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リーダー/マネージャーと一般従業員との意識ギャップ、業務IT環境の不十分さなどを指摘

日本でも従業員エンゲージメント、勤務継続意向が低下 ―クアルトリクス調査

2022年02月22日 07時00分更新

文● 末岡洋子 編集● 大塚/TECH.ASCII.jp

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 クアルトリクス(Qualtrics)は2022年2月17日、2022年度の国内事業戦略を説明した。それとあわせて「従業員エクスペリエンス」と「消費者トレンド」の2つのグローバル調査結果も発表した。日本においても「従業員エンゲージメント」や「勤務継続意向」のスコアが低下しており、その改善に向けたアドバイスも行っている。

クアルトリクスの展開するソリューションの一覧。今回はブランド体験管理ソリューションの国内提供開始も発表した

クアルトリクス カントリーマネージャーの熊代悟氏、EX ソリューションストラテジーディレクターの市川幹人氏、CX ソリューションストラテジーディレクターの久崎智子氏

売上高は前年比40%増、日本は増員により多面的に強化

 クアルトリクスは今年で創業20年を迎える。大学向けのリサーチプラットフォームとしてスタートし、その後企業向けの「エクスペリエンス管理(XM)」ソリューションにビジネスを拡大。現在は単一のXMプラットフォーム「XMOS」をベースとして、顧客体験管理の「Customer XM」、従業員体験管理の「Employee XM」といったソリューション群を提供している。2019年にはSAP傘下に加わり、2021年にはIPOも果たした。

 事業概況について説明した同社 カントリーマネージャーの熊代悟氏は、まず2021年度の活動報告としていくつかの数字を紹介した。

 グローバルでは総売上が前年比41%の増加となり、売上高が10億ドルを突破した。リテンションレート(契約更新率)は128%と高く、顧客企業が導入後に活用を拡大していることがうかがえる。ちなみに、同社が分析した潜在市場規模(TAM)は600億ドル。

 国内に目を向けると、2021年は従業員を大幅に増員した。カスタマーサポートは前年比5倍、カスタマーサクセスは同 3倍、XM専門アドバイザーは同 2倍という増員スピードだ。また、グローバルで初めてリセラー(再販)パートナー制度を導入し、日本IBM、日本情報通信、富士通の各社と提携した。ソリューションの採用も、ダイキン工業、パナソニック、富士通などの一般企業に加えて、沖縄市などの自治体で進んだ。

 “XM=エクスペリエンス管理”という概念やその重要性を理解してもらうための活動も、積極的に展開した。自社ブログや寄稿記事、ウェビナーによる情報発信に加えて、ユーザー会、さらにはユーザー企業どうしのコミュニティ「Qonnect」も結成した。グローバルで展開しているCSR活動、5fortheFight(ガン撲滅を目指し、ガン研究者や団体にクラウドファウンディングを行う非営利団体への寄付)を日本でも始動した。

 今年、2022年の活動計画としては、国内データセンターを6月までに立ち上げるほか、国内拠点の拡大(東京本社の移転、関西拠点開設)も進める。また国内におけるパートナーシップの増強とサポート体制の強化も継続するとした。

2022年の国内活動計画

 提供するソリューション関連では、日本国内で未提供の「Brand Experience」「Research Service」「XM Discover」といったソリューション群の国内提供を進める。中でも、XM Discoveryは2021年に買収したクララブリッジ(Clarabridge)の技術を活用し、コンタクトセンターの通話記録からソーシャルメディアの書き込みまで、オムニチャネルの会話データ(非構造データ)をクロールして分析可能にするという。

「XM Discover」は全社およびネット上のすべての会話データを分析可能にする

日本も「大退職時代」へ? 従業員のエンゲージメント、継続勤務意向が低下

 グローバル年次調査「従業員エクスペリエンス(EX)トレンド」の最新版(2022年版)では、主要な調査項目において従業員体験が「低下」していることが明らかとなった。同調査は2021年8月~11月、日本を含む27カ国/地域の正社員およそ2万人を対象に実施されたもの。

 たとえば従業員エンゲージメントのスコアを見ると、日本の結果は37で前年比8ポイントも低下している(グローバルは66で前年と変わらず)。この結果について、同社EXソリューション ストラテジー ディレクターを務める市川幹人氏は、「もともと2019年はこのような(2021年と同じような)感じだったのが、コロナ禍で企業が対応をとったことが評価されて上がっていた。それが一巡して低下したのでは」と分析する。

日本では従業員エンゲージメントのスコアが低下

 現在務める企業に対する「継続勤務意向」についても、2021年は70で前年から6ポイント低下している。米国ではコロナ禍を経て転職が活発化する「大転職時代」のトレンドが指摘されているが、実際にグローバルのスコアも65と前年比5ポイントの低下。市川氏は、厚生労働省の離職率データは下降傾向にある(2019年が9.1%、2020年は8.5%、2021年は8.1%)ことを紹介しつつ、「コロナ禍の不透明感があることから、転職の時期を先送りにしていたのでは」と分析した。なお、継続勤務意向が最も低いのは29歳以下で62、年齢が高いほど継続勤務意向が上がっている。継続勤務意向につながる要因としては「会社の一員であることを実感できる」がトップだった。

「継続勤務意向」は日本においても低下傾向が見られる。特に若年層でその傾向が強い

 これらの結果を踏まえて、市川氏は2022年のEX分野での課題として、以下の4つを挙げた。

●(1)リーダー/マネージャーの対応力強化:
 リーダー/マネージャに対する従業員からの信頼感は、グローバルでは4ポイントアップしている一方で、日本では8ポイントも低下している。

 市川氏は「リモートでバラバラに働いている中で、リーダー/マネージャーには業務の進捗管理や業績評価などの課題が多い」と述べ、リーダー/マネージャーと一般従業員との間の認識のギャップが大きなところが信頼改善のヒントになるのではないかと示唆した。なお、認識のギャップが最も大きかったのは「ダイバーシティとインクルージョン推進の取り組みが進展している」という項目だった。

日本ではリーダーシップへの信頼感が大きく低下した。一般従業員との“意識のギャップ”を埋める努力が必要

●(2)IT環境の整備:
 「社内のIT環境が期待どおりのものになっている」という回答は、日本ではわずか10%。「そうなっていない」との否定的回答が42%を占め、これは中国、シンガポール、韓国などアジアの調査国中で最も高い数字。

日本では、自社のIT環境が「自分の期待どおりのものではない」という回答が非常に多い

●(3)ダイバーシティ&インクルージョンの推進:
 自社におけるダイバーシティ&インクルージョン(D&I)推進の取り組みが「しっかり進展している」と考える従業員は30%、「経営陣がD&I推進に真剣に取り組んでいる」と考える従業員は33%で、いずれもアジアの調査国中で最も低い数字だった。

●(4)ウェルビーイングの充実:
 日本では、ウェルビーイング(肉体的、精神的、社会的にもすべて良好な満たされた状態を指す)のスコアが45と、前年比で16ポイントも低下。一方でグローバル平均のスコアは、前年と変わらず72だった。日本における大幅なスコア低下について、市川氏は「原因を探っているところだが、コロナ長期化により不安を抱えている、多様な働き方がしにくい、などのことが影響しているのかと思う」と述べた。

日本におけるウェルビーイングのスコアは、前年比で大幅に低下

価格に不満=値下げではない

 発表会ではもうひとつ、「グローバル消費者トレンド」2022年版の結果も照会された。これは消費者が企業に望むことを調べるグローバル調査で、今回は2021年9月に23カ国、2万3000人の消費者を対象に実施された。

 発表を行ったクアルトリクス CXソリューション ストラテジー ディレクターの久崎智子氏は、グローバルの調査結果から「エクスペリエンスギャップ」が浮き彫りになったことを指摘した。具体的には、企業の80%が「最高のエクスペリエンスを顧客に提供している」と考えているのに対し、「最高のエクスペリエンスを受けている」と感じている顧客(消費者)はわずか8%にとどまる。

企業と顧客消費者の間では、エクスペリエンスをめぐって大きな意識ギャップが生じている

 このエクスペリエンスギャップがもたらす影響を金額に換算すると、年間で4.7兆ドルもの損失が生じていることになるという。「顧客に良質なエクスペリエンスを提供することができれば、4.7兆ドルもの機会があるとも言える」(久崎氏)。

 消費者側に「企業が改善すべき点」を挙げてもらったところ、最も多い答えはグローバルも日本も「価格・料金」だった。ただし、久崎氏は「この結果を『価格を下げなければならない』と解釈すべきではない」とくぎを刺す。顧客が望んでいるのは「価格に見合ったサービスや製品」だからだ。

 それでは企業はどんな努力をすべきなのか。久崎氏は次の6つを挙げた。

(1)カスタマーサービスを抜本的に見直す
(2)チャネルではなく、顧客を中心に考える
(3)アジャイルを標準に
(4)データからインサイトを引き出す
(5)見えない情報を検知して対応する
(6)「1対多」が「1対1」のように感じられるシステムを作る

 これら6つのポイントに共通するのは「ハイパーパーソナライゼーション」という考えだと久崎氏は説明する。顧客一人ひとりのニーズは異なるものと認識し、それに合ったサービスを提供する「十人十色」だけでは不十分であり、顧客一人の中でも状況によってニーズは常に変化するものととらえて「“十人百色、千色”にも対応できる体制や仕組みを作ることにフォーカスすべきだ」と語る。

 そこで鍵を握るのがXMだが、その取り組みは「アジャイルに進めていくことが大切」だと続ける。具体的には、年単位で進める戦略計画よりもシナリオモデリング、特異なシグナルを検知するスキル、これまでの成功例であっても変えていく体験の破壊、従業員の活性化などに気を配るべきだとした。

顧客エクスペリエンス改善の取り組みも“アジャイル方式”を推奨するとした

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