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ITとデザインの視点でフードロス削減を考えるアイデアソン<イノラボ×多摩美>

文●石井英男、ASCII編集部

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この日だけで終わりにするのではなく、日々考え続けることが大切

 どの発表も短時間で練られたとは思えない、よく考えられたものであり、プレゼンテーションも上手であった。今回のアイデアソンで順位などは決められないが、最後にメンターがそれぞれ以下のような総評をコメントした。

 「おそらく多摩美に所属している方々は、映像とか新聞とかそういったところで食品ロスを目にしていた方が多かったんじゃないかなと思うんですが、ただもったいないなと思うだけで見過ごしていたんじゃないかなと思います。こういう企画で食品ロスについてもう一回深くいろいろ調べると、生産、流通、消費と、いろいろなところでいろいろなステークホルダーが絡み合って、食品ロスという問題の中では、教育や文化まで、あらゆるものがつながっているということを感じていただけたんじゃないか。そういった中で、今回出たいろんな企画や提案はすごく新鮮でした。私も食品関連企業さんや、環境省さん、農水省さんなどとの会議に出たり、プロジェクトを実施したりしています。今日出たアイデアを、もしかしたら、どこかの企業が採用してくれるかも、といったこともあるかなと思っています。このプロジェクトで終わりではなく、たとえば本当に自分で食品ロスを減らせるものをデザインしてみようとか、IT技術を使ってみようという形でつなげていただけると、このプロジェクトの意義がより深まるかなあと思います。ぜひこれで終わらせないようにしていただけると」(フードエコロジーセンター高橋氏)

 「料理をしてみる、持ち寄る、それを持って合流する、教える、育む、楽しむ、大切にするといったような、そういったキーワードが、中心となっているんだなあとみなさんの話を聞いていて思いました。通底しているキーワードというのは、すごく簡単に言うと、スローフードとかスローライフといったような生き方なんだろうなと。そういった関心はすごく大切だし、実は楽しい。あくせくせず、こうやって生活や食を楽しみたいんだよねということを、改めて気付かせていただきました」(大正大学・岡山教授)

 「私は廃棄物専門で、いろんなところで食品廃棄を減らすにはどうしたらいいのかという相談を受けたり、提案をしています。意識が高い人はそれなりに自分で努力するんですが、無関心層にどう訴えるかということが重要なんですね。それには楽しいとか、健康にいいとか、デザイン的に面白いとか、皆さんが提案していただいたアイデアは、今まで関心がなかった人たちに訴えるということにおいて新しい視点をいただけたと思っています。食品廃棄を減らすのが第一ではなく、『それもできるよ』という面白い提案が増えていくと、本当に実効性がある、徐々に食品廃棄を減らしていくことにつながるんじゃないかと期待しております」(帝京大学・渡辺教授)

 「アイデアソンをやってみて、得られたことが何点もあります。一つ目は、多摩美さんと一緒にやらせていただくにあたって、そのアイデアの中にテクノロジー要素が入ってくるかどうか心配していたんですが、実際アイデアには必ずIT要素が含まれていました。社会人のみなさんが引っ張ってくれたことに感謝するとともに、これを機に学生さんにもITに興味を持っていただけるといいなと思いました。二つ目は、高橋さん、渡辺さん、岡山さんに入っていただいたことで、現実の問題に直面した、そこを起点としたものに取り組める場になったことです。例えば、『期限』というテーマのチームでは、野菜の状態を見て期限を延長するアイデアがあったのですが、野菜にはそもそも賞味期限がないことをメンターにご指摘いただき、そもそも食品の『期限』とは何なのかということを含め、食品ロスに対する知識を深めることができたことはとても有用だったと感じています。そして三つ目は、アイデアソン自体の進め方です。通常アイデアソンはアイデアの優劣を争うものが多く、一つのテーマに対していろいろ競い合うものなんですが、新しい試みとして、5つの違う切り口で取り組んでいくことにした結果、とても多様なアイデアが出てよかったなと思ってます。アイデアソンにいろいろご協力をいただいた長井先生、濱田先生にはとても感謝しています」(イノラボ藤木氏)

 「食品ロスと言うとどうしても『課題』と思いがちですが、食品の問題って、衣食住を含む人にとってとても大切なものにつながっているんだなと改めて感じました。食品ロスだけを単独で切り出して解決することはなかなか難しいんじゃないかなということにも気付かされます。その意味では、テーマ設定を含めて、何かと掛け合わせることでその糸口が見えてくるんじゃないかと。その一方で、裏返しなんですけど、視点は面白いけど、本当にこれで解決するのかな、と思えるようなアイデアもいくつかありました。その切り口からもう一歩深く、丁寧にアプローチしていかないと、本当に素敵な解決にはならないんじゃないかなと思います。たとえばテクノロジーで言うと、AIやセンシング、3Dプリンターなどが何か本質的に解決してくれそうな期待感を持ちがちですが、それが普通の生活の中に入っていくとき、テクノロジー頼みではない視点が求められてくるんじゃないか。アイデアソンという時間の中での限界はありますが、そこに関しても考えられるといいかなと思います。皆さんもたぶん、やりきれてない、ちょっとしたフラストレーションみたいなものを抱えていたんじゃないでしょうか。これを継続してつなげていく機会を提供できるかは分かりませんが、せっかくのチームなので、もうちょっとアップデートした形ぐらいまでやりきれるといいんじゃないかと思います。そこに関連して言うと、アウトプット自体の前に、チーム編成を含めたチームビルディングのところから、ここでディスカッションされていたことの中に、一番豊かな芽があるんじゃないか。そういうことも含めて、今日の機会を、大切な学びの機会にしてもらいたいと思いました」(多摩美術大学・永井教授)

 「今日帰り道でコンビニに寄るとアイデアソンに取り組む前とは見方が変わるという方は多いのではないかと思います。特におにぎりエリアを見ると、これまでとはかなり意識が変わる方がいるのではないかなと思います。まずこうしたアイデアソンの機会を提供していただいたイノラボさん、先ほどお礼を言われましたが、こちらこそお礼を伝えないとです。ありがとうございました。僕らがすてるデザインで取り組んでいるのは産業廃棄物の処理のところなのですが、フードロスでも同じような知見が同じ観点で重なる部分が結構あると感じています。とりわけ人の行動変容をどうやって引き起こしていくかということについて、食べ物は人々の関心が元々高いですが、改めて今回フードロスをテーマに取り組んでみて、産業廃棄物よりそうした関心の温度が高いと感じました。ただ、食べ物は身近になりすぎてなかなか動かないところとも言えるため、知恵を使って対応策を講じていかないとならないでしょう。まずは自分の周りからだと思いますが、少しずつフードロスを変えていく意識を持って生活していくと、それが周りの人々に波及して社会を変えるエネルギーにつながっていくのではないかと考えます。先ほど藤木さんもおっしゃっていましたが、アイデアソンの設定条件でそれぞれの提案を離したものにした分、それらを再度集約させて考えていくことで、社会実装できるレベルになるアイデアが出てくるのではないかと感じます。何かこのアイデアソンから先の展開案が生まれましたら、その情報をまた皆さんにシェアしていくような形にしたいと思います」(多摩美術大学・濱田教授)

 最後に、イノラボ、UXDCのお三方にもアイデアソン終了後の感想を訊いた。

 「フードロスの解決を考えるにあたり、”食”だけにフォーカスしがちでしたが、多くの人に目を向けてもらうためには、”食以外の何の要素を掛け合わせる”かが重要であるとアイデアソンで学びました。フードロスを前面に押し出しすぎても人々の意欲につながらず、サービス自体が流行らないこともあるそうです。全く別の要素と掛け合わせ、無関心の人にどう興味を抱いてもらうか。これはフードロスに限らない課題でもあるので、今後もテクノロジーの活用法と合わせて検討を進めたいです」(安崎氏)

 「行動変容というのが一つの論点、大きな話題として出ていて、いかに行動変容を起こすかといったことに対して、いくつかアイデアが出てきたのは良かったなと思ってます。何かを考えるときにそのときユーザーはどういうことを考えるのか、関わらない人たちのことまで視野に入れたアイデアの出し方というのは、デザイン絡みのアイデアの出し方として良い方法だなと思いました」(UXDC澤畑氏)

 「我々としてはサーキュラーエコノミーを実現したいということで、今回のアイデアソンから一般化して、そういう他の視点もやるみたいなことも広げていきたいですし、それに関係するような企業さんや専門家の方ともつながりたいと考えています。興味がある方はぜひ、一緒にやっていきましょう」(イノラボ藤木氏)

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