
KSAC Demo Day2022レポート
提供: 大阪産業局 KSAC事務局
ものづくり:7プロジェクト
■複雑形状物の色彩・光沢・再帰反射の同時非接触測色システムの開発
大阪市立大学大学院 生活科学研究科 教授 酒井 英樹
従来、モノの色の評価を行う場合、平らで均一な試料を作成して測定する必要があった。しかし各種産業の現場では、製品を壊さずにそのまま測定する必要があったり、天然石材や工業製品のように立体物の色や光沢を測色するニーズが生じていた。本PJでは立体物の色彩、光沢、再帰反射性を数秒程度の短時間で同時に測定する非接触測色システムを開発した。
このシステムにより、これまでは目視で行っていた製品の傷や色むら検査を自動化し、精度の高い品質保証を実現できる。また、陰影を排除できるため、色や質感を安定して確認できる商品写真の撮影が可能になる。この撮影法を規格化できれば、写真写りの良し悪しを考慮する必要がなくなるため、商品購入者にとっては大きなメリットとなる。
商品の外観検査や品質検査向け機器の市場は約7000億円あり、その他関連機器を合わせると1兆円の市場規模となる。ほかにも、EC ビジネスやデジタルアーカイブ事業を展開している事業者に向けて、商品撮影や画像提供のビジネスを開拓していきたい。
■配管自動検査ロボットによるインフラ点検システムの開発
大阪府立大学 大学院工学研究科 教授 金野 泰幸
大阪府立大学 工業高等専門学校 教授 土井 智晴
2021年10月に和歌山で水管橋崩落事故があったように、インフラの老朽化は喫緊の課題となっている。しかし人手不足やコスト高によってなかなか点検が進まない。そこで本PJではインフラ点検の自動化を目指して配管の自動検査を行うロボットを開発している。
開発中の検査ロボットは配管方向の移動だけでなく、回転することによって配管支持部を自動的に回避して進むことができる、段差も乗り越えることができる、鉛直方向にも移動することができるなど、競合製品にない特徴を備えている。
検査ロボットの開発後、まずインフラ点検事業者を対象にカスタマイズを含めたシステム販売を行う。その後標準機の開発を行い、ロボットレンタル業へと事業拡大を進めていくことにしている。
■有価金属や有害金属の除去・回収を可能とする低環境負荷型高性能生物吸着材料の開発
大阪市立大学 大学院工学研究科 教授 東 雅之
都市鉱山からの資源回収や排水などに含まれる有害金属の適切な処理は、資源循環型の社会や安心安全な社会の実現に不可欠な技術と言われている。例えば精密機器の製造に必要な貴金属やレアアースの安定供給は資源の乏しい日本にとって非常に大きな課題となっており、都市鉱山と呼ばれる廃棄物からの有用金属資源の回収技術の確立が求められている。
また、工場排水中の有害重金属には環境基本法で厳しい基準が規定されているが、ppmオーダーの金属処理はいまだ困難というのが現状である。さらに排水処理で発生する有機汚泥の処理にはコストがかかり、排水中の有機物の土壌還元技術が急がれている。
本PJではパン酵母をベースに簡単な化学修飾を加えて重金属吸着剤、凝集剤を開発し、自治体運営の下水処理場やメッキ工場や火力発電所等に販売する事業を目指している。また、海外においても染物業界の排水からの重金属除去や養殖業に対する水質浄化などにニーズがあることが判明しており、海外展開も視野に入れている。
「安全性が高い低環境負荷型の商品であり、今まさに社会が必要としている事業だと 考えている。長年の研究成果で社会貢献していきたい」(東氏)
資源の循環や有害物質の除去はグローバルな課題であり、日本が世界に貢献できる技術分野でもある。本PJが広く世界に実装されることを期待したい。
■アミノ多糖系バイオ凝集剤の微生物生産の事業化検証
兵庫県立大学 大学院工学研究科 教授 武尾 正弘
汚泥や化学物質が混ざった懸濁水はそのまま廃棄すると環境に大きな負荷を与えてしまう。そのため凝集剤による浄化処理が必要になるが、現在一般的に使用されている化学凝集剤はそれ自身に毒性があり、生分解しないものがほとんどで、より安全で環境負荷の低い凝集剤が求められている。
本PJでは、既存の凝集剤が持つ高い環境負荷を解決するために、バイオ凝集剤の開発を進めている。この凝集剤はキトサンに類似の微生物多糖で、生分解性を持つため放置しても問題なく、毒性もない。処理後の汚泥は農業や緑化に利用可能であり、有機廃液からも生産可能なので、一旦大量生産手法を確立できれば、資源の心配なく永続的に供給できる。
まず1~2年で生産性を向上させた後、ベンチャーを起業して小規模生産を開始し、市場開拓を進める。その後、大手企業との共同による大規模生産へと移行する予定である。
■圧電組紐で新しいコミュニケーション体験の創生 YUWAERU?|圧電繊維cを活用したプロダクトおよびサービス開発による新しい体験提案
関西大学 システム理工学部 教授 田實 佳郎
本PJでは、衣類などの繊維素材と組み合わせて使うことのできる紐状のセンサー「圧電組紐」を用いた新たなコミュニケーション形態の開発を行っている。圧電組紐はひっぱりやねじりなどの圧力が加わることによって発電するセンサーであり、例えば衣類に組み込めば別途電源やPC等の設備を必要とせずに脈拍などのバイタル情報取得が可能になる。
この圧電組紐をギフト用リボンやタオルなどのスポーツ観戦グッズに組み込んで、パーティやスポーツイベントなどの「こと」を演出するツールとして活用することにより、これまでにない体験を提供する。さらに衣類に組み込まれた圧電組紐を通じてIoTに不慣れな高齢者をも巻き込んだコミュニケーション空間、メタバースを創出することを目指している。
既に生産工程における帝人、「こと」の企画立案における電通との連携が進んでおり、それに基づいて2023年のベンチャー設立から2026年ごろまでにギフト市場及び体験グッズ市場を開拓していく計画だ。その後に予定しているメタバース開発について、現在はパートナーを求めている段階としている。
■世界平和に向けた廃熱回生発電事業
関西学院大学 大学院 理工学研究科 長谷 智美
本PJは、資源を巡る戦争を回避するため、遍在している熱を利用した発電を行い、化石燃料への依存度を減らしていくことを目的としている。その実現に向けて、日本国内では年間発電量にも匹敵するエネルギー量である「廃熱」に着目し、特に産業界において4分の3以上を占める200度未満の低品位廃熱を回生する技術を開発した。
温度差を用いた発電技術は実用化が進んでいるが、廃熱のような温度変化(揺らぎ)を伴う熱の利用には課題があった。そこで焦電効果を持つ強誘電体に揺らぎを持つ熱を適用して発電を行う技術を開発した。さらに、その発展系としてひとつの温度のみで発電する Isothermal 発電を発明した。(特許出願済)
収益モデルとしてはこの技術を用いた発電装置の製造企業から得られるロイヤリティ収入となる。エンドユーザーは最も多くの低品位廃熱を排出している電力産業及びパルプ産業の事業者で、実際に企業へのヒアリングも行いながら社会実装を目指す。
■シリコンの三次元微細構造を利用したアルカリ金属ガス封入セルの実用化検証
京都大学 大学院工学研究科 清瀬 俊
近い将来訪れるBeyond 5G/6Gの世界では、自動運転システムや分散型アバターの利活用が進むと考えられているが、そのためには世界中で同じ時刻を共有する「時刻同期」の実現が必須となる。そこで注目を集めるようになってきたのが原子時計チップだが、その普及を阻む壁となっているのが基幹部品である「ガスセル」の小型化、量産化技術であり、特にアルカリ金属ガスの効率的生成が課題となっている。
本PJでは汎用的な半導体微細加工装置を用いたアルカリ金属ガス生成技術を開発し、低温、短時間でのガス生成を実現した。
ガスセルは原子時計チップ以外にも慣性センサや磁気センサなどへの応用が可能だが、立ち上がりが早く、手堅い市場である原子時計チップ市場への参入から始めて、その後他市場への展開を目指している。