元ウォーカー総編集長・玉置泰紀の「チャレンジャー・インタビュー」番外編
首都圏にある里山を巡る房総里山芸術祭「いちはらアート×ミックス」リポート
千葉県市原市で3年に1度開催される、里山が舞台の芸術祭「房総里山芸術祭・いちはらアート×ミックス2020+」が11月19日に開幕。玉置は早速、開幕日に取材してきた。2014年にスタートして、2020年3月に第3回が開催される予定だったが、新型コロナ感染症の拡大に伴い、1年8ヵ月あまりの延期となった。今年の10月に入って、緊急事態宣言が明けるなど様々な緩和が進む中、延期中も準備を進めていたこともあり、遂に、このタイミングで開催されることになった。海外のアーティストの来日は出来なかったが、開会式には国内のアーティストが集結し、秋晴れの中、里山のアートを堪能した。
五井から養老渓谷に伸びる小湊鐡道沿線の晩秋から冬を楽しむ地域アート
展示エリアは、市原市内の中南部で、小湊鉄道沿線に沿う形で、五井、牛久、高滝、平三、里見、月崎・田淵、月出、白鳥、養老渓谷の9エリアと、広域展開・駅舎プロジェクトからなる。同市は北部に工業地帯など市街地が集まり、南の養老渓谷に向かって伸びていくエリアは首都圏では貴重な里山が残っていて、地磁気の逆転現象の痕跡が残っていることから、世界に衝撃を与えたチバニアン(千葉時代)などもある。この芸術祭は、この南に続く小湊鐡道を活かしつつ、沿線でアートを展開するユニークなものとなっている。
北川フラム氏は「この芸術祭は房総半島東京湾沿岸にある工業地帯、ベッドタウンとともにある市原市南部を1917年から走り続け、地域の人とともに動いてきた小湊鐡道を基軸として里山の時間と空間を体験するいわば鉄道(を軸とした)芸術祭の新しい試みです。小湊鐡道とその沿線は、蒸気機関車の発明とともに始まった人類と機械の幸福な時期、農業とコミュニティーが人間の生活と程よく共存できた世界と地域を通して来し方、世界を覗くには格好のプロジェクトです」と説明している。
玉置は今回が初めての参加となったが、北川フラム氏の手掛ける越後妻有の大地の芸術祭や瀬戸内国際芸術祭、北アルプス国際芸術祭、奥能登国際芸術祭などと同様、この土地を読み解く中で、アートを媒介に、土地の成り立ち、文化、リズム、自然、食、気候など実に多様な多層レイヤーを丁寧に重ねて、地域の人も改めて自らの土地を知り、訪れる人たちにも、多くの気づきを与えてくれる唯一無二の芸術祭になっている。小湊鐡道という導線を軸に宇宙や地層、里山の営みなどが切り結ぶクリエイティブは楽しく、まさに、メタ観光の在り方を教えてくれた。
北川フラム氏は、公式サイトの連載で、漸く漕ぎつけた芸術祭開幕について、以下の様に感慨を綴っている。
「房総里山芸術祭 いちはらアート×ミックス2020+が始まりました。感無量です。昨年の三月以降新型コロナウイルスが猖獗を極め、その対処の仕方が右往左往するなかで、人々はどう生きていくかを真剣に考え、食べて生きていくために必死に生きたと思います。いのちに向き合いました。 個人の気持ちの表明、手紙によるアートメッセージ、バルコニー展覧会、映像による仮想美術館の発信等、いたるところで美術は赤心を語り、希望の連帯を表明しました、が、美術の場はぐんぐん減っていきました。美術館、公演、音楽会とともに芸術祭は軒並みに中止、延期のやむなきに至りました。田舎の爺さま、婆さまが他所からの人を拒否するのは分かります。まだまだ地域型芸術祭の目的とそれがもたらす展望と効果を知ってもらわねばいけない、もっと一緒に作業する喜びと、人が来られて感動する様子を見てもらいたいと思います。さらに一層工夫と努力を重ねたいと思います。 さて、オープン当日、ホームで市原市消防局音楽隊ブラスバンドの《銀河鉄道999》が響き、お客様はトロッコ列車の客席からの参加です」
見どころ紹介!北川フラム連載 しっかり毎日とはいかないけれど「ディレクターズ カット」第1号
https://ichihara-artmix.jp/news/archives/3426
玉置が今回巡ってきた展示からいくつかを紹介する。
【広域展開・駅舎プロジェクト】
◎レオニート・シチコフ
“1953年ニージニー・セルギ(旧ソ連)生まれ、モスクワ(ロシア)在住。医大在学中に画家となることを決意。
パスタ、古着などの身近な素材を使ったオブジェ、月のオブジェを世界各地で撮影するプロジェクトなど多くのジャンルで活躍している。
過去のいちはらアート×ミックスでは旧里見小学校で松尾芭蕉、種田山頭火らに捧げた月のオブジェを制作した。”
「7つの月を探す旅」
小湊鐡道の7つの駅にアートを展開。この芸術祭には潜在テーマとして宇宙への憧憬がちりばめられているが、この7つの作品はそれが各駅を通して大きな軸になっている。北川フラム氏は「レオニート・チシコフは7つの桶(実はバケツ)に月を映しています。これは養老渓谷駅のホームにあるチシコフが運んだ月に対応していますが、かれは五井という土地の由来が名刀に向く名水を探した5つの井戸にあるという逸話から引いているのですが、この鉄道が宇宙への旅となるための出発にもなっているのです」と解説しています。
◎西野 達
“屋外のモニュメントや街灯などを取り込んで部屋を建築しリビングルームとして公開、あるいは実際にホテルとして営業するなど、公共空間を舞台とした人々を巻き込む大胆で冒険的なプロジェクトで知られる。”
「上総久保駅ホテル」
上総久保駅にピッタリ隣接した高級ホテル。あり得ない場所のホテルとしては、2011年にシンガポールのマーライオンを使ったホテルプロジェクト「The Merlion Hotel」が世界的に有名だが、2012年には、玉置が審査員を務めた「おおさかカンヴァス」で、中之島公園内のバラ園にある公衆トイレの一部を取り込んで作ったホテル「中之島ホテル」も知られる。今回のホテルでは、すぐにホームに出られる駅と一体型というかつてないもので、部屋の前を小湊鐡道が走っていく。
【平三】
◎冨安由真
“我々の日々の生活における現実と非現実の狭間を捉えることに関心を寄せて創作活動をおこなう。科学によっては必ずしもすべて説明できないような人間の深層心理や不可視なものに対する知覚を鑑賞者に疑似的に体験させる作品を制作。
大型インスタレーション作品では、そこに足を踏み入れた鑑賞者は、図らずも自分自身の無意識の世界と出会うかのような体験を得るかもしれない。”
「The TOWER (Descension To The Emerald City) / 塔(エメラルド・シティに落ちる)」
旧平三小学校。現実の薄い皮膜の下に潜む異世界を直感させる冨安ワールド。2018年の第12回shiseido art eggと、第21回岡本太郎現代芸術賞特別賞で強烈な出会いをした作家の最新作に触れられる幸せ。
【月崎・田淵】
◎磯辺行久
“1935年東京生まれ。1950年代から版画を制作し、60年代にはいるとワッペン型を反復したレリーフ制作し一躍注目を集めた。ワッペンシリーズには大理石を混ぜた石膏でつくった作品のほか、ドローイングやエンボス、プリントなどの作品がある。
1965年ニューヨークに渡り、エネルギーなど環境芸術を学び始めてから作風は大きく変換し、バイオや地質や気象など環境を構成している情報と色彩や形といったアートの伝達ツールを重ね合わせた。”
「養老川を翔ぶ」
田淵の里。磯辺作品とは北アルプス国際芸術祭に続いての遭遇。磯辺によると、養老川はいわゆる暴れ川で、この6000年の間に、幾度となく流れを変え、その浸食によって地形が出来上がってきた。その大地の動きを実感できるように地上にその動きを描くとともに、今回は気球を用意して空から、その全体を見えるようにした。ダイナミックな環境アート。
【このほかの気になった作品たち】
【開催データ】
https://ichihara-artmix.jp/
・会期期間:年12月26日まで
・休場日 :月・火曜日
・鑑賞時間:10時~16時
小湊鉄道五井機関区:9時~17時
市原湖畔美術館:
(火~金) 10時~17時
(土・祝前日)9時30分~19時
(日・祝日)9時30分~18時
・市原での巡り方
市原市に到着したら、まずはインフォメーションセンターまたは各会場でパスポートを購入
インフォメーションセンターは2ヵ所
オフィシャルグッズも販売している
・ 巡り方は大きく分けて3通り
市原市を縦断するローカル線「小湊鉄道」と会場内を周遊する「芸術祭無料周遊バス」の組み合わせ
各会場に設置している芸術祭無料駐車場を利用すれば「車」で巡ることもできる
土・日曜日にはガイド付きバスで各エリアの作品を鑑賞することができる「オフィシャルツアー」も運行
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