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遠藤諭のプログラミング+日記 第117回

ブロックdeガジェット by 遠藤諭 025/難易度★★★

B-29爆撃機とテレビゲームの原点アタリPONGの関係

2021年12月15日 09時00分更新

文● 遠藤諭(角川アスキー総合研究所)

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2016年日本科学未来館での「GAME ON」展でのPNOGの展示風景

世界最初のテレビゲーム

 『あっ、発明しちゃった!』(アイラ・フレイトウ著、西尾操子訳)という本を私の編集部で出したのは1998年のことだ。タイトルのとおり世の中のさまざまな商品の誕生にまつわる本なのだが、よくある発明本とは一味違っている。著者の一段深い語り口もなのだが、電子レンジやファクシミリ、ゼロックスなど、ふだんお世話になっているのに由来を知らなかった商品が並んでいて興味をもった。

 電球の発明も「トーマス・エジソンが」とか「いやいやジョゼフ・スワンが」とかではなく、エジソンの前に25人ほどの名前がならんでいる。エジソンが作ったのはガス灯にかわる送電網だったのだ(エジソンに関しては、この本ではもう1カ所《電気椅子の発明者》としてその経緯がくわしく書かれているのだが)。

 しかし、この本の翻訳を出版しようと思った理由は、《世界最初のテレビゲーム》の誕生についての章があったからだ。

 ここでいう《世界最初のテレビゲーム》というのは、1958年にウィリー・ヒギンボサムという人物がつくった「テニス・フォー・ツー」である。「テニス・フォー・ツー」については、『テレビゲーム―電視遊戯大全』(テレビゲーム・ミュージアム・プロジェクト編、ユー・ピー・ユー刊)でかろうじて知ってはいた。

 『あっ、発明しちゃった!』では、この歴史的なゲームがどうやって誕生したか、その背景や経緯が(翻訳本で)9ページにわたっていろんな角度から語られている。

 発明者のウィリー・ヒギンボサムは、原爆開発のマンハッタン計画にかかわりロスアラモスでの核実験の時限装置の設計者でもあった物理学者である。そして、当時の勤務先であるブルックヘブン研究所の一般市民への研究所公開のお楽しみとしてテニスゲームを作った。当時のアメリカは冷戦下の核狂騒のまっただなかにあり、核の平和利用を目的とする同研究所は、近隣住民に対して核ヒステリーを取りのぞきたいと考えていた。

 しかし、研究所公開の展示はつまらないものばかり、そこで、ヒギンボサムは、なにか面白いものは作れないかと考えた。

 自分の仕事場のまわりにあるガラクタをかき集めて設計図を描くのに2時間、配線と調整に2週間かけてできあがったのが「テニス・フォー・ツー」だったそうだ。オシロスコープ用の5インチスクリーンと、ラケットを動かすボタンと把手のついたコントローラが2つ。ボールは直線で描かれたネットにかかって自分のコートに戻ってきたりもするくらいよくできていたと当時の同僚が語っている。

 なぜそんなことが、核物理学者という仕事のおまけでできたのか? 彼には、コーネル大学で物理学を学び、MITでのエレクトロニクスの経験はあった。しかし、同研究所の前に第二次世界大戦で使われたB-29爆撃機に搭載されるレーダーの技術者というキャリアの持ち主だったのだ。そして、スクリーン上の表示を増幅する回路を発明して特許申請までしたという。

 そのB-29のレーダー画面の増幅回路とよく似たものが、彼がテニス・フォー・ツーに使用したアナログコンピューターには使われていた。つまり、ヒギンボサムが、テレビゲームのアイデアを思い付いたのは偶然ではなかった。20年もの間、彼は、テレビゲームの主要な部品を発明してきたようなものだったと『あっ、発明しちゃった!』の著者は述べている。

テレビゲーム誕生の関係図

 残念ながら『あっ、発明しちゃった!』は、いまは版元品切れの状態ではあるのだが(電子版か文庫になると楽しいのだが)。

 さて、世界最初のテレビゲームについて長々と書いてしまったのだが、このテニスゲームが、いくつかの紆余曲折を経て(そのあたりも『あっ、発明しちゃった!』には書かれている)、やがて世界で最初に成功したテレビゲームである「PONG」になる。もっといえば、このPONGが壁打ちになって「ブロック崩し」となり、ブロックが宇宙人に変わって「スペースインベーダーズ」に進化したとされるのは、初期のゲーム好きの方々ならご存じのとおりだ。

 ブロックdeガジェットの25回は、1972年にアタリがリリースしたテレビゲーム「PONG」のアップライト筐体だ。これのモデルになった筐体は、2004年に国立科学博物館で開催された「テレビゲームとデジタル科学展」(私の編集部は図録を作らせてもらった)や2016年に日本科学未来館で開催した「GAME ON ~ゲームってなんでおもしろい?~」(共催、企画・監修として関わらせていただいた)でご覧になった方もおられるはず。PONG自体についての説明は、いまさらながらアップライト筐体の美しさを堪能しながら組み立てた、以下動画をぜひご覧あれ!

ブロックで作ったPONGのアップライト筐体(左)とPACMANのテーブル筐体(右)

 

「ブロックdeガジェット by 遠藤諭」:https://youtu.be/gRqOae-RHfY
再生リスト:https://www.youtube.com/playlist?list=PLZRpVgG187CvTxcZbuZvHA1V87Qjl2gyB
「in64blocks」:https://www.instagram.com/in64blocks/

 

遠藤諭(えんどうさとし)

 株式会社角川アスキー総合研究所 主席研究員。プログラマを経て1985年に株式会社アスキー入社。月刊アスキー編集長、株式会社アスキー取締役などを経て、2013年より現職。角川アスキー総研では、スマートフォンとネットの時代の人々のライフスタイルに関して、調査・コンサルティングを行っている。「AMSCLS」(LHAで全面的に使われている)や「親指ぴゅん」(親指シフトキーボードエミュレーター)などフリーソフトウェアの作者でもある。趣味は、カレーと錯視と文具作り。2018、2019年に日本基礎心理学会の「錯視・錯聴コンテスト」で2年連続入賞。その錯視を利用したアニメーションフローティングペンを作っている。著書に、『計算機屋かく戦えり』(アスキー)、『頭のいい人が変えた10の世界 NHK ITホワイトボックス』(共著、講談社)など。

Twitter:@hortense667

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