元ウォーカー総編集長・玉置泰紀の「チャレンジャー・インタビュー」第19回

インフラの医師であれ! 国土の大動脈を守り続けるNEXCO東日本「高速道路リニューアルプロジェクト」

文●土信田玲子/ASCII、撮影●曽根田元(人物)

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 近年、高速道路の工事が多いな、と感じたことはないだろうか? 実は「高速道路リニューアルプロジェクト」という、史上最大のプロジェクトが進行中なのだ。いったいどんなプロジェクトなのか、普通の補修工事と何が違うのか。そして利用者への影響は? 東日本高速道路(NEXCO東日本)本社・管理事業本部の面々に、この一大プロジェクトの目的や及ぼす影響などについて、元ウォーカー総編集長の玉置泰紀が聞いた。

今回のチャレンジャー/(写真左から)東日本高速道路(NEXCO東日本)本社 管理事業本部 管理事業計画課 係長・髙澤悠輝、保全部保全課 係長・福地大樹、保全部保全課・長坂渉

 「高速道路リニューアルプロジェクト」とは?

――まず、「高速道路リニューアルプロジェクト」の概要を教えてください

NEXCO東日本 高速道路リニューアルプロジェクトパンフレットより

髙澤「リニューアルプロジェクトを行なうことになった背景には、高速道路は誕生からおよそ半世紀が過ぎ、高齢化している事実があります。2015年の時点では、建設後50年を経過した高速道路は1%未満ですが、2030年になるとそれが約2割、2050年には7割を超えると想定されます。古い路線が増えていけば当然、構造物の状態も経過年数に応じて劣化が進行していきます。

 これまでも、点検で発見された損傷度合に応じて補修していますが、老朽化や大型車両の増加などにより、傷んだ高速道路において、補修箇所が増え続けることが課題です。これからも高速道路を、重要なインフラとして維持していくためには、抜本的な補修が必要ということで、2014年に始まったのがこのプロジェクトです」

――経過年数ですが30年で見ても、現在で約4割に達している。これはもう喫緊の課題では?

髙澤「リニューアルプロジェクトの最大の目的は、重要なインフラである高速道路を長期にわたり維持管理していくことです。そういう使命がある中で、点検や更新、修繕を行ない、 その結果どういう状況になったのかを見ていき、インフラをメンテナンスするためのサイクルを回していかなければなりません。この目的を達成するためには高速道路を、今後もその役割を果たせるように維持する、構造物の機能を保持することが必要です。リニューアルプロジェクトによって、構造物の強化と耐久性の向上を図ることができます」

――中長期的なコストの規模は?

髙澤「橋など構造物の劣化状況により変わってきますが、このプロジェクト全体で、事業費はおよそ1兆円規模となっています。」

高速道路の劣化が進む原因とは?

――高速道路が劣化する大きな原因は何ですか?

髙澤「主な要因としては、大型車交通・車両総重量の増加、重量超過車両の通行、飛来塩分や凍結防止剤の散布が挙げられますね」

――通過する地域によっても高速道路の傷み方は変わる?

福地「通過する地域によって、高速道路の環境や外的な要因が異なるため、劣化の状況は変わります。次にお話ししますが、健康診断のように点検調査をしっかり実施して、必要な補修・修繕を行なっています」

高速道路の点検=健康診断! 効率化も重要課題

――その修繕箇所を見つける点検についてお聞かせください

長坂「実はトンネルなど道路を構成している構造物はたくさんあります。それぞれの道路を構成する施設に対して、法律に基づいて5年に1回、 必要な知識や技能、資格を備えた者が、近接目視、触診や打音等により点検を実施しています」

橋梁点検車を利用した近接目視点検

トンネルの打音点検

――打音点検とはどういうものですか?

長坂「点検用ハンマーで叩いて、その音の違いでコンクリートが浮いているところなど、変状箇所を見つけます。変状があると音が変わるんです」

「NEXCO東日本の取組(点検)」

――動画では変わった道具も使われていましたね

長坂「『コロコロeye®』といって、点検ハンマー同様の打音点検用器具で、先端の器具を転がすことで、音を連続でとらえることができ、音の変化を点ではなく線や面で把握できるんです。長さ調節や一度に広範囲の検査も可能なので、点検の効率化にもつながっています。

 点検は365日、ほぼ毎日どこかで行なっています。実際に、この点検がリニューアルプロジェクトの計画につながっていく最初の作業です」 

コロコロeye®の使用例

――その重要な点検ですが、気を付けていることは?

福地「供用している高速道路も増えてきましたし、年数の経過により老朽化した箇所も多くなってきた分、今まで以上に点検に労力と時間が掛かるので、より精度を上げつつ効率化を図ることに、特に気を付けています」

長坂「点検は非常に重要ですね。人間に例えれば健康診断や人間ドックなので、そこはしっかりやらないと。でも同時に効率的なやり方も大切で、点検を行なうのが難しいところは高解像度カメラを使うなど、さまざまな方法で行なっています」

――点検の一番大事なポイントとは?

長坂「まずは現状を正確に知ることです。健康診断と同じで傷があっても、それはどのような対処が必要なのか。医者で例えれば治療が必要か、それとも手術が必要かの見極めですね。それを点検の結果から適切に判断することが、一番大事だと思います。お客さまの安全安心に直結しますから」

――何でもかんでも手術が正しい方策でもないし、患者さんにとっては不要な手術の場合もある

長坂「その通りです。大きな傷の対処をする時に、細かい傷も同時に対処するという効率的なやり方もありますしね」

――逆に一見、元気そうだけど、実は深刻な病気が進んでることも

長坂「鉄筋などは外から見ても分からないケースがあります。内部で腐食している可能性もありますので。開通からの経過年数といった着目点も考慮の上、慎重に点検します。

 要は‟インフラの医師であれ“ということですね」

――まさに国土の大動脈を守る医師ですよ!

車両の重量増、凍結防止剤の影響

――重量のある車両の通行も劣化の一因とのことですが、配送トラックがだんだん大型化・重量化している?

髙澤「例えば、以前は行き届かなかった輸送ネットワークが、いろいろな地方にも張り巡らされるようになり、大型車の交通量が増えています。また車両の重量を決める車両制限令が、1993年に規制緩和されたことによって、車両の総重量も増加傾向にあります」

――重量超過違反は結構多いですよね。私が昔、新聞記者時代に大阪府警本部の交通課担当だった時も、そう感じていました

高澤「重量超過車両の通行が、道路に与える悪影響は大きいです。我々も日々の管理の中で、車重のチェックや取り締まりも行なっています」

――各県警と連携して行なう?

高澤「警察とも連携させていただきながら、グループ会社の専門の部署が担当しています」

――ほか、劣化の要因という凍結防止剤は、道路へどんな悪影響を?

髙澤「我が社は北海道や東北・信越地方などの積雪寒冷地も管理していて、凍結防止剤は主に塩化ナトリウム、いわゆる塩を使いますが、高速道路にある構造物は塩分の影響を受けて劣化してしまいます。

 お客さまに、冬季安全にご利用いただくためには使わざるを得ませんが、橋などの構造物に塩分が浸透していき、内部にある鉄筋が錆びてしまうのです 」

――なるほど。仕方ない一面もありますね

リニューアル工事の内容は?

――大規模‟更新“と大規模‟修繕”の違いを教えてください

髙澤「大規模更新は、劣化が進行している橋に対して床版(しょうばん)を丸ごと替えることなど、大規模修繕は床版を取り替えるほどではないけれど、これまで以上の補修をすること。 床版防水層を施工したり、桁の補強等をして耐久性を確保する工事です。いずれも最新の技術で施工するため、機能が向上し長寿命化を図れます」

――床版取替工事とは?

福地「橋は次の図のように、下からコンクリートの橋脚があり、その上に桁、床版で構成されています。床版とは、橋梁を通過する自動車等を直接支え、その荷重を桁へ伝達させる構造部材のことです。取替工事では古い床版を取り外して、新しい床版を設置します」

――床版防水層の施工とは?

福地「先ほど劣化の原因で、凍結防止剤の影響についてお話ししましたが、凍結防止剤を撒くと、コンクリートの中に塩分を含んだ水が浸透してしまいます。そこで対策として、床版上に高性能な防水層を施工します。これで水を遮断することによって、コンクリート床板に水がしみ込むのを防ぐ、つまり塩分も浸透しなくなるのです」

――コンクリートにも、より頑丈な新素材など進歩がありますか?

福地「現在はプレストレスト・コンクリートが一般的ですね。これは、予め圧縮力を加えることで耐久性を高めたものです。このプレストレスト・コンクリート床版を古い床版と入れ替えていきます」

――建設時は現場打ちのRC床板、供用している区間はPCa床板

福地「高速道路を建設する時は、現場で鉄筋を組み立ててコンクリートを流し込む『現場打ち』と呼ばれる鉄筋コンクリートRC床版(以下RC床版)が多いですが、現在はプレキャストの床版(以下PCa床版)が主流です。つまり、予め工場で製作したPCa床版をどんどん置いていくことで工期を短縮して、現場を効率化しているのです。やはり交通を確保しながらの工事なので、そういった工夫も必要です」

――素材も工法も進化していますね

トンネルと切土のり面の工事の内容は? 

――東日本は、特に山やトンネルが多いので、その修繕も大きなテーマですよね。このインバートなどは面白くて、トンネルがひとつの円のようになっています

福地「そうですね。円形になることでトンネル全体の耐久力が上がり、地盤の膨れ上がりを抑えられます」

――距離の長いトンネル工事は大変そうです。通行止めも必要?

福地「トンネルを造るために山を掘削する工事を、もう一度やり直すようなイメージで大変です。 路面を開削してトンネルの下の断面を削り、インバートという構造物を造るのは非常に難易度が高いですね。

 工事はできるだけ通行止めに至らないように行ないます。トンネルは通常2車線ありますが、片側1車線だけを工事範囲にして、もう1車線は通しつつインバートを半分ずつ施工するようなやり方で、お客さまへの影響を少なくするようにしています」

――切土のり面の対策工事ではどんなことを?

福地「切土のり面を安定させるために、グラウンドアンカーという鋼材が打ち込まれているのですが、その劣化が進行している箇所もあるので、防食性能が高いグラウンドアンカーを増打ちして補強します」

――土砂崩れが発生すると一大事なので、重要な工事ですね

革命的な渋滞回避! ロードジッパーシステム

――高速道路は、国土の大動脈。工事の影響を最小限に止めるための規制や工夫について教えてください

髙澤「先ほど交通を確保しながら、という話をしましたが、なるべく影響が少ない方法で行なっても、混雑する時間帯には、どうしても渋滞が発生してしまいます」

福地「床版取替工事の事例ですと、取り替えの際には、やはり車線規制が必要になります。例えば交通量が少ない区間であれば、車線規制により車線数を減少させても渋滞は起きません。しかし、交通量が多い区間で車線数を減らせば大渋滞を招いてしまうので、ロードジッパーシステムと呼ばれる防護柵を使うことがあります」

――ロードジッパーシステム? それはいったい?

福地「上下線の境目にある移動式防護柵の位置を切り替えていく方法です。その様子がジッパーを開閉する際の動きに似ているので、ロードジッパーシステムと名付けられました。交通量に合わせて、工事の車線規制範囲を自在かつ安全に変えることで、渋滞を抑制することが可能ですし、ブロック状のコンクリート製防護柵でガードされた内側での施工となり、安全性が大幅に増大します。ぜひこの動画をご覧ください​​」

「ロードジッパーを使った車線の切替え」防護柵のパーツがジッパーのエレメント(歯状の部分)のよう。それを滑らかに移動させていく

――本当にジッパーみたい! 革命的ですね

コロナ禍では2班体制でリスク回避も

――大規模リニューアル工事で膨大な人員が稼働すると思いますが、コロナ禍はどんな影響がありましたか?

福地「床版取替は、限られたエリアに集中的に人員を投入して、限られた規制期間、ゴールデンウィーク後からお盆前までといった、交通量が比較的落ち着いている期間に終了させなくてはいけないのです。

 渋滞をなるべく起こさないようにするためには、限られたエリアでの集中的な作業が避けられず、密な空間になってしまいがちですが、そこは現場での工夫です。作業エリアのブロックごとに上手く間隔を取った人員配置や休憩場所を分ける、現場からの直行直帰、連携する作業者たちが同じ車に乗らないようにする、など手を打てる工夫や対策を実施しました」

――これは大変!

福地「傍から見れば、効率の低下を招くことですが、基本的対策の延長として、しっかり行っています。また、もし誰かがコロナに罹った場合を想定して、別班を用意した現場もありました」

――そこまで徹底するのですか

福地「もちろんです。床版取替では床版を一度取り外すので、途中で工事が止まってしまったら道路に穴が開いたままになり、車が通れなくなってしまいます。工事が遅れたまま大型連休に突入し、大渋滞を起こしてはならないので、万が一を考えて、すぐに動ける人員と機械を準備しておくことも必要な場合があります。こうした対策をしていたおかげでしょうか、今のところ工事の大きな遅れは出ていない状況です」

――素晴らしいリスク管理ですね

舗装の損傷メカニズムとその対応策

――最新の話題として、高速道路の表面を覆う舗装についてはどうでしょうか?

髙澤「舗装でも、このような損傷の事例が明らかになっています。舗装は上図のように表層、基層、上層路盤、下層路盤という層に分かれているのですが、表面からの点検や路面の状態を調査し、それらの結果により必要に応じて上部の表層や基層を直していました。

 しかし最近の事例では、何回もひび割れが発生し、毎年繰り返し補修していた箇所があります。詳細に調査したところ上層路盤や、その下の下層路盤に損傷が発生していたことが新たに判明しました。このような場合は、舗装の深いところから抜本的な修繕が必要になることがあります」

――歯医者さんみたいですね。レントゲンで診たら、実は根元の方が大変なことになっていたような

髙澤「ひび割れはどこから入ると思います? 実は下から入る場合もあるんですよ」

――そうなんですか!? 上からだけだと思っていました。新たな問題の発見によって、工事の内容も変わる、ということですね

髙澤「我々はリニューアルプロジェクトの推進をしつつ、交通も確保しながら、さまざまな検討もしていかないとなりません。 調査機器も進化していますので、その結果から新たに分かることもありますし、それはしっかり手当てして直していく必要があります。リニューアルプロジェクトの工事だけに限らず、こういった取り組みをしながら事業を進めていきたいです。このチャレンジを皆さんにお伝えできるように、情報を発信していきたいと考えています。

 よく高速道路を動脈に例えますが、なるべく血流を止めない工事が命題だと思っていますので、いろいろ工夫しながら、新しく発見された劣化の課題に対しても取り組んでいきます」

――リニューアルプロジェクトの内容や、技術革新による点検・施工の進化、安全と交通の確保など、NEXCO東日本の取り組みがよく分かりました

 国土の‟大動脈“である高速道路は、その多くが建設から30〜50年を経て老朽化の一途を辿っている。これに〝対症療法的な補修ではなく更新″を施すのが、NEXCO東日本の「高速道路リニューアルプロジェクト」だ。進化する点検器具や最新工法、道路の交通規制の新技術により、国民の安全な交通確保と渋滞回避に日々創意工夫を凝らしながら進められている、この高速道路史上最大のプロジェクト。その取り組む姿は、まさに“インフラの医師”そのもの。この実情を知っていれば、ついイライラさせられる渋滞にも、少し寛大になれるかも。

LINEで工事&渋滞情報をリアルタイム発信!

さまざまな方法を駆使しながら工事を進めても、どうしても起きてしまう渋滞。それでも、お客さまへの影響を少なくするためにまだできることはあるのでは? というチャレンジから、NEXCO東日本では「高速道路リニューアルプロジェクト」の工事規制と交通・渋滞情報をリアルタイム発信している。

LINE @e_nexco_kanto_kama

※表示内容は取材時のものです。工事の進捗や天候などにより、車線規制の開始日や終了日が変更となる場合があります

髙澤悠輝(たかさわ・ゆうき)●新潟県新発田市出身。平成24年度入社。所沢管理事務所から、山形、仙台の事務所・支社で勤務。関東支社を経て、本社保全課、令和4年5月に管理事業計画課へ。最近好きなことは、1歳半の娘と一緒にアンパンマンを観ることと、休日のイオン巡り。そして、高速道路会社勤務ながら「実は電車に乗るのが好き」でもある。

福地大樹(ふくち・ひろき)●新潟県阿賀野市(旧安田町)出身。平成23年度入社。小樽工事事務所から、八戸管理事務所、関東支社、木更津工事事務所を経て、令和2年7月に本社保全課へ。趣味は旅行とバイクで、特に後者は「NS-1~マグナ~ドラッグスター~TW~バルカンドリフター~グロム」と車歴多数。「最近は、なかなかツーリングに行けないのが残念」とのこと。

長坂渉(ながさか・わたる)●長野県長野市出身。平成28年度入社。関東支社から、福島管理事務所、会津若松管理事務所を経て。令和4年5月に本社保全課へ。趣味はスノーボードで「冬は頻繁にスキー場へ通っていました。最近は夏の趣味を模索中」。

聞き手=玉置泰紀(たまき・やすのり)●1961年生まれ、大阪府出身。元ウォーカー総編集長、現LOVEWalker総編集長、KADOKAWA拠点ブランディング・エグゼクティブプロデューサーほか、日本型IRビジネスリポート編集委員など。座右の銘は「さよならだけが人生だ」。近況は「コロナもなかなか落ち着かない時ではありますが、長崎、佐賀、大阪、国際芸術祭『あいち』などなど、エリアLOVEウォーカー総編集長として全国を回る日々。新しい観光、アスキー流の観光DXを提唱しています!」。

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