異分野コラボから生まれた世界初の研究成果がガン患者を救う 動くガン細胞を観察できるマイクロ・ナノ基盤
世の中を変えるためのあの手この手 〜大学発研究開発型スタートアップの挑戦〜 | NoMaps Conference 2021
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北海道を舞台に産官学連携による、次の社会・未来を創ろうとする人たちのための交流の場(コンベンション)「NoMaps」が、10月13日から17日の間、昨年に引き続きオンラインで開催された。多数のカンファレンスから、ここでは「世の中を変えるためのあの手この手 〜大学発研究開発型スタートアップの挑戦〜」をレポートする。
収録は10月15日に小樽商科大学と北海道大学が共同で開設したばかりの、大学等の研究機関から生まれるスタートアップを支援するプレインキュベーション施設「HX(エイチクロス)」で行われた。HXでは、研究開発型の事業創出を加速させる具体的な取組みとして、道内の11大学、4高専、5法人の連携によるスタートアップ育成ネットワーク「HSFC(エイチフォース)」を文部科学省所管の独立法人JSTのSCORE事業として立ち上げ、13件のファンド案件を採択している。
本カンファレンスでは採択案件の一つであり、「工学」と「病理学」の異なるジャンルのコラボで起業を目指す2人の研究者を迎え、事業化のきっかけや今後の目標などを聞いた。司会は小樽商科大学グローカル戦略推進センター准教授の藤江稔氏が務め、支援側の代表として北海道大学産学・地域協働推進機構産学協働マネージャーの千脇美香氏が参加した。
世界初。動くガン細胞を観察できるプレート
最初に藤江氏からHSFCの概要と役割が紹介された。1. 起業活動支援プログラムの運営、2. それを運営する指導・支援人材の育成、3. 起業環境の整備の3つを柱にしており、知の集積が中心となってより良い未来社会を目指し、北海道の新たな産業の起爆剤となることをミッションとしている。支援プログラムとしては、GAPファンド、メンタリング、デモデイを設けている。すでに活動は始まっており、GAPファンドでは13の案件を採択。その一つが今回登壇した、北海道大学高等教育推進機構特任准教授の繁富香織氏と同大学院医学研究院分子病理学教室助教の宮武由甲子氏が共同で取り組む「マイクロ・ナノ基盤」の製品化に向けた起業支援である。
「マイクロ・ナノ基盤」は、患者から採取したガン細胞が微小なマイクロ腫瘍を形成し、成長しながら動き回る様子を立体的に観察できるガラスプレートである。通常の病理学では患者の病態を調べる場合、ガン細胞を薄くスライスして顕微鏡で観察する。しかし、災害に例えると被害後の状態なので、どうしてそうなったのかは推測するしかない。それがマイクロ・ナノ基盤を使用すると、ガン細胞を悪性新生物という名前どおり、ヘビのように増殖する様子を立体的に再現して身体の外で見ることができる。いわばライブ動画で細胞の変化を観察できる画期的な技術であり、病因の解明や治療薬の開発に大きく貢献する可能性がある。
これまで報告されたことがなかった現象がマイクロ・ナノ基盤では次々に発見でき、驚きの連続だったという。生きている膵癌が大きくなる様子を世界で初めて捉えることにも成功した。マイクロ組織レベルの多彩な調査手順が可能になったことで、マイクロ腫瘍の3D画像解析、ドラッグデリバリーシステムへの応用など、新たな創薬の手法を生み出す可能性も出てきた。発表は国内外で大きく報道され、医療や医薬業界からの反響も大きかったという。
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